第208話 会長ー!? 副会長ー!?



 小日向と手を繋いで学校に登校。もうこの時点で『俺たちは付き合ってます!』と宣言しているようなものだとは思うのだけど、いちおう聞かれたら否定はするつもりだ。だってまだ告白をしたわけじゃないし、されたわけじゃないから。


 以前のように「付き合ってるの?」と聞かれることは無くなったけれど、俺たちに向けられていた疑惑の視線は、今では生温かい視線へと変わってしまっている。


 教室に辿り着くまでの間に、クラスメイトや元クラスメイト――顔見知りの生徒から「おめでとう」という言葉を掛けられた。一年の頃はこんなことなかったし、これは間違いなく小日向効果とみて間違いないだろう。どこかの誰かさんが道行く生徒に『今日智樹誕生日!』という文字が書かれたスマホを見せつけているのも原因の一つだろうが。


 そんな感じでこそばゆい思いをしながらなんとか教室に辿り着くと、そこでも案の定色々なクラスメイトからお祝いの言葉を掛けられる。中にはちょっとしたお菓子なんかをくれる奴もいて、今まで俺が迎えてきた誕生日の中で、間違いなく一番たくさんの人に祝ってもらった日になった。


 教室について、小日向がシャーペンで俺の机に『おめでとう!』と落書きするのを眺めていると、景一と冴島が教室に入ってきた。二人とも紙袋を一つずつ持ってきており、近くまでくるとお祝いの言葉をかけてくる。


「おはよう! そしておめでとう杉野くん!」


「おはよー智樹。これ、俺といつもの二人からな」


 二人は俺の元に辿り着くと、さっそく机の上に持ってきた紙袋を置いた。景一の言う『いつもの二人』とは、考えるまでもなく春奏学園の不知火優と御門薫のことだろう。あいつらとは別の高校になった今もプレゼントのやりとりをしているから、まぁ恒例の行事って感じだ。


 で、冴島がどうぞどうぞと促してくるので、さっそくプレゼント開封の時間である。

 はいそこのうさぎさん、お前のじゃないぞ。なんでお前がふすふすしてんだ。


「王道だけど、写真立てとアルバムだよっ! こないだの修学旅行で写真いっぱい買っただろうし、すでに持ってても明日香専用のアルバムがあってもいいかなぁと思ったからね!」


 紙袋に入っていた布袋のリボンを解くと、冴島の宣言通りの物が入っていた。文庫本サイズの写真立てと、辞典ぐらいの分厚さがあるアルバムだ。修学旅行の写真を全て納めても、まだ余裕がありそうな感じ。


「ありがとな冴島。たしかに小日向の写真を入れるアルバムを買おうと思ってたんだよ」


 さては景一から情報を仕入れたな? もしくは、小日向がおねだりしたとか? いや、小日向だったら自分が買ってきそうな気がするから、やっぱり景一かな。

 まぁプレゼントの経緯の詮索はやめるとして、小日向とともに冴島にお礼を言ってから、景一のプレゼント開封にうつる。まぁなんとなく予想はついているが――、


「あー、はいはいはい、これか! そういや新作出てたなぁ」


 景一たちからのプレゼントは、俺の想像通りゲームだった。しかも二本。一本目はバトルロワイヤル系のゲームで、先月発売されたばかりの新作である。そしてもう一つは、人生迷路の最新のものだった。


 この二つを合わせると五桁に届く金額になるはずだが、三人で出し合ったのならそこまで財布も寂しくはならないだろう。なにより、こいつら自身がこのゲームで遊ぶ気満々のはずだ。


 俺の前の席に座って相変わらずふすふすしている小日向は、ゲームのパッケージを手に取って、表紙や裏の説明書きを興味深そうに観察している。


「今度みんなでやろうな」


「…………(コクコク)」


「どっちからやりたい?」


 そう聞いてみると、小日向は自らの鼻を人差し指でムニムニしながら悩む。十五秒ほど悩んだすえ、ビシッと人生迷路の方を指さした。


「ほう、人迷か」


 小日向とする人迷というと、どうしても俺は真っ先に例の子作りラッシュが思い浮かんでしまう。ゲーム中に小日向と結婚することになり、最終的に七人の子供を作ることになってしまった例のアレだ。


 小日向の頭の中では『新作! 楽しみ!』とか考えていそうだけど、俺はまた前回みたいなことが起きそうで怖いんですよ。前とは小日向との関係が変わってきているとはいえ、結婚、出産はやはり恥ずかしい。ゲームなんだがな。


『今度は十人』


「いやなんでそこに張り切ってんだよ! あれは資産を増やすゲームで子供を増やすゲームじゃないからな!?」


『お祝い貰えるから一石二鳥』


「どちらかというとお祝い金が目的のゲームなんだけどなぁ……というか、あの時の小日向は俯いて俺の目もチラチラとしか見れなかっただろ? 今回も気まずくなったりするんじゃないか?」


『今度は智樹いっぱい見る』


「いや、いっぱい見る必要はないんだけどさ」


『見る』


「あ、はい。わかりました――って近い近い近い! 今じゃなくてゲーム中の話だろうが! いや、ゲーム中でもここまで接近はさすがに――」


「智樹、おめでと」


「ありがとうなんだけども! いまは学校で! 他のクラスメイトが見てる状況なの! 恥ずかしさとか周囲への被害をしっかりと考えなさい! あと喋るなら予告してくれないと心臓に悪い!」


 俺の視界ではすでに五人ぐらいのクラスメイトが倒れているし、机に突っ伏している生徒はもはや手で数えられないぐらいいる。廊下からは「会長―!? 副会長―!?」という叫び声が聞こえるし、窓からは徐々に近づいてくる救急車のサイレンも聞こえてきた。


 この学校、本当によく死人がでないなぁ。

 

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