第197話 KCC「本気出す」
小日向の誕生日はとても濃い一日となったのだけど、本番はむしろこれから。小日向家にて行われる誕生日パーティがメインイベントである。俺や冴島たちもまだ小日向にプレゼントを渡していないしな。
学校が終わると、小日向をいったん家に送り届けてから、俺たち三人はいったん帰宅。小日向家には夜の七時に集合予定で、景一と冴島が俺の家に来て、そこから三人で一緒に向かう予定だ。荷物を置いたり着替えたりという用事もあるのだけど、なによりもプレゼントを持ってこないといけないからな。
で、プレゼントを持ってきた景一と冴島に合流して、目的地である小日向家へ。
家に辿り着くと、母親である唯香さんが玄関で俺たちを出迎えてくれた。
「「「お邪魔します」」」
「三人ともいらっしゃーい! 今日野乃ちゃんはお泊まりで良かったわよね?」
「はい! 今年もお世話になります!」
冴島が今日小日向の家に泊まるとは聞いていたけど、どうやら去年も同じように彼女はお泊まりしていたらしい。景一も今日は俺の家に泊まって、明日そのまま学校へ向かう予定だからあまり時間に関しては気にしないで大丈夫だろう。小日向家に迷惑をかけないていどにのんびりさせてもらうとしよう。
唯香さんに案内されてリビングへ向かうと、制服姿のままダイニングチェアに胸を逸らして堂々と座る小日向――そして彼女の頭におもちゃの王冠をセットしようとしている静香さんがいた。
「お邪魔します」
静香さんに向けて俺が声を掛けると、彼女はニコニコの笑顔で「これ可愛くない?」と聞いてきた。小日向も俺の反応を楽しみしているようで、こちらを真っ直ぐ見てふすふすしている。
「はははっ、たしかに。王冠も可愛いですが、小日向が髪を弄ってるの初めて見ました」
自分でやったのか、それとも家族の誰かにしてもらったのかはわからないが、小日向はこめかみ辺りから耳の上にかけて髪を編みこんでいた。いつもは髪で覆われてあまり見えない耳が、今はしっかりと表に出てきている。お誕生日仕様ってことだろうか。
で、可愛さマシマシになっている小日向はというと、俺の反応に満足げに頷くと、俺が手に持っている紙袋と、景一が持つ大きなビニール袋をじろじろと見始めた。まだダメです。
「これはお楽しみ――と言いたいところだけどあまり期待はしないでくれよ。俺はどこに座ったらいい?」
そう問いかけると、小日向はペチペチと自分の右前の席を叩く。どうやらここが俺の席らしい。
長方形のダイニングテーブルの短辺の部分の片方に小日向がいて、向かい側には冴島が座る。そして長辺側に俺と景一が座り、その向かいに静香さんと唯香さんが座るようだ。
テーブルの上にはすでに食器類が準備されていたので、唯香さんと静香さんがケーキやらジュースを冷蔵庫から持ってくると、あっという間に誕生日会場の完成だ。
ケーキはイチゴがふんだんに乗せられた白いホールケーキだ。たぶん中には他の果物が挟み込んだりしているのだろう。ろうそくが十七本刺さったそのケーキの中心には『happybirthday明日香』と書かれたお菓子のプレートも設置されている。
小日向、こういうの好きだろうな。真っ先に食べそうだ。
唯香さんがケーキのろうそくに全て火を点けると、静香さんが俺たち全員にクラッカーを配って、リモコンで照明をオレンジの豆電球のみにする。
そして何やらスマートフォンを操作して「今から十秒後に歌を歌うよ」と誰かに電話で話していた。なんだその報告は。
「よし! みんな準備はできたね! じゃあさっそく始めちゃおうか! ハッピバースデートゥーユー――」
静香さんが最初に音頭を取り、すぐさま小日向以外の全員がそれに続く。五人による合唱に合わせて左右に身体を揺らす小日向は、とても楽し気な表情だ。見ているこちらも自然と楽しい気分になってしまう。
「「「「「――ハッピバースデートゥーユー……」」」」」
歌を最後まで歌い終えると、小日向が待ってましたと言わんばかりに勢いよくろうそくに火を吹きかけた。顔を突き出して必死に火を消そうとする姿だけでも百点だけど、きちんと全て消せたからもう百二十点でいいと思う。可愛い。
そして、そのタイミングで静香さんが照明を点灯させて、皆でクラッカーを鳴らした。
――それと同時、
「――ん? 今日どっかで花火大会とかやってたっけ? この時期に?」
なぜか家の外からドンドンと、地面を震わせるような大きな音が聞こえてきたのだ。
景一と冴島、そして小日向もキョトンとした表情を浮かべているが、唯香さんと静香さんはニコニコしている。
「ほら、ここから見えるよ」
静香さんはリビングのカーテンを開けて、道路を挟んだ向かいにある一軒家と一軒家の隙間を指さす。ちょうどそのタイミングで、綺麗な赤と青の花火が冬の夜空に華を咲かせた。ちょうどいい具合にこの家のリビングの窓から見えるような位置に花火が上がっている。
花火はその数発だけにとどまらず、クマの形をしたものやらウサギの形をした花火――なんだか小日向が好きそうなモノばかりが続々と打ち上げられた。おい、今打ち上がった『A♡T』ってのはなんだ。
花火はおよそ十分程度で終了したのだけど、花火が打ち上がっている間の小日向は空を指さして、俺を見て、ふすふす大興奮だった。アテレコするなら『見てみて! ウサギさん! クマさん!』ってところだろうか。
そしてスマホで『AとTって明日香と智樹みたい』と嬉しそうに言っている。たぶん『みたい』じゃなくてそうなんだと思うよ……。
おそらくというかほぼ確実に、どこかの会長が関わっていそうな気がするなぁ。
あの人たちが推しに貢ぐ金額が一円っていうのが少し疑問だったけど、ここに集約していたのか。いったいあれだけの花火を打ち上げるのに、いくらかかっているのだろう……一千万とか掛かってるんじゃなかろうか。
KCCの団結力、恐ろしすぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます