第209話 あの二人はいい奴らだったよ
「最近ちょこちょこ喋るようになってきたけど、恥ずかしさには慣れてきたのか?」
昼休み。教室でおにぎりを食べながらそう聞いてみると、小日向はふるふると顔を横に振った。この話題には俺だけでなく冴島や景一も興味があったようで、二人も食事の手を止めて小日向の反応を窺っている。
『智樹と話したい』
「……そ、そうか。嫌なら無理はしなくていいからな?」
『クリスマスにちゃんと口で返事したい』
「あ、はい」
もう俺が告白する前提なんだよなぁ! 実際そのつもりなんだけど、こうやって待ち構えられているとやはり恥ずかしい。まだどんな風に気持ちを伝えるのかすら決めてないのに!
小日向が無口なことに関しては、なんとなくだけど、幼少期からあまり喋れないような性格だったために、それが尾を引いてしまっているのではないかと思う。自信がないからというわけでもなく、自分の声に不満があるというわけでもなく、ただ言葉を発しない生活が続いたから、足を踏み出しづらくなってしまっているのではないかと。
きっかけが俺の告白の返事にしろ、彼女が話せるようになるのはいいことだと思う。現実的な話、自分の将来の選択肢を狭めてしまうことになりかねないからな。
個人的な意見を言うとすれば、小日向と電話とかできる日がくるかもしれないからちょっと楽しみではある。
「もう智樹たちに関しては、いちゃいちゃって雰囲気がなくなってるんだよなぁ。これが当たり前というかなんというか……来年はカップルコンテストじゃなくて理想の夫婦コンテストとかになるんじゃね?」
「それでもまた殿堂入りになりそうじゃない?」
「なるだろうなぁ……」
「私たちは一位とるように頑張ろう! 頑張るものでもないかもしれないけど、景一くんとの関係を周りに認められているようで嬉しいし!」
「ははは、周りの評価はあまり気にするものでもないと思うが、反発されるよりは祝福されたほうがいいか」
「うんうん!」
へへへ――と冴島が笑い、景一もまんざらではないような雰囲気である。
お、おぉ……これは誰がどう見てもいちゃいちゃしているぞ! 絶好のからかうチャンスではなかろうか! いつも俺と小日向が言われてばかりだから、こういう機会を逃すわけにはいかない!
「見てみろ小日向、あいつらいつも俺たちをからかっているくせに自分たちは存分にいちゃいちゃしてやがる。俺たちが目の前にいようと関係なしだな」
「…………(コクコク!)」
「そうだろうそうだろう。人のこと言えないよな?」
「…………(ふすー)」
「いや、だからって小日向が対抗心を燃やす必要はないんだぞ? フリじゃないからな?」
「…………」
「うっ……そんな不満そうな顔するなよ」
「…………」
「――わかったわかった! わかったからその下唇を元の位置に戻せ! 膝の上に乗るぐらいは別にいいから、その――ほっぺとかおでこにキスするのは家だけにしとけよ」
景一カップルをからかうつもりだったが、どうやら俺の本当の敵はすぐ傍にいたらしい。「私もいちゃいちゃしたいんだー!」という意思が透けて見える。
俺の誕生日特権のおかげか、わりとすんなり小日向は「ふんすー」と納得してくれたけれど、いつ暴走するかわかったものじゃない。放課後あたりにはべったりしてきそうだ。すでに俺の膝の上にお尻を乗せてしまっているけども。
「なんか智樹も小日向の扱いに慣れてきたよな――いや慣れてきたというか……なんでそもそも会話が成立してるんだ?」
「杉野くんに嫉妬しちゃうな~。前までは私だけの特技だったのに~」
そりゃそうさ。
今の小日向は、以前と違って表情の変化がとてもわかりやすいからな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「やぁ杉野二年、誕生日おめでとう。これは我々からの賄r――コホン。プレゼントだ。受け取ってくれ」
「いま絶対『賄賂』って言いかけましたよね?」
「気のせいですよ杉野智樹くん。日頃のお礼として受け取ってください」
「日ごろのお礼をされるようなことを先輩たちにした覚えはないんですけどねぇ!?」
昼休みの終了間際に、KCCのボスこと斑鳩生徒会長と白木副会長が教室にやってきた。プレゼントはどうやらジグゾーパズルらしいのだけど、無地の箱に入っており、どんな絵柄のものなのかわからない。白木副会長によると、どうやら千ピースあるようだ。
「ぜひ神と一緒に楽しんでくれ」
「いま『神』って言いました?」
「ぜひ小日向二年と一緒に楽しんでくれ」
「なに当たり前のように言い直してるんですか……まぁ、ありがとうございます。小日向、一緒に作ろうな」
「…………(コクコク!)」
いちおう俺へのプレゼントということになっているが、小日向は随分と楽しそうである。勉強は嫌いだけど、どうやらこういうパズルのような形で頭を使うのは平気らしい。俺も一度はやってみたいと思っていたからちょうどいい機会だ。
KCCはちょっと危なっかしいとはいえ、小日向の誕生日にあれやこれやしてもらっているし、きっと影でも俺たちを支えるために色々動いているのだろう。
少しぐらい、恩返しをしておこうか。
「二人ともありがとうございます。せっかくなので、小日向と記念撮影でもしてあげましょうか? 小日向、先週の誕生日のお礼ってことで、どう?」
それがお礼になるの? とでも言いたげに首を傾げる小日向。たぶん彼女たちにとってはとんでもない価値になるだろうから……写真一枚でも十分すぎるぐらいだと思うぞ。
というかむしろ――、
「ふぅ……最近どうやら精力的に活動しすぎたようだ。幻覚と幻聴がとてもリアルに感じられる」
「奇遇ですね会長。私も神と写真を撮る妄想がいつもより現実のように見えます」
――ちょっとやりすぎたかもしれないぐらいだ。
※クリぼっちですが、仕事が立て込んでおりますので次回更新を12月26日とさせていただきます┏○ペコッ
ご理解のほどよろしくお願いします┏○ペコッ
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