第223話 ビンゴの景品




 店長が用意してくれたケーキはチョコレートケーキとフルーツケーキで、それらを全員でシェアする形に切り分けた。食事の内容もポテトやチキンなどで、夕食といった雰囲気ではないけれど、色々な人と話しながら目の前の物を食べているうちに、気付けばお腹がいっぱいになってしまっていた。


 パーティが始まって二時間――、時刻はまだ夕方の六時だけど、みな結構疲れてきたようだ。KCCっぽい奴らは貧血気味だし、介護に奔走する養護教諭を見かねて、景一と冴島も笑いながら寝ている奴らの頬を叩いたりして起こしていた。


 ちなみに俺は何もしていない――というかできない。小日向が着いてきちゃうからな。


『ぽんぽんぱんぱん』


 小日向と一緒にソファ席に背を預けて休憩していると、彼女はそんな可愛らしい文面を俺に見せてきた。


「お前は子供か――いや俺も未成年だけど、小学生ぐらいが言いそうなセリフだぞそれ」


『智樹の子供になりたい』


「いやそれはどうなんだ……そりゃ一緒に居られるかもしれないけど、それだと付き合ったりはできないぞ?」


『恋人と子供を兼任する』


「自由だなぁ。固定観念にとらわれていないというかなんというか……小日向らしい柔軟な発想だ」


 というか『恋人になる』と自ら宣言してしまっていることに、彼女は気が付いているのだろうか。俺の告白の意味が本当にあるのか疑わしい。きっかけという意味では大切なことなのだろうけど、返答はわかりきって――いや、どんな反応をするのかはわからないかもな。


 小日向はいつも俺の想像の斜め上を行くから。


 コテンと倒れて俺の肩に頭を乗せる小日向。傍から見たら甘々であることはわかっているけど、彼女の行為を阻害する気分にはまったくなれず、俺は彼女の体重と温かさと、ほんのり甘い匂いを感じながら、周囲を見渡してみた。


 死屍累々である。


「これより、ビンゴ大会を始める」


 威風堂々、といった雰囲気でその言葉を述べるのは、KCC会長の斑鳩いろは先輩。いつの間にか彼女は車いすに乗っており、その傍らには松葉杖をついた白木副会長がいる。


「一位の景品は言わずもがな、二名指名し、その指名した人物同士をキスさせることできるというものだ。二位以下は家電や食品を準備している」


「いやいや一位だけどう考えても異色すぎるだろ!? なんであんたたちは『やはりか』みたいな表情浮かべてんの!? 頭おかしくなったの!?」


 頭おかしいのは元からか! そうだった!


「一位以外の目玉景品は、最新式のドライヤーや国産A5和牛だ」


「いやそこも高校生主体のビンゴ大会としてはおかしいと思うんですけど……」


 尻すぼみに言葉を吐きながら、隣の小日向を見てみる。いつの間にか俺の肩から頭を持ちあげていた彼女は、会長の話に興味津々。恐る恐る「何か欲しいのあるのか?」と聞いてみたら、「キス」と耳元でささやかれた。いっつもしてますやん。


「肉は興味あるなぁ。A5和牛ってよく聞くけど、実際に食べたことないからどんな味か知りたい。というか、パッケージの写真見ただけですでに美味そう」


 そう言いながら、景一が俺たちの元へ歩み寄ってくる。パートナーの冴島は蛍ヶ丘女子の二人と話しているようだった。


「ケーキやらチキンをたらふく食べたあとに、普通食欲湧くか?」


「肉は別腹って言うじゃん」


「どこのおデブさんだ」


 はっはっはと景一が笑っているのは、おそらく一位の景品が他人事だと思っているからだろう。もし俺が一位になったら、お前と冴島を指名してやるからな。


 いやまてよ……? それだと、俺が小日向とのキスを拒んだみたいに思われないだろうか? あれ? もしかして、逃げ道ない?



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 それから俺たちは、ビンゴの進行を押し付けられた養護教諭を除き、大人も子供も関係なく真剣にビンゴゲームに取り組んだ。


 俺も小日向もそこそこ穴が空いているけど、未だ列は一つもそろっていない。小日向はリーチが二つあるけど、俺なんて三つ並んでるのが最高だからな。


「あ、当たった当たった! はいはーい! 私上がりでーすっ!」


 そして、ついにビンゴ者が出た。一位の権利を獲得したのは、蛍ヶ丘女子の一人。

あぁ……彼女もKCC会員だろうから、リクエストするのはどうせ俺と小日向なんだろうな。


 そんな俺の考えを肯定するように、彼女は片目を瞑り、空いたほうの片手で『ごめんね』と俺にジェスチャーを送ってくる。俺は苦笑することでそれに応じた。


 まぁキスとはいっても、口と口でしろとは言われなかったし、どちらかが頬に口を付けたらそれでいいだろう。


 ビンゴが当たった彼女は、斑鳩会長の元に歩みより何かを話している模様。


 話を聞き、しばらく腕組みをして目を閉じた会長は、ゆっくりと大きく頷く。そしてなぜか、顔を赤らめて挙動不審になっている冴島に向かって親指を立てるのだった。



~~作者あとがき~~


ついに一巻でました!そして本日、カクヨムトップページにも出ました!

KCCの広がりが止まらないぜぇ……

感謝の言葉を書きたいけど長くなりそうなので近況ノートに書くことにしました。

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