第215話 クリスマスイブイブ



 クリスマスイブの前日――十二月二十三日の金曜日は、桜清高校の終業式の日だ。


 通知表を受け取って一喜一憂する生徒や、明日からの冬休みに興奮を隠せない生徒、明日に控えるイベントに涙を流すパートナー不在の男子たち。

 なんにせよ、俺が見る限りどの生徒も楽しそうであることには違いない。なんだかんだ、みんな家族と過ごしたり友達と過ごしたりと、予定が空白っていうわけじゃないみたいだ。


 今朝最新の天気予報を確認してみると、本日の夜から雪になるらしい。いまのところ、二十五日まで降り続けるのかハッキリとしないが、それでも珍しくホワイトクリスマスを迎えることができそうだ。

 俺はあまりそういった風情を気にしないのだけど、ちっちゃなウサギさんは『ロマンチック』とか言って喜びそうなので、俺も天に祈っておいた。


 閑話休題。


 今日は俺たちと同じく終業式を迎えている、春奏しゅんそう学園の二人と遊ぶ予定である。全員明日からの予定が埋まっているから、今日ぐらい一緒に遊ぼうぜ――という薫からの提案でそうなった。


 薫と優の二人は俺の住むマンションにやってくるまでに寄り道してくるとのことで、しばらくは景一と二人のみの時間である。たぶん昼過ぎ――一時ぐらいにはこちらに着くだろう。


「――で、智樹サンタは何をプレゼントするか決めた?」


「そりゃもう買ってるよ。渡すのは明日で、明日は小日向と一日中一緒なんだから買う暇ないし」


「それもそうか。で、ちなみに何を買ったの?」


「……景一はなに買ったんだよ」


 今回の俺のプレゼントは、自分でもちょっと『らしくない』と思う。だけど、色々とネットで調べたり、小日向の性格を考えたり、彼女がどういうもので喜ぶのか想像したら自然とこのプレゼントが一番なのではないかと思ったのだ。


「俺はマフラー。野乃にはすでにバレてるから、『はいどうぞ』って感じだけどな」


「なんでバレたんだよ」


「日曜日こっそり買いに行ったときに遭遇した。店員さんにクリスマスプレゼント用で――って頼んでる時に」


「お、おう……それはご愁傷さまというかなんというか……タイミング悪すぎだな」


 俺が頬を引きつらせながら言うと、景一は肩を竦めてからこたつの上に顎を乗せた。


「野乃は見てみぬふりをしてくれてたけど、まぁ表情の変化でなんとなくわかっちゃうんだよなぁ。あ、ちなみに小日向ほどわかりやすくないぞ?」


「おい、しれっと小日向をバカにするんじゃない」


 あの正直すぎる反応が可愛いんじゃないか。


「お、彼氏が怒った」


「まだ彼氏じゃないから!」


「旦那の間違いだったか。わるいわるい」


「もっと違ぇよ!」



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 景一、そして薫と優の四人で、久しぶりに男だけでわいわいと遊んだのだけど、やはりこれはこれで楽しかった。小日向と一緒に過ごすときが楽しくないわけじゃないのだけど、それはどちらかというと『癒し』に偏っており、男友達と遊ぶ時とはまた違うベクトルだ。


 小日向とこれからどんどん仲良くなったとしても、俺はきっとこの四人で遊ぶことを止めないだろう。できれば、俺以外の三人も同じように思っていてくれると嬉しい。


 うん、持つべきものは友人だな。


「というわけでなにかアドバイスをくれ」


 深夜の零時過ぎ。


 明日訪れる告白イベントを前に頭がパンクしそうになった俺は、告白の成功者である景一に電話をかけていた。


『急に電話が来たと思ったらやっぱりそれか。まぁまだ起きてたからいいけど』


 少しのそのそとした喋り方で景一はそう言うと、ふわぁ~と、大きなあくびをする。そして「別に興味がないからあくびをしたわけじゃないから」と前置きをして、ゆっくりと話し始めた。


『せっかくクリスマスに告白するんだから、『プレゼントは、お・れ』とか?』


「たとえふざけた冗談だったとしても、小日向は『言質とった』って言って好き放題要求してきそうだから却下」


 というかそんなセリフを俺が言えるとでも思ってんのかこいつ。寒くて脳に血液回ってないんじゃないか? KCCに血を融通してもらったらいいのに。


『じゃあ智樹が小日向の用意した靴下に入りこむとか……』


「どんだけ大きい靴下なんだよ! というか『プレゼントは、お・れ』と大して変わってないじゃねぇか!」


 深夜であることを忘れて、つい声を大きくしてしまった。反省。布団に潜ろう。

 ため息を吐きつつ、布団をかぶって亀のように丸まっていると、スマホから再び景一の声が届く。


「じゃあ真面目に言うと――あまり長々と語ろうとしなくていいんじゃないかなって思うな。智樹は元々女子と話しなれてなかったんだし、無理すると逆にヘマしそうだ」


「……それはあるかもしれん」


「あと、もう一つ短く済ませたほうがいいと思う理由があるんだけど……」


「ほう、それは?」


 俺が問いかけると、十秒ほどの沈黙が訪れる。電波が悪くなったのかな――とも思ったが、そうではないらしい。言い淀んでいたようだ。


「俺の想像なんだけど――たぶん小日向、告白の途中で感極まって、智樹が話している途中に抱き着いてきそうな気がするんだよな」


「……あぁ~」


 めちゃくちゃ想像できた。




~~作者あとがき~~


『無口な小日向さんは、なぜか俺の胸に頭突きする』

スニーカー文庫さんのページで書影が公開されました!!

こちらを見上げる小日向さん……可愛い!!

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