第218話「智樹、なんでもするって言った」



 道行く人に微笑ましい視線を向けられながら、俺たちはマンションに戻ってきた。

途中、自販機でホットココアを購入した。交代で手を温めてから、これまた交代でココアを飲んだ。


 交際経験がない俺は当然ながら、女子が口を付けた場所に自分の口を重ねることに抵抗はあったのだけど、小日向から『歯、ちゃんと磨いてる』と見当違いのことを言われてしまったので、俺は笑ってココアを口にした。


 俺がココアを口にすると、小日向は繋いだ俺の手をギュッギュッと握ってから、こちらを見上げてにんまりと笑う。相変わらずというか愛変わらずだな――と、恥ずかしいことを頭に思い浮かべたことは、ひとまず心にしまっておくことにしよう。



 家に帰宅して、俺たちは上着を脱いで手を洗い、数分かけてまったりモードへと移行する。


 俺はジャージだったからいいけど、小日向は外着だったので、俺の部屋に置いていたうさぎの着ぐるみ(パジャマ)に着替えた。それぞれリラックスした状態で、リビングのこたつに並んで座り、インスタントのホットコーヒーを飲む。俺も小日向も、量こそ違うがミルクと砂糖入りだ。


「ふー……手があったか~」


 こたつに手を突っ込んで俺が呟くと、右隣の小日向も俺と同じような姿勢になって「あったかあったか」と小声で言う。子供が大人の真似をしているみたいで可愛い。


 それから小日向はテーブルに頬をくっつけて、こちらを見上げる。


「どした?」


「…………(ブンブン)」


 特に用事はないらしい。視線の先にたまたま俺がいただけかな。


「朝ご飯はどうする? まだ食べてないだろ?」


「…………(コクコク)」


「コンビニに買いに行ってもいいけど、小日向は着替えたばかりだしなぁ……」


 帰りにコンビニに寄ってなにか買うべきだったか――なんてことが頭に浮かぶ。手遅れすぎる。


「うちにはシリアルとかカップ麺ぐらいしかないけど、どうする? あとは冷凍のうどんとか冷凍のチャーハンとか」


 俺と違い小日向は料理ができるのだけど、残念ながら我が家には料理に使えそうな調味料や食材――そして調理器具がほとんどない。小日向と結婚したら、俺はおとなしく他の家事を担当させてもらうことにしよう。やれと言われたら努力します。


『おうどん食べたい』


「オッケー。肉うどんと丸天うどんがあるけど、小日向はどっちがいい」


『智樹と半分こする』


「ははっ、了解」


 以前までは「二つの味を楽しみたいのかな?」と思っていたけど、最近はなんとなく、ただ俺とシェアしたいだけなんじゃないかと思うようになってきた。勘違いだったら恥ずかしいから、口にすることはないが。



 二人でうどんの入ったうつわを交換しつつ、地方のロケ番組を見ながらちゅるちゅるとうどんを食べた。小日向が皿洗いを担当してくれたので、俺はその間にテーブルを拭いたり、軽く部屋の掃除をした。


 で、食器洗いを終えた小日向がこたつにテコテコと戻ってきたので、そのタイミングで俺もこたつに戻る。電気は付けたままにしていたので、温もりはそのままだ。


『同棲してるみたい』


 一息ついたところで、小日向がスマホでそんなことを俺に伝えてくる。

ふむ……実際毎週お泊まりしているし、半同棲みたいなもんなのかもなぁ。半同棲の定義を知らないから、何とも言えないが。


「俺たちは順番がめちゃくちゃだけどな――普通は付き合ってから泊まったり、キスとかしたりするもんだと思うんだけど?」


 少なくとも、付き合っていない男女が同じベッドで寝ることはそうそうないはずだ。おはようのキスとおやすみのキスも、カップルや夫婦がすることだと思う。


『キスはまだ』


「あー……まぁそうだけど、デコチューはもう数えきれないぐらいしてるだろ」


『付き合ったカップルはキスする』


「ま、まぁ一般的にはそうだと思います」


 ぐいっと顔を近づけながら言われたので、俺は少し後ずさってしまった。その一瞬の隙を小日向は見逃さず、あぐらをかいている俺の太ももに手を乗せ、さらにこちらに近づいてきた。


「智樹も付き合ったらキスする」


 なんだその占いみたいな宣言は。もしくは命令か?


「あー、いやー……それはそうかもしれないけど、キスってやっぱり付き合ってからそれなりの期間を要する必要があるかも――」


 視線を明後日の方向に逃げさせつつ、そんなことを言っていると、小日向は俺の耳元に顔を寄せて、ささやくような声で言う。


「……智樹、何でもするって言った」


「…………言ってしまったなぁ」


 こんなに可愛い声で言われてしまえば、たとえそれが無茶苦茶な理論であろうと、折れない人間なんているはずがないだろうに。



~~作者あとがき~~


発売日がせまってきてドキドキの作者です。

そしてツイッターに編集もも氏が参戦してドキドキの作者です(笑)

そんな彼女ももちろんKCCの一員(笑)


ちょうどこの小説の更新時間に、スニーカーさんの公式ツイッターで小日向さんが紹介されるので、もしよかったら見てみてください!特設ページなんかもありますよ!

つまりこれはKCC拡大の時――!


そんなわけで、もしツイッターとかやってる方がいらっしゃいましたら引用リツイートやリツイートで拡散の

ご協力をお願いします~m(_ _"m)(気が向いたらでいいですからね(*'▽'))


※KCC全員が喜びそうなものが、近々ツイッターにアップされます。

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