第207話 今のなし

~~前書き~~

小日向ちゃんのイラスト、めちゃカワです(゚∀゚)

公開日をお楽しみに(゚∀゚)




「……ん、おはよ親父。どうしたの? なんかあった?」


「『なんかあった?』じゃないよ。今日は智樹の誕生日じゃないか――十七歳おめでとう」


 十二月二十日火曜日。


 朝七時に、そんな親父からの電話で一日が始まった。親父は半ば寝惚けている俺を笑いながら、年末は二十九日からこちらに来ることができそうだとか、プレゼントは夕方ぐらいに届く予定だということを話した。プレゼントは俺の友人たちと被らないようにしているなどと『なぜ貴様が知っている』というツッコみ待ちのような発言もしていたが、寝起きの俺には荷が重かった。「あ、はい」ぐらいしか返していない。


 せめてあと三十分遅ければまともに会話できたんだろうが、親父も仕事が早いだろうからなぁ……仕方ないか。


 通話を終了して、スマホの画面を見てみると、景一や冴島を含む十人ほどの友人知人からお祝いのメッセージが届いていた。とりあえず、小日向から届いたチャットを見てみることに。


『おめでたいから行く』


「どこにだよ……」


 小日向らしい文章だ。朝からほっこりするなぁ。

 歯を磨きながら、小日向の言葉足らずな文章に苦笑していると、頭の中で一つの可能性というか、そもそもこれ以外選択肢がないのでは? という答えが浮かび上がってきた。


「あれ? これって俺の家に来るって宣言じゃないか……?」


 そんな独り言をつぶやいた瞬間、まるで答え合わせをするかのように、来客を知らせるチャイムがリビングから聞こえてきたのだった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 基本的に、俺は朝一人で学校に登校している。

 というのも、景一は駅から学校まで徒歩三十分を要する距離があるのでバスを使っているし、冴島と小日向は二人で朝一緒に通学している。


 他に男の友人はいるけれど、それぞれ決まったメンバーで登校しているからそこに混ざる気もないし、一人の時間も嫌いではないから、俺は景一が泊まったりしていないかぎり、普段は一人で学校に向かっているわけだ。


 で、本日は珍しく小日向が我が家に来ているのだが、俺が準備を進めているなか、彼女は現在俺の布団の中に潜っている。暖房で部屋は暖かいはずだけどなぁ。マーキングでもしてるつもりなのかね。


 家を出る前に、電気や戸締りのチェックをして寝室に向かうと、小日向が布団からにょきっと顔を出してきた。さっと布団に潜ったかと思うと、再びにょきっ。


「いないいないばぁでもしてんのか? ほら、そろそろ行かないと遅刻するぞ」


 可愛いなぁとは内心思いつつも、それを言動に表すのは恥ずかしかったので苦笑する。小日向はそんな俺をふすふすしながら眺めたあと、スマホを操作して画面をこちらに向けた。


『智樹誕生日おめでと』


「……おう、ありがとな」


『今日から同い年』


「だな。っていっても、小日向はお姉ちゃんであることに一週間耐えられなかったようだが」


『来年は頑張る』


「頑張ることでもないだろうに……」


 しっかりと来年もこうして一緒にいることを想定しているあたり、小日向はずっと俺から離れるつもりはないことが窺える。まぁ俺も人の事は言えないのだけども。



 二人でエレベーターに乗り、同じマンションで暮らす住人に三人ほど遭遇したのだけど、何度かすれ違ったある人だからか、小日向は楽しそうに『今日智樹誕生日』というスマホを見せつけていた。そして『智樹に貰った』と自らが装着する耳当てと手袋のアピールもしっかりとこなす。なかなか味わうことのない類の恥ずかしさだったけれど、全員好意的な態度で接してくれたから良かった。いい人が多いなこのマンションは。ちょっとKCC的な雰囲気を感じないでもないが。


 というか小日向、本当に自分の誕生日よりもウキウキしてるなぁ。そんなに俺の生まれた日がめでたいかね。


 信号で立ち止まると、小日向は繋いでいた手を解き、俺の胸に背を預けてスマホをポチポチ。画面を覗いて見ると、そこには『プレゼント頑張った』という文字が記されていた。


「……? 頑張った? 家でお手伝いでもしてお金稼いだのか?」


 首を傾げながら聞いてみると、彼女はビクッと身体を震わせて、恐る恐るといったような雰囲気でこちらを見上げてくる。そして慌てた様子でスマホをポチポチ。


『今のなし』


『忘れて』


『でも楽しみにしてて』


 彼女の様子から察するに、何かを隠しているのは確定的だな。相変わらず、わかりやすい表情と動きである。プレゼントがどんなものであれ、彼女が俺のために用意してくれたのならば、嬉しいことは間違いないんだけどな。



 


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