第217話 心はぽかぽか
~~作者前書き~~
この話はいつもと比べて少ししっとりのお話
普段とちょっと違ういちゃいちゃをお楽しみください!(*'ω'*)
布団に潜った小日向が、外に出ようと俺を促すのにそれほど時間はかからなかった。どうやら俺と一緒に雪だるまを作りたいがために、道中で雪を触るのを我慢していたらしい。
相変わらず無自覚に俺の心を跳ねさせてくれるものだなぁと頭の中で笑いながら、俺は外に出るために身支度を整えた。近所の公園だし、ジャージにダウンを羽織るだけにした。
ふわふわと雪が降り注ぐなか、マンションから五分ほど歩いて、俺と小日向は目的の公園に到着。
サッカーどころかテニスをするのも厳しそうな広さのその敷地に、人気はない。
しかしまっさらな雪の上に、小さなサイズと大きいサイズの二つの足跡があった。おそらく近所の親子が、俺たちと同じようにこの公園に遊びに来たのだろう。水飲み場の脇に、小さな雪だるまが作ってあった。
俺があげたプレゼントは、しっかり彼女の頭と手を凍てつく寒さから守っており、彼女から貰ったプレゼントは、二人の首を包み込んでいる。お互いがお互いを守っているようで、なんだか温かい気持ちになった。
「手袋つけた状態だとべちゃべちゃになっちゃいそうだけど、どうする?」
俺が彼女に上げた手袋は、水をはじくような材質ではない。多少触るだけなら問題ないだろうけど、雪だるまを作るという作業には不向きだろう。
『汚したくないから外す』
「そっか。タオルを持ってきているから、ハンカチじゃなくてこっちを使おうか」
肩から下げたトートバッグを叩いてそう言うと、コクコクと頷いた小日向は手袋を外して、俺の持つトートバッグに収納する。その際に、俺の目を見て『入れていい?』という感じで首を傾げるのがまた可愛い。もちろん良いですよ。
公園にある遊具は、滑り台ひとつに高さの違う三つ並んだ鉄棒、それから支柱がばねの用になっていて、前後にうごく乗り物が二つ。あとはせいぜい砂場ぐらいなものだ。
中央にはテーブルと椅子のある東屋があって、公園の隅にはベンチが合計四つ。
もしかしたら小日向も幼少期はこの公園に遊びに来たりしたのかなぁと思いながら、ついさきほどまでやわらかな手袋によって守られていた彼女の左手を、代わりに俺のぶこつな手で握り、歩き始める。
シャクシャクと音を立てる雪の感触を楽しむようにしながら、俺たちが歩く先にあるのは二つならんだベンチ。地面の雪は砂も一緒に混じってしまうからあまり綺麗とは言えないが、ベンチの上は綺麗な雪だけが残っている。見た感じ、二センチぐらいは積もっているから、雪だるまを作るには十分だろう。
二人でベンチの前にしゃがみ、雪を手に取る。
「うっ……さすがに冷たい」
心臓に身体全体が引き寄せられるように、思わずギュッと身体を縮める。そんな俺の横で、小日向は平然とおにぎりでも作るように雪を固めていた。横顔を見てみると、どうやら冷たさよりも楽しさが勝ってしまっているような感じ。
「よく平気だな小日向……寒くならない?」
「心ぽかぽかだから」
彼女の視線は手元の雪に向けられており、身体は左右に嬉しそうに揺れる。普通に返答してきたなこのウサギさん。いつもなら喋るのを躊躇ってから口を開くけど、少し慣れてきたのかもしれない。
それぞれひとつずつ、テニスボールぐらいの塊を作ったら、今度はそれを転がしてサイズを大きくしていく。一つのベンチの雪が無くなったら、隣のベンチへ。そのベンチの雪も無くなれば、雪玉を抱えて別のベンチへと歩いていった。
時間にしたら、たぶん三十分ぐらいか。
それぐらいの時間をかけて、俺たちは雪だるまをベンチの上で完成させた。
サイズはバレーボールの上に、ソフトボールを乗せたぐらいの大きさ。目や鼻、胴体に付けるボタンには石ころを使用し、眉毛には枯れ葉。長い木の枝を二つに折って、それを手として身体に突き刺した。
「結構立派なものが出来上がったなぁ。雪だるまとか、作るの何年振りだろ」
『私は三年ぶりぐらい』
「……そっか」
その『三年』という数字がどういう意味を持つのか――なんとなくわかってしまった。
彼女がこうして雪だるまを過去に作ったとき、もしかしらたらその傍らには小日向のお父さんがいたのかもしれない。口ではなくスマホを使って俺に伝えたのは、恥ずかしい以外の理由があるのかもしれない。
もしもそうだったとして――いったい当時の小日向は、どんな表情を浮かべて雪だるまを作っていたのだろうか。
今の小日向は、その時の小日向と同じぐらい楽しめているだろうか。
俺は彼女の、支えになることができているだろうか。
その疑問を身体の内に留めておくことができず、つい「小日向、楽しい?」と聞いてしまった。
俺の問いに、小日向はキョトンとした顔でこちらを見上げる。
この時の俺が、どんな表情をしていたのかはわからない。ただ、不安そうな顔をしてしまったのではないかと思う。その証拠に、こちらを見上げた小日向は、俺の目を真っ直ぐに見つめたまま、俺の右手を左手で、そして左手を右手で握ってきた。
触れた瞬間は冷たく感じたけれど、じわじわと彼女の温かさが伝わってくる。にぎにぎと感触を確かめるように動く小日向の手は、まるで俺に『大丈夫』と言っているような気がした。
そして、俺の『楽しい?』という質問に対する小日向の回答はというと、
「私、すごく幸せ」
……これじゃどっちが支えられているのかわからないな――そう思わずにはいられないものだった。
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