第229話 いちゃいちゃ・極
クリスマスの食事といえばチキンやケーキ、ピザやシャンパンなどがパッと思い浮かぶのだけど、それらは昨日のパーティで散々飲み食いしたので、今日はやめておこう。たまにならいいけど、二日連続は飽きる。
そんなわけで、昼食時には小日向が我が家のキッチンに立ち、二人分のオムライスを作ってくれた。予想通り俺のほうのオムライスには『あすか』の文字があり、小日向のほうには『ともき』とケチャップで書かれている。
さらにクリスマス仕様で、俺にはトナカイ、小日向には雪だるまの絵までプラスされていた。
「美味い」
あまり丁寧に料理レビューをするのも苦手だし、なんだか嘘くさく聞こえてしまいそうだったから、率直な感想だけを口にした。
インスタントのコンソメスープを一口飲んで、またオムライスをパクリ。うん、美味い。
そんな俺の反応を見て、小日向はふすふすと鼻を鳴らし、嬉しそうに身体を左右に揺らす。当然隣に座っている俺は、彼女が身体を左に傾けるたびに衝撃を味わっていた。
「ほら、人の顔ばっかり見てないで、お前も温かいうちに食べな。美味いぞ」
「…………(コクコク)」
素直に俺の言葉を聞き入れた小日向は、スプーンで一口分オムライスをすくうと、大きく口を開けてパクリと食べる。小日向の口はちっちゃいから、俺から見ると全力で食事をしているようにも見える。
目を瞑ってもぐもぐと咀嚼して、ぱちりと目を開く。
スマホを操作して、俺と同じ『美味い』というコメントを残した。
小日向はコンソメスープを飲んでから、俺の目をジッと見る。何かを訴えかけるような視線だ。
「どうした? 俺の分も食べたいとか?」
小日向はブンブンと首を横に振った。そして、ニンマリと笑顔になって口を開く。
「智樹も私の顔ずっと見てる」
「…………か――、見ていて飽きないからな」
本当は『可愛いから』と言ってしまいたかったが、俺にはまだ荷が重かった。この至近距離で顔を見ながらとなると、さすがに恥ずかしくなってこたつの中に潜ってしまいそうである。
小日向から顔を逸らしつつ、頭をぽりぽりと掻く。
すると彼女は俺の頬を両手で挟み、無理やり自分の方に向かせた。
「智樹カッコいい」
「…………そんなことないと思うけどな」
「智樹イケメン」
「…………褒めてもなんも出せないぞ?」
「智樹優しい」
「…………そりゃどうも」
なぜかベタ褒めラッシュが始まった。これはあれか? 俺の顔を赤くして、その変化を楽しんでいるのだろうか? 逃れようにも、小日向に顔を固定されているので視線を泳がせることぐらいしかできない。
「智樹は良いパパになる」
「…………だといいな」
「智樹、可愛いときもある」
「…………男として喜んでいいのか微妙なラインだ」
ある程度言いたいことを言い終えたのか、小日向は満足そうにふすーと息を吐く。
そして、ムニムニと俺の頬を弄ったのち、「次、智樹」と口にした。
「え? もしかして俺も同じようなことを言う感じ?」
「…………(コクコク)」
聞いてないぞそんなこと!
たしかに小日向だけが言うのは不公平なのかもしれないけど、それはあまりに強引じゃないですかねぇ……小日向を褒める部分がないわけじゃないけど、こうして待ち構えられている状態で言うのはなぁ。
それに、カップル予備軍である俺たちが、お互いの良いところを言い合うって――いちゃいちゃを通りこしているような気がしなくもない。というか、俺の中ではもういちゃいちゃがどういうものなのかよくわからなくなってきている。
「あー……じゃあ、小日向は可愛――うぷ」
言い終える前に口をふさがれた。当然のように、小日向の口で。
さすがにわかるぞ。これは間違いなく『いちゃいちゃ』している。
数度目のキスともなると混乱はさしてなかったけど、びっくりするからきちんと予告してほしい。いや、予告されたら俺が逃げそうだから、彼女の行動は正しいのか?
だからどうしたって話なんだけどさ。
唇を話した小日向はむふーと満足げに微笑むと、俺の頬に自らの頬を摺り寄せてくる。
もう告白なんて必要ないんじゃないかな……いや、するべきだとは思うけども。
「結婚したい」
小日向は俺の告白を待ちきれず、そんなことを言い出すし……。
きっといまの小日向は暴走モードに突入しているから、時間が経てば少しは落ち着くだろう。さすがにプロポーズは早すぎる。
「気持ちは俺も一緒だけど、とりあえず告白が先。そしてそれよりも先に、小日向が作ってくれたオムライスとコンソメスープを胃袋に収めるのが最優先だ」
温かいうちに食べな――なんて言っておきながら、結局俺も小日向もレンジでオムライスを温めなおすのであった。
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