第227話 サンタさん来た
結局、組み立て終わったジグソーパズルはスマホて写真を撮ったのち、またバラバラにして箱に戻した。さすがにこの大きなツーショットを部屋に飾るのは恥ずかしいし、そもそも額縁がない。小日向も「また遊べる」と崩すことにたいして否はないようだったので、気が向いたらまた一から組み立ててみようと思う。
ジグソーパズルで遊んだあとは、明日に備えて眠ることにした。
体力的には疲れていないけれど、やはり多人数と一緒にいると疲労は溜まる。だからその日は珍しく、小日向の寝息を聞くよりも先に、俺のほうが眠りに落ちてしまったのだ。
で、翌朝。
「…………寝たなぁ」
アラームを仕掛けて寝なかったから好きなだけ睡眠時間を確保できたのだけど、思ったよりも爆睡してしまっていたようだ。時刻は朝の九時五分前。どうやら俺は九時間ぐらい寝ていたらしい。
仰向けになって寝ていた俺は、顔を横に倒して隣にいるうさぎさんに目を向けてみる。
お目めぱっちり状態で、ふすふすしながら俺の顔を眺めていた。
「おはよ智樹」
そして、彼女はそんな可愛い声を俺にかけてくる。まだ頭がしっかり働いていないけれど、なんとか「おはよう小日向」と返すことはできた。小日向を視界にいれたままぼんやりとした思考で今日の予定を思い浮かべていると、小日向が「サンタさん来た」と口にした。
「……え? 俺なんも用意してないんだが……プレゼントは無しって話だったよな?」
俺が何もしていないのにサンタさんが来たとなると、そいつはただの不法侵入者だろう。しかし小日向の嬉しそうな表情を見た感じ、そういう雰囲気は感じられない。
どういうことだろう?
「足見て」
「ん? 足? ――あれ、なんだこれ」
小日向の言葉に従い、布団をめくって足もとを確認してみると、いつの間にか俺は真っ赤な靴下を履いていた。寝る時は裸足だし、そもそもこんな真っ赤な靴下を俺は持っていない。小日向が履かせたのだろうか? なぜ?
「朝起きたら靴下に智樹が入ってた」
「…………その発想は無かったなぁ」
なんという自由な発想だろう。俺のような夢のない固定概念で凝り固まった脳味噌ではその案は思い浮かばない。俺が寝てしまったあとか、朝起きたときに小日向が俺によいしょよいしょと履かせてくれだんだろうな。
小日向はやっぱりすげぇや――と思っていると、彼女はその間に、布団に潜ってからよじよじと俺の身体の上に乗ってくる。馬乗りみたいではあるが、身体はべったりと俺に密着している。相変わらず軽い身体だなぁ。
「サンタさんに智樹もらった」
「ははは……良かったな。小日向の智樹くんだぞ~」
寝起きの弱弱しい声でそう言って、小日向の頭を撫でる。すると彼女は俺の頬を両の手を使ってギュッと挟み、そのままキスをしてきた。唇に。
「――ん? ――んぅっ!?」
突然のことにビックリしてじたばたと身体を動かす。しかし押し退けたら可哀想だし、嫌ってわけじゃないし――と、寝ぼけているわりにその辺りだけはしっかりと頭が回った。
むちゅーと柔らかな唇を押し付けてくる小日向は、なかなかその行為を止めない。初めての感覚に驚いている俺を、逃してはくれない。
目を閉じており、いちおう緊張はしているのか――小日向の閉じた瞼から伸びる睫毛は小刻みにふるふると震えている。
やがて、呼吸の限界が来たので、小日向の肩をタップして息をさせてくれと伝える。鼻で息をすればよかったなぁとその後すぐに気付いたけど、初めての経験なのだから仕方ないだろう。――って、俺は誰に言い訳をしているんだか……。
唇を離した小日向は、むふむふと嬉しそうに頬を緩ませている。
熱くなった顔を覚ますために、俺は自らの額に手を置いた。
「ほっぺとおでこは暗黙の了解って感じだったけど、口と口は恋人になってからじゃないのか?」
恋人になって解禁するまで、お互い我慢してきたんじゃないかという意味を込めて聞いてみる。すると、彼女はコクコクと頷いた。
「今日記念日」
「いや、そりゃそうなるだろうけどさ……」
「クリスマスに付き合い始めたなら、その日にキスしても普通」
「時系列がおかしいんだよなぁ!? 俺まだ告白してないんだけど!?」
「でも智樹今日告白してくれる」
「そりゃするけど……っていうか、こんなネタバレしまくりの告白ってアリなの?」
少なくとも一般的ではないことはたしかだろう。
それが一割なのか、一分なのか、一厘なのかは知らないが。
しかし言葉にしてみると、クリスマスに付き合い始めた恋人が、その日にキスをするのは普通なんだよなぁ……変なところで頭が回る子だ。その頭の回転を少しでも普段の勉強に費やしてくれないものか。
そして当たり前のようにもう一度俺の頬をホールドして、小日向はまた俺の唇に口づけをしてくる。どこにキスをするかに関係なく、おはようのキスはやはり三回のようだ。
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