第193話 プレゼントは何にしようか



 写真を購入する際には、その写真の上にある番号を専用の用紙に記入する必要があるのだけど、欲しい写真が連番になっている場合は「〇〇~〇〇」という形式で購入できるらしい。そしてこの形で購入できるようになったのは、どうやら今回が初めてらしい。


 まるでかなりの人数が連番になっている写真を購入することを想定しているかのようだ。気にしないでおこう。前年度と今年度の写真の売り上げの違いは気になるが。


「まぁひとつひとつ書く必要がないから楽だけどさ」


 結局、俺も小日向も特設コーナーの写真は全て購入することにした。もはや一冊のアルバムが完成しそうなレベルである。というか、俺と小日向の写真だけで卒業アルバムが作れそうだ。KCCは独自で作り上げてしまいそうで怖い。


 それはさておき、ここから俺が悩むべきは、写真のサイズやどの写真をカレンダーにするかという問題なのだけれど、サイズは全部一般的なはがきぐらいのサイズのものでいいと思う。じゃないと収納するときに大変そうだし、これぐらい小さいほうが見やすいし。


 で、問題はカレンダーのほうだ。


 こちらもサイズや様式によって数種類あるようだが、とりあえずは基盤となる写真を選ぶことにした。


「うーん……別にこれが特別良いってのはないな。そしてこれは嫌だってものもない。小日向はどう?」


『全部カレンダーにしたい』


「絶対邪魔だろ……百枚近くのカレンダーをいったいどこに飾るつもりだ。そして静香さんの支払いが大変なことになるから止めてあげて」


『仕方ない。許してあげる』


 なぜ俺が譲歩されたのかはわからないけど、小日向は納得してくれた模様。そんなにカレンダーにしても全部見られないだろうに。日めくり智樹カレンダーでも作るつもりかこいつは。


 それから三十分ほどの時間をかけて、ようやく俺と小日向はカレンダーにする写真を一枚ずつ選ぶことができた。小日向は俺が微笑みかけている写真を選び、俺は新幹線で帰宅している最中、小日向が肩にもたれかかって寝ている時の写真だ。


 鳴海がスマホに送信してくれた写真と似ているというかまったく一緒のような気もするけど、深く考えないことに。

 あとはこの用紙を提出して、写真の到着を待つだけだな。実に楽しみである。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 その日は勉強するにしても時間があまりないということで、各自真っ直ぐに帰宅――と見せかけて、景一にはこっそりと俺のマンションにやってきてもらった。


 期末試験のすぐ後にやってくる、小日向の誕生日に向けた作戦会議である。


「冴島からなにか有益な情報は得られたか?」


「おう! 小日向は可愛い物が好きらしいぞ」


「大雑把過ぎんだよ!」


 女子の『可愛い』の基準ほど曖昧なものはないと俺は勝手に思い込んでいる。グロテスクなモノを可愛いとか言っちゃう変わり者もいるようだし。


 小日向の持ち物を見る限り、ごく一般的な『可愛い』の感覚で大丈夫だとは思うけれど――いやしかし、お祭りのときはリアル熊のお面を付けてたりしたなぁ……。やっぱりわかんねぇわ。


 景一は俺のげんなりした顔を見てからケラケラと笑ったのち、「冗談だよ」と口にする。


「野乃は今年ハンドクリームを渡すみたいだぞ。ちなみに去年は色鉛筆のセット。その前はハーバリウムと入浴剤あげたってさ」


「なるほどな……」


 うさぎのぬいぐるみとか喜ぶんじゃないかと思ったけれど、冴島がプレゼントしたものを考えるとどうも違うっぽい。だけど、小日向は俺から何かプレゼントされると、なんでも嬉しい表情を浮かべそうなんだよなぁ……さすがに自意識過剰すぎるか?


「智樹からプレゼントされたら、小日向はなんでも喜びそうだけどな」


 どうやら景一も俺と同じような結論になったらしい。まぁだからといって、適当に物を選ぶつもりは全くないのだけども。


「俺も『色鉛筆のセット』はありかなぁと思ったんだよ。ちょっとお高めの種類多いやつ。小日向絵を描くのが好きだし、使ってくれそうだったから。だけど去年もらったばかりだと残ってるだろうなぁ」


「だな。別の路線で考えたほうが無難だと思う。正直俺も彼女にプレゼントを上げた経験なんてないから適切なアドバイスはできないけど、自分が何を貰ったら嬉しいかとか考えてみたらいいんじゃね?」


「俺が何を貰ったらか……」


 俺の誕生日は冬だから、わりと防寒具系を貰って重宝している。自分で買うまでもなく色んな人に貰うから、手袋やマフラーなどは自分で購入したことがないぐらいだ。種類が被ったとしても、その日の気分で変更したりしていいからな。


「ふむ……防寒具はありか」


 小日向はふわふわのニット帽も似合いそうだし、モコモコのイヤーマフとかを付けても可愛いに違いない。手袋を付けて雪をペタペタと触る小日向も見て癒されるだろうし、マフラーに顔を埋めている小日向なんて絶対に天使。


 くそっ……もはや全部買ってあげたいぐらいだ。しかしあまり贈りすぎても小日向にプレッシャーを与えてしまいそうだし……実に悩ましいな。


「景一どうしよう……選択肢が増えてわからなくなった」


「うん、それはなんとなく表情から予想できたけどさ、そのニヤニヤ顔は不気味だから外でやらないほうがいいぞ」


 失敬な。アルカイックスマイルと言ってくれ。


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