第213話 ずっと隣にいる


~~作者前書き~~


KCCの皆さま、新年あけましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願いします。貧血にはくれぐれもお気を付けて。

今年は兎年ということで、KCC拡大にはうってつけの年ですね(確信)

書籍の発売まで一ヶ月を切り、もうそろそろ書影などが表に出てくるのではないかと

思われます。皆さまが血の海に沈むのを、心待ちにしております(鬼畜)





 十二月二十一日水曜日。


 今年も残すところあと十日程度になっており――そして何より俺たち学生にとっては数日で冬休みに突入するというところまでやってきた。小日向がウキウキなのはこれから訪れるイベント事を楽しみにしているからか、はたまた勉強から解放されるからなのか……冬休みの宿題、放置させないように気を配っておこう。


 小日向の宿題問題はいったん頭の片隅に残しておくとして。


 今年の冬休みはまるで小日向の思惑に世界が配慮したかのように、クリスマスイブからスタートということになっている。おそらく俺や小日向だけではなく、この日にデートなりして勝負をしかける男女も少なくないのではないだろうか。万が一振られたとしても、学校が休みだから顔を合わせて気まずくなる心配もないし。


 まぁ、そもそも微塵も脈が無ければクリスマスに遊びに誘ってもオーケーされないと思うが。誘えた時点で、勝ち組だと思う。


 去年までの俺ならば、俺と同じく彼女がいなかった男四人でゲームをして遊んでいたのだけど、景一だけでなく薫や優にも彼女ができたようで、みなそれぞれのパートナーとクリスマスを過ごす予定になっている。


 ……まさか、女子が苦手な俺を気遣って彼女をつくらないようにしていたとか……? あいつらならやりかねないからちょっと怖い。仮にそれが本当だったとしても、俺が聞いたらはぐらかされるだけだろうなぁ。


「こういう時って、彼女持ちはもう少し疎まれてしかるべきだと思うんだがな……」


 残り数日となった高校二年の二学期。


 俺は学校へ行くまでの道中、そして教室に辿り着くまでの間に多数のKCCと思しき人物とすれ違い、そのほとんどを血の海に沈めていった。


 うん……我ながら意味がわからん。バトル漫画の敵役っぽい感じだ。


「お、おう……おはよう杉野、小日向。今日も相変わらずだなお前たちは」


 小日向とマフラーを共有したまま教室に足を踏み入れると、すぐさま近くにいた高田が声を掛けてきた。彼は苦笑いを浮かべて俺たちを交互に見たあと、「仲良しでなによりだ」と笑った。


 高田の周囲にいた男女のクラスメイトも、小日向が嬉しそうに、楽しそうにしていることを自分のことに喜んでいるように見える。


 もし仮に俺が小日向のことを一年のころからよく知っていたとして。


 表情がなく、感情が読み取りづらい女子だったということをはっきり理解していたとしたら、小日向が別の誰かと付き合っていたとしても、彼女の感情表現が豊かになったことを喜び、彼らと同じような笑顔を浮かべたのだろうか。


 ……小日向が誰かと付き合っている姿は、あまり想像したくないな。


「ほれ、みんなにアピールしてないで席に行くぞ。入り口で立ち止まってたら他の人が入れないだろ?」


「…………(コクコク)」


 こちらを見上げて頷いた小日向は、もはや人前であることなど関係なしに俺の胸に頭をこすりつけてくる。それから至近距離で俺を見上げ、ギュッギュッと俺の存在を確かめるように、繋いだままになっていた手に力をこめてきた。


 そういえば俺が小日向へ抱く想いが恋愛感情に至っていない――もしくは気付いていない時に、彼女は「いるだけでいい」なんてことを言っていたな。


「はいはい、俺はここに居ますよ」


 これからもずっと彼女の隣にいれるよう、寂しい思いをさせないよう、今の笑顔が曇ることのないよう、頑張らないとな。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ついさっき脳内で発言した『ずっと彼女の隣』とかいうアレ。ちょっと詳しく説明させていただきたい。


『隣』というのはあくまで『傍にいる』とかそういう感じの比喩であり、物理的な話ではないのだ。ついでにいうと『ずっと』というのは長い年月をさす意味であり、四六時中ということではない。



 一限目の授業中。


 小日向の嘆願により、前後に座る俺たちは、マフラーを付けたまま授業に臨んだ。最初は俺の膝の上に乗って授業を受けるんだと張り切っていたけど、なんとか我慢してもらうことに成功。代償としてまた「なんでもするから」を使ってしまった。


 それはいつものことだからいいとして。


 彼女も教師に注意をされたら大人しくなるだろうと思っていたのだけど、なぜかスルーされて授業が普通に開始される。うん? 先生の目に入らなかったのかな?


 いつ注意されてしまうのだろうかとそわそわしながら授業を受けていると、板書している最中に日本史の岡島先生は俺たちの傍までやってきて、「首がしまったら危ないだろう」と声を掛けてきた。


 俺や小日向だけでなく、岡島先生の発言を聞いた多数のクラスメイトが一斉にこちらを見てくる。そりゃこんな状態で授業受けていたら、こうなることは目に見えていたもんな。「ほら見たことか」なんて視線が――うん、まったくない。なんでだ。


 ま、まぁうちのクラスは先生よりも小日向の味方をする生徒が多いからかな。これも予想できていたことだ、うん。本当に。


「――危ないから、小日向は机を動かして杉野の隣で授業を受けなさい」


「…………(コクコク!)」


 いやそうはならんだろ。


「……そういえばこの先生もKCC疑惑があったんだった……忘れてた」


 岡島先生に対する生徒たちの拍手にかき消され、俺の呟きは誰の耳に届くことも無かった。


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