第201話 1:5、つまり15:?
さて、景一の珍しい顔を見ることができて満足したことだし、今日は楽しい夢が見られそうだ。明日に備えて早く寝るとしますか。
「おやすみ」
景一に就寝の挨拶をしたのち、リモコンを使って部屋の明かりを消したところ、すぐに点けられてしまった。っち。
「許されるわけないよなぁ?」
まぁちょっとした冗談だから許してほしい。このまま話が流れてくれたらなぁと少しは考えたけども。いやしかし、特定食の奢りがあることを考えると、この勝負はしっかりと決着をつけたほうが良いのか。
なにしろすでに景一の勝利は無くなっており、俺が勝つか引き分けかの二択しかない状態なのだ。――はっ、もしかして景一……一人暮らしの俺を不憫に思って特定食を奢ろうとしてくれているのか? なんて友達想いのやつなんだろう。
「お前だけ恥ずかしい思いをしないのはずるいぞ」
違った。ただ単に道連れにしたいだけのようだ。まぁ俺が景一の立場でも同じことをしただろうから、特になんとも思わないけども。
「へいへい――というか、もしも小日向が写真を送るのを嫌がった場合、勝負はノーカンだからな? 無理やり送ってもらうのは可哀想だし」
「智樹、俺の動画を許可なしに野乃に送ってたよねぇ!? あれを可哀想だとは思わねぇの!?」
「俺たち親友じゃないか」
「――へへっ、それもそうだな!」
景一は鼻の下を擦りながら照れくさそうにしているが、こいつもそこまでバカではないので、一定の時間が経過すると話をはぐらかしたという事実に気が付いてしまう。
景一の怒りが再燃しないうちに、とっとと俺のターンを終わらせようとスマホを手に取ると、いつの間にか小日向からチャットが来ていた。
『野乃、動画保存してた。ニコニコ』
どうやら冴島は景一の赤面を見て満足しているらしい。
お役にたてたようでなにより――そんな文章を打ち込んでいると、送信するよりも先に小日向から再びチャットが届いた。
『智樹も送って』
『お、おう……小日向も送ってくれるんだよな?』
『一枚に付き智樹五枚』
ぐっ、レート五倍か……。しかし小日向の可愛さと俺の顔面偏差値を考えると、むしろその枚数で良かったと思うべきだろうか。自分の写真を撮るのは恥ずかしいが、価値のない俺の写真で、裏取引でもされていそうな小日向の可愛い写真が手に入るのであれば、むしろ僥倖――なんてことを考えたけど、よくよく考えれば彼女のパジャマ姿の写真ぐらいなら、家に泊まった時に普通に撮らせてもらえそうだよな。それを口にするのも野暮なので、流れに身を任せることにしよう。
『わかったよ、一対五だな。じゃあ写真撮るからそっちもよろしく』
『言質とった』
小日向からの恐ろしい返信に顔を引きつらせていると、景一がニヤニヤしながら「小日向、送ってくれるって?」と聞いてきた。おそらく景一は、小日向が快く了承したために苦い表情を浮かべているとでも思っているのだろう。
「『言質とった』って言われた」
「……そっか。ドンマイ!」
俺の言葉を聞いた景一は、めちゃくちゃ明るい声でそう言って背中をバシバシと叩いてくる。まぁ今回に関しては、俺がちゃんと写真五枚を小日向に送ればいいだけだし、そこまで気にすることではないと思うのだけど……なんとなく背筋がぞわぞわするんだよな。
他人の不幸を味わっている景一にジト目を向けていると、さっそく小日向から写真が送られてきた。
ベッドに腰かけている小日向が、景一と冴島からもらったクマを膝の上に座らせている。そしてそのクマの手には俺がプレゼントした手袋が装着されていて、イヤーマフのほうは小日向が身に着けていた。
「はい智樹も負け~、微笑み画像ゲット~」
「負けじゃないから、引き分けだから――あと、その画像は小日向に送るから俺のスマホに送信しておいてくれ」
「ん? 智樹は写真送るの嫌じゃないの?」
「小日向から写真一枚に対して俺の写真を五枚送れって言われてるんだよ」
「あぁ~、それで『言質とった』ね。残り四枚も撮ってあげようか?」
景一からありがたい申し出をしてもらったので、お言葉に甘えようかと思っていたところ、再びスマホがピロンと鳴る。キス顔の小日向の画像が送られてきた。
「いやいやいやいや、何を送ってきてるんだアイツ!?」
思わずスマホに向かってツッコみを入れていると、今度は冴島とのツーショット。そしてその直後に小日向がクマをベッドに入れて横になっている画像(イヤーマフはもちろん付けたまま)、『ともき』と書かれたマグカップを大事そうに持っている画像などなど、合計十三枚が立て続けに送られてきた。
最初に送られてきた二枚の画像と合わせて、合計十五枚。
俺はもしかして、小日向にとんでもない言質を取られてしまったのでは……?
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