第184話 最終日

~~作者前書き~~


更新お待たせして申し訳ありませんでした!

指の部分の包帯が解除されたので、キーボード、打てます!(/・ω・)/

ご心配してくれた方々、ありがとうございました!

今後とも小日向さんをどうぞよろしくお願いしますー!


~~~~~~~~~



 食事が運ばれてきてからおおよそ一時間半後にやってきたホテルのスタッフに食器を片付けてもらい、残す時間は小日向と俺の二人きりで過ごすことになった。


 まだ時刻は夜の九時だが、小日向には風邪で疲労している身体を癒すためにもゆっくり休んでもらいたいものである。


 というわけで、俺と小日向は歯磨きを終えると少し早めに布団に入った。

 小日向のことだからてっきり俺と同じベッドで寝ようとするかと思ったけど、本人も俺に風邪を移してはいけないと思っているらしく、しぶしぶ別々のベッドに身体を潜らせていた。


「まだ眠くない?」


 俺たちは五十センチぐらいの間隔が空いた二つのベッドにそれぞれ寝転び、お互い顔を見合わせている。お目々をパッチリと開けた小日向は、俺の問いかけにコクコクと頷いた。


 昼間たくさん寝ていたから、その分眠くなくなっちゃっているんだろうなぁ……風邪で消耗しているかと思ったけれど、案外小日向の体調は俺が心配しているほど悪くないのかもしれないな。


『おやすみのちゅー』


 そんな俺の思考の行方など知る由もなく、小日向はスマホを持った手をこちらに伸ばし、もはや何度見たかわからなくなった文面を見せつけてくる。はいはい、もちろん忘れていませんよ。


 俺はその言葉を見た瞬間に即座に布団から出て、さっと小日向のおでこにキスを三回繰り返した。俺は知っているのだ――こういう時にあーだこーだ考えて躊躇っていると、逆にやりづらくなり、恥ずかしさが上限なく増していくのだと。


 自分の布団に戻って再度小日向がいるほうに身体を向けようとすると、なぜか小日向も布団をめくってベッドから降りてきた。そして、膝立ちの状態でちょこちょこ歩いて、ふすふす言いながら顔を近づけてくる。


「足りなかったとか言うんじゃないだろうな……これ以上増やすのは無しだぞ?」


 一度許せばそれが当たり前になりそうだったので、俺は小日向が何かを言い出す前に忠告の言葉を口にする。別に小日向にキスをする事がいやなわけじゃないけど、朝晩毎日十回ずつとかになったらもはやキツツキみたいだ。


 俺はこのおやすみのキスを、義務的で面倒くさいものだと思いたくないのだ。

 そんなことを思っていると、


「…………お前がするんかい」


 小日向は俺の顔を両手で挟んで、おでこにちゅっと唇を付ける。俺のツッコみに楽し気な表情を浮かべると、両頬にも同じようにキスをしてきた。


「もはや何度言ったかわからないが、俺たちは付き合ってないんだからな? そこんところよく考えたうえで行動をだな――」


『唇にはしてない』


「口にしなかったらセーフという問題ではないんですよ小日向さんや……」


『智樹、照れ隠し』


「…………そのツッコみ禁止」


 図星を突かれたため、俺は額を抑え情けないため息を吐く。すると小日向に頭を撫でられてしまった。

 その行動がさらに俺の羞恥心を倍増させるのだと、この肉食獣は理解しているのだろうか。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 翌日。日付で言うと十一月二十三日の水曜日で、世間的に言えば勤労感謝の日であり、桜清学園の二年生にとっては修学旅行の最終日である。


 結局昨晩は小日向が中々寝付かなかったし、俺も大して眠くなかったので夜の十二時あたりまで起きていた。その時間何をしていたかというと、ただだらだらと喋っていただけである。相変わらず小日向は無言なので、もしこの部屋に盗聴器でも仕掛けてあったら、聞いた人は顔をしかめるに違いない。聴覚的に言えば俺の独り言だもんな。


 朝七時にスマホの目覚ましで起きると、珍しく寝起きのいい小日向が俺の布団へ潜り込み、俺の腕を枕にした状態で体温測定。


 結果は三十六度三分になっていて、彼女の熱は完全に引いたようだった。解熱剤なども飲んでいなかったようだし、体力さえ戻れば万全と言っていいだろう。


 とはいえ、熱が引いても風邪が移る可能性はあるということで、養護教諭からはこのまま二人で行動するように伝えられた。俺に移る可能性についてはどうなんだと聞いてみたのだけど、「一緒の部屋で寝て起きながら何を言っているんだ」と言われてしまった。まったくもってその通りでした。すんません。


 小日向の看病という名の話し相手を一日したけれど、結局俺に風邪が移った気配もないし、小日向はすでに全開状態といって差し支えないぐらい元気だ。


 朝の十時になると、点呼を行うためホテルのロビーにはぞろぞろと学校の制服に着替えた生徒が集まり始めた。俺と小日向もその場に移動するが、念のため皆とは少し距離を取った場所で待機している。


 そこに、鳴海と黒崎、そして景一の三人がやってきた。


「おはよ。小日向の体調はどんな感じ?」


「おはよう景一――鳴海と黒崎もおはよ。小日向は――ま、見ての通りだな」


 俺は苦笑しながら、隣に立つ小日向を顎で示す。

 元気いっぱいのうさぎさんは、両腕で力こぶを作るマッスルポーズをキメていた。可愛い。


「小日向ちゃんと杉野もおはよ!」


「元気になったみたいでよかった~みんな心配してたんだよ~」


 鳴海と黒崎がそう言うと、小日向は二人に向けて頭を上下にコクコクと振る。


「ははは……そうか、『みんな』がね……」


 黒崎が言った「みんな」とは、はたしてどれぐらいの人数なのだろう。

 小日向の人気を考えると、一桁の人数では収まらないのではなかろうか。あまり深く考えないようにしたほうがいいと、俺の第六感が告げている気がする。


 ちらりと景一に目を向けてみると、俺の親友は追及から逃れるようにスッと目を逸らしたのだった。

 


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