第194話 誕生日がやってくる



 期末試験は十二月五日月曜日から九日金曜日までの五日間で行われた。小日向がちょこちょことサボろうとはしていたけれど、皆が勉強しているなか仲間外れにされたくはなかったようで、彼女も彼女なりに集中して頑張っていたと思う。


 普段よりも真面目に頑張っていたから、試験が終わると燃え尽きてしまうかもしれないなぁとは思っていたけど、どうやらそれは俺の杞憂だったようで、小日向はこれから待ち受けるイベントにウキウキしているようだった。


 まぁそれもそのはずで、小日向の誕生日は十二月十三日の火曜日で、もう当日まで一週間を切っている。ちなみに、小日向に渡すプレゼントは、試験直前の日曜日に景一や春爽学園に通う優、薫に付き添ってもらって購入済みである。小日向には『ラストスパートで集中したいから』と言い訳をしていたので、きっと気付いていないだろう。


「じゃあ明日は学校が終わったらそのまま小日向の家に行く感じでいいか?」


「…………(コクコク)」


「了解。じゃあ唯香さんと静香さんによろしく言っておいてくれ」


 土日が明けた月曜日の昼休み。


 お泊まりしていた昨日と一昨日は、小日向が妙にそわそわしながら俺の部屋を見渡していたけれど、あれはおそらく自分への誕生日プレゼントを発見しようとしていたのではないかと思う。残念ながら脚立がないと届かないクローゼットの上に隠しておいたから、彼女に発見するのは不可能だ。見つかるわけにはいかないのである。


 で、ついに小日向の誕生日が明日に迫ったわけだけど、その日は小日向の家でパーティをすることになった。小日向は基本的に毎年、学校ではクラス全員に祝われて、家に帰ると家族と冴島でパーティをしていたらしい。今年はそれに俺や景一が加わる形だな。


「杉野くんのプレゼントなんだろうね明日香~。楽しみだね~」


「…………(コクコク!)」


 景一、俺、小日向は座席表通りに縦に並んだ席に座り、俺の隣の空いた席には冴島がやってきている。さすがに中庭で過ごすには寒くなってきたから、よっぽど日差しが強くない限りは教室で昼食をとることになっていた。現在は食事を終えて、昼休みが終わるまでの談笑タイム。


「そんなにハードルあげるなって……そもそもプレゼント用意してるかもわかんないぞ?」


「…………」


「ごめん、ちゃんと用意してるからそんなしょんぼりしないでくれ」


「…………(コクコク!)」


 プレゼントがないかもしれないと聞いた小日向はあからさまに悲しそうな表情を浮かべたけど、それが冗談だとわかるとパァっと明るい笑みを浮かべた。いつか静香さんが言っていた『喜怒哀楽がはっきりしていた』という発言――まさかここまでわかりやすいものだとは思わなかったな。とても可愛い。


『智樹、嘘ついた』


「はいはいすみませんでした……でもプレゼント用意してくれてるってわかってるより、どっちかわかんないほうが貰ったとき嬉しいだろ?」


『たしかに。でも嘘ついた』


「――うっ、そりゃまぁ、そうですけど」


『うそつき智樹にはおしおきする』


「お前絶対俺に何かしたいだけだろ!」


『膝の上に乗せて』


 小日向は俺のツッコみを華麗にスルーして、端的に自分の要望を伝えてくる。

 今日はそのパターンね。まぁ「ちゅーする」とか「ハグしてスリスリ」とか言い出すよりまだマシだ。クラスの奴らも小日向が俺の膝の上に乗っている光景はもはや見慣れてしまっただろうし、俺の羞恥心も薄れてきてしまっている。


 小日向を迎え入れるために、肩を竦めながら椅子や身体の向きを調整すると、小日向がテコテコと俺の目の前にやってきて、なんの躊躇いもなく膝の上によいしょとお尻を乗せた。向き合う形で。


「逆じゃね?」


「…………(ふすー)」


 小日向は俺の背に手を回すと、鼻と鼻の距離が五センチほどの状態で停止。ジーと俺の目を見つめてくる。


「顔が近い……というかもはやその『ふすー』が俺の顔に直撃してるんですが」


「…………」


「唇をタコさんにしても俺は動かんからな。そしてそれ以上接近したらプレゼントが無くなるかもしれないぞ?」


『智樹、照れ屋さん』


「小日向はもうちょっと羞恥心を持ってくれませんかねぇ!? こんな風に、い、い、イチャイチャしてたら、クラスの奴らが嫌がるかもしれないだろ!? 目に毒だって奴もいるはずだから!」


 俺がそう発言した瞬間、クラスにいた生徒たちがぐわっと示し合わせたかのようにこちらを向く。


「「「「「「「「この学校にそんな人いないよ?」」」」」」」」


「いいか小日向? 今のは幻聴の類だからな? 真に受けるんじゃないぞ? 後ろを振り向くんじゃないぞ?」


 あいつらの目、ちょっと血走ってて怖いから。


『智樹しか見てないから大丈夫』


「そうやってまた俺を照れさせようと――あっ、コラ! 頬っぺただろうと学校でキスはダメって言っただろ!」


「「「「「「「「うぼぅあっ!」」」」」」」」


 小日向が俺の頬に口づけした瞬間、こちらに目を向けていたクラスメイトたちから一斉に赤い液体が噴出。一瞬にして床と机にまだら模様が描かれた。


 絶対に六限あとの拭き掃除はあいつらにさせよう。そうしよう。

 



~~~~~作者あとがき~~~~~



いつもお読みいただきありがとうございます。

作者の心音ゆるりです。


近々、KCC会長――斑鳩いろはよりKCC会員の皆さまに

お知らせがあるようです。

衝撃に備え、各自血液パックのストックを確保しておくよう、よろしくお願いいたします。




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