第221話 ミニスカはダメ




 俺が普段ともに過ごしている三人に加え、生徒会から二人、蛍ヶ丘女子が二人、アラウンドで会った大学生二名。俺を含めて学生の参加者は十名で、それ以外にはスキーのインストラクター、養護教諭、店長といった感じだ。


 俺にとっては全員見知った人たちであったけど、全員が揃ったところで改めて全員自己紹介した。大学生の人たちや蛍ヶ丘女子の名前も知らなかったから当然と言えば当然なのかもしれないけど、相手は完全に俺たちのことを把握しているようだった。一歩間違えたらストーカーだぞお前ら。


 閑話休題。


 店内のテーブルは普段の営業時とは違って、パーティ使用に配置されてある。具体的に言うと、六人座れるようにくっつけられたテーブルが三つあるような感じだ。

テーブルの上に並べられている食器を見た感じ、どうやら四名、四名、五名で別れるようであり、桜清学園二年は中央のテーブルに付くように言われた。


 景一と冴島にソファ側を譲ってもらったので、手を繋いだままの小日向を連れてソファに腰を下ろす。そのタイミングで、問題児筆頭――桜清学年生徒会長にしてKCC会長の斑鳩いろは先輩が声を掛けてきた。


「本当は君たちクリスマスプレゼントを渡したいところだったのだが……すまない。会議によって今回は無しということになった。その代わりといってはなんだが、ビンゴ大会の景品は我々が準備しているから期待してほしい」


「いや、それは俺たちも何も用意していないから気にしなくていいんですが……というかビンゴ大会? 初耳なんですけど」


 どちらかというと、俺たちが主催側なのでは? 会長たちは呼ばれた側ですよね? なぜ俺たちよりパーティの内容を理解しているんだろうか。『KCCだから』と言われてしまえば苦笑して納得するしかないけども。


「サプライズの一環だな。君たちに使用する予算は明日――コホン。なんでもない」


「すげぇ微妙なところで切りやがりましたね」


 この人たち、また花火でも打ち上げるつもりじゃないだろうな……。さすがにあんな莫大な金額が動くようなイベントを何度もするとは思えないけど、この人たちならやりかねない。しかし、彼女たちのこれまでの行動から考えても、邪魔になるようなことはしないだろう。どちらかというと、ありがたいわけだし。


 会長と話している俺の隣で、小日向は俺の手を握ったままソファの柔らかさを堪能するように上下に跳ねていた。おそらく自分には関係ない話だと思っているのだろう。


 そんな小日向に、会長が声を掛けた。


「こ、小日向たん――ではなくて小日向二年。実は君のため――ではなくてパーティを楽しむために、我々がクリスマスにちなんだサンタやトナカイなどの衣装をたくさん用意している。も、もし気になるなら着替えても構わないぞ?」


 かなり怪しい勧誘だが、俺の予想通り小日向は興味深々と言った様子で会長の話をコクコクと頷きながら聞いている。会長だけでなく、会長の背後に佇んでいる白木副会長の口からも「うへへ」「ほほっ」という女子高生らしからぬ声が漏れ出していた。


「また変な誘いを……小日向、どうしたい?」


『衣装見て決める』


「そっか。あ、あの、あんまりこう……ミニスカみたいなのはできれば止めてほしいというか――」


 小日向が着たいのならばその気持ちを優先すべきだとは思うのだけど、彼女のいる景一はまだしも、あまり関わりのない大学生の二人もいることだし、あまり露出が激しいような衣装は着てほしくない。自分でも面倒な独占欲だなぁとは思うが、口にしないほうが後悔しそうな気がしたから。


 小日向はそんなしどろもどろな俺の言葉を聞くと、ニマニマと満面の笑みでこちらを見上げてくる。うっ……その「智樹、嫉妬してる~」的な顔を止めなさい!


『智樹が着てほしいの着る』


 むふむふと嬉しそうにしながら、小日向は俺にそんな文面を見せてくる。あんたは楽しそうでいいですねぇ! 頭突きぐりぐりやめなさい!


「……変なの着せるかもしれないぞ?」


『智樹が喜ぶならいい』


「…………ったく、俺の負けだよ。そうまでして俺を照れさせたいかねこの子は」


 人差し指で小日向の頬をうりうりと突きながら言うと、小日向は目を細めて気持ちよさそうな表情を浮かべる。無敵かこいつ。

 そんないちゃいちゃと言われても仕方のないやり取りをしていると、正面に座る景一が冴島と会話を始める。


「智樹って意外と独占欲強めだよなぁ」


「杉野くんだけじゃなくて、明日香もだけどねぇ」


「たしかに。じゃあやっぱり相性抜群ってことか」


「うんうん。というかこの二人が別の人と一緒にいるのが想像できないかも」


 内容は俺たちに関してのことだけど、二人の中で会話が完結しているようなので、無理に会話に参戦しないことにする。というか、変にツッコんだらからかわれることが目に見えているからな。


 その会話は俺だけでなく、小日向の耳にも届いていたようで、彼女は真剣な顔でスマホをポチポチと入力し始めた。そして、俺に画面を見せてくる。


『智樹もミニスカ着ちゃダメ』


 それは独占欲云々の問題じゃないだろう……。

 ツッコみどころ満載の言葉だったけど、小日向はいたって真面目な顔をしているので、俺は「着ないよ」と言葉を返すのだった。



~~作者あとがき~~


ツイッター&スニーカー文庫さんのHPにて、

小日向さんの試し読み漫画が公開されております(/・ω・)/

めちゃ可愛いので気になる方は見てみてください( *´艸`)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る