第219話 二人で一冊の本を読む場合
パーティが行われる俺のバイト先【憩い】に集合するのは、夕方の四時。バイトの時は自転車で移動するけれど、今日は小日向がいるのでバスで向かうことになっている。ちなみに現地集合なので、景一たちとは今日まだ連絡をとっていない。
家を出るのは三時半ぐらいでいいとして……あと二時間ぐらい余裕があるんだよなぁ。
せっかくだからクリスマスイブらしいことをしたほうがいいのではないかと思うのだけど、残念ながら友人たちとバカ騒ぎした記憶ぐらいしかなく、俺の知識では小日向が喜んでくれそうなイベントを供給できそうもない。
いやでも、今日は朝雪だるまを作ったし、この後は喫茶店でパーティをする。それに明日はエメパで夜景を見るという予定はいちおう立てているのだ。そのこと自体、小日向も楽しみにしてくれている。ただ、隙間時間になにをするか決めていないだけなのだ。
現在小日向は、いつも通りあぐらをかいた俺の足の間に挟まって、シートベルトのように俺の腕をお腹に巻き付けている。足はこたつの中だ。
彼女は外着から部屋着(うさ着ぐるみ)に着替えているので、触っている俺も温もりを感じる。小日向の頭は右側に、そして俺は左側にそれぞれ傾けている。そうでもしないと俺の鼻と小日向の後頭部が激突してしまうからな。
昼食後にひと息ついていたところ、小日向が俺の手を叩いて何かをアピールしてくる。手元にスマートフォンがあるから、おそらく何かを打ち込んだのだろう。
『漫画読む?』
「あー、親父からのプレゼントのやつか」
うーむ……たしかに他の代替案といえばゲームぐらいしか思いつかないし、この後予定があることを考えると、ゲームと違って片づけが不要な読書はいい案かもしれない。読みたい読みたいと思いながら、まだ見てなかったしな。
「小日向はそれでいいの?」
「…………(コクコク)」
「よし、じゃあ部屋に取りに行ってくるよ。とりあえず二冊だけ持ってこようか」
俺はそう言うと、小日向のお腹から手を離して立ち上がる。すると、なぜか小日向も俺と一緒に立ち上がった。なんで?
「ん?」
どうしたんだろうか? トイレでも行きたいのかな? と首を傾げていると、小日向は俺の背後に回って抱き着いてきた。先ほどまでとは立場が逆で、今度は俺のお腹に小日向の手が置かれている。
彼女は俺を左手でホールドした状態でポケットからスマホを取りだすと、俺のお腹の前でスマホをポチポチ。画面は見えてないはずだが……よく入力できるなぁ。すごい。
『ともきはにげられない』
「急なホラー展開止めなさい。……ついてくる?」
『こたつキル』
怖いよその変換……我が家の大事な憩いの場をキルしないでほしい。
とりあえず、小日向の文面が誤変換だと信じてこたつの電源を足で切り、二人で室内ムカデ競争を開始。いや、競う相手もいないんだけどね。
のそのそと寝室へ移動して、本棚から目当ての漫画を二冊確保。
リビングに戻ろうとすると、小日向から待ったがかかった。
「どした?」
「……ベッドで読む」
「ふむ、お互い寝られる状態の服だし……了解」
こたつで読もうとした場合、小日向は俺の足の間に挟まって読むことになるだろう。ベッドで読むとなると……フレームに座って読むのか? それとも、うつ伏せになって並んで見ることになるのだろうか?
どちらにせよ、密着して読むことには変わりないんだろうなぁ。
小日向が喜んでくれるのならば――せっかくのクリスマスイブだ。可能な限り彼女の要望を受け入れることにしよう。
はいどうも杉野智樹です。十七歳になったばかりの高校二年生です。
つい五分ほど前に「彼女の要望を受け入れる」と決意を固めたものの、早くも心が折れそうになってしまっております。相変わらず小日向は俺の予想の上を行くのが大好きなようで、俺はその度に顔を引きつらせて「マジで言ってる?」と言葉を漏らしてしまうのだ。
『智樹が上』
ベッドでうつ伏せになった小日向は、その文面が書かれたスマホを設置して、両手で漫画本を持っている。ちなみに彼女のいる場所は、ベッドのど真ん中であり、俺を隣にこさせないためなのか、足をぱかりと開脚している。
「……マジで言ってる?」
「智樹、何でもするって言った」
「言ったけどさぁ……」
まさか小日向に覆いかぶさった状態で本を読めと? いや読みづらくない? 小日向はのしかかる俺の体重に耐えなければならないし、俺は俺で小日向に負担がかからないよう、身体全体を強張らせて読書をすることになってしまう。
『私が上でも可』
どちらかというとそっちのがマシかな……そんな結論に至り、俺は小日向を背に乗せた状態で、読書にいそしむこととなったのだった。
~~作者あとがき~~
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