第222話 デスゲームでも始めるつもりか
会長が用意したコスプレ衣装の数は全部で四着。
トナカイの衣装と、雪だるまと、ミニスカサンタと、普通のサンタ。小日向は即決で雪だるまを選択したため、俺は彼女に合わせてトナカイの衣装を選んだ。
景一がミニスカサンタになる光景も見てみたかったけれど、冴島がミニスカサンタになることに肯定的だったため、残念ながら親友の女装を笑うことはできそうにない。無礼講とはならなかった。
女子たちよりも早く着替えを終えた俺と景一は、一足先に皆がいる場所へ。すると、こちらに気付いたパーティの参加者たちがわっと集まってくる。
「あははははっ! めちゃくちゃ二人とも似合ってるね!」
「杉野智樹くん、あなたは神の着替えを覗かなくてよろしいのですか?」
「ふむ……今度その姿で接客させてみるか」
「唐草くん、その姿でゲレンデを滑れば人気者になれますよ!」
蛍ヶ丘女子に始まり、白木副会長、店長、時田さんが俺たちの服装に感想を述べていく。目の前にいるのは女子四人――話す言葉は勢いのあるものだったけれど、俺の身体に一切の不調はなかった。
鳥肌も、吐き気も、目まいがするようなこともない。
俺の女性に対する苦手意識は、もう完全に克服したと言っていいかもしれないな。
コスプレを身に着けるということに関しても、景一が一緒だということや、見られる人数が限られているということからあまり恥ずかしさは感じない。というか、たぶんみんなが注目するのはトナカイでもなくサンタでもなく、雪だるまだろうからな。
まぁ景一だけは、自分の彼女を見るのだろうけども。
「おっまたせー!」
やがてそんなキラキラした声とともに、ミニスカサンタとなった冴島と、雪だるま姿になった小日向がやってきた。
冴島が着替えているサンタの衣装は、ミニスカといってもそこまで露出が激しい物ではない。へそ出ししているわけでもないし、上着はポンチョのような形をしており肩を覆っている。そんなわけで、肌色面積は比較的少なめだ。
で、小日向のほう。
彼女は登場するなり腰に手をあてて「どうだ!」とでも言いたげに俺にどや顔を向けてくる。まさに『ボンッキュッボン』という感じだけど、雪だるまであることを考えると色気はない。
頭にはシルクハットみたいな黒い帽子が乗っており、首には赤と緑のマフラーが巻き付けられている。モコモコして暑そうだけど、肩から先、そして膝から下は素肌が見えているので、実際はちょうどいいぐらいなのかもしれないな。
テコテコとこちらに歩いてきた小日向は、俺にかがむように指示し、俺が頭に付けている角の付いたカチューシャを触り始める。
「付けたいのか?」
「…………(ブンブン)」
「触りたかっただけ?」
「…………(コクコク)」
「まぁ別にいいけど――ってコラ! 何を自然にキスしてんだ!」
ふんふんと鼻を鳴らしながらトナカイの角やら俺の髪やらを触った小日向は、まるで「そこにほっぺたがあったから」とでもいうように、躊躇いなく口づけをしてくる。
「……お前はとうとう人目を全く気にしなくなったなぁ」
『バレてない』
「ほう……俺が見る限り、すでに倒れているやつが三人と、鼻にティッシュを詰めているやつが五人いるんだけどなぁ」
そんなことをぼそりと呟くと、小日向はコテンと首を傾ける。どうやら自分のしでかしたテロ行為を理解していないらしい。
景一と冴島はお互いの感想を言い合っており、二人だけの世界に入っているような感じである。そして店内の端のほうでは、白目をむいて倒れている白木副会長の横で、養護教諭が会長に心臓マッサージを施していた。あ、生き返った。
「あのな小日向、今日はあそこでいちゃついている景一たちだけじゃないから、少し控えめにしておこうな?」
「や」
まさかの一文字返答である。そしてその一文字で、大学生二名と蛍ヶ丘女子二名が地に伏した。静かに地面に崩れ落ちた四人を見て、養護教諭が絶望の表情を浮かべている。
彼女は俺に目を向けて、懇願するように首を横に振っていた。これ以上は止めてくれ――そんな心の声が聞こえてきそうだなぁ。とりあえず、すみませんと頭を下げておく。
「――杉野二年、そして神よ」
そんな折、無事に蘇生した会長と副会長がお互いの身体を支えながら、こちらに歩いてきた。鼻には当然のように赤いティッシュが詰められているから、鼻声だ。
生徒会の二人は俺を真っ直ぐ見ている。たぶん小日向を見ると耐えられないんだろうなぁ。
「……パーティを、始めようか」
デスゲームでも始まりそうなテンションで言うんじゃねぇよ。
~~作者あとがき~~
福岡住の私は、明日店頭で小日向さんを拝むことができません……(´゚д゚`)
関東勢いいなぁ……たぶんこっちは二日ぐらい遅れるんじゃなかろうか……(´・ω・`)
もしツイッターで購入報告とかするKCCがいましたら、作品名か私の名前入れてくれたらエゴサします(゚∀゚)
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