第182話 別室、風呂、食事

~~作者前書き~~


養護教諭をKCCに引き入れようとする勢と

あなただけはマトモでいてくれ勢がいて面白かったです(笑)


次の更新は予定通りハロウィンの内容にしますー!

本編の流れとは違いますが、なにとぞご了承くださいませ(o*。_。)oペコッ


~~~~~~~~~




 養護教諭から今後の話を聞いたのち、俺と小日向は一旦分かれてそれぞれの寝室へと移動し、荷物を回収。ホテルの六階にあるエレベーター前で待ち合わせして、先生が教えてくれた部屋に二人でやってきた。


「おおう……洋室か。結構広いんだな」


 肩に掛けていた二人分の荷物をどさりと部屋の隅に置いて、ひとまず内部の調査を行うことにした。


 ベッドは二つ。その間にはテーブルランプや電話が置かれた横長のナイトテーブルがあり、ベッドと壁の隙間にはオシャレに間接照明なんかも設置されていた。


 俺たちが昨晩過ごした寝室とは広さは同じくらいだけど、二人だとかなり余裕がある。ソファとテーブルもゆったりとしたものがあるし、そのソファひとつにつき一つずつクッションまで置いてある。


 カーテンはダークブラウンで、照明はオレンジ。なんとも温かい雰囲気を感じる部屋だ。


 ちなみに小日向はというと、部屋に到着するなり、テテテテテ、しゅっ、ばふっ――といった感じでベッドにダイブしていた。とても可愛いが、彼女が病人であることを考えると注意せねばならんと思うのが彼氏候補である俺の心情。


「あまり激しく身体を動かすんじゃないぞ」


 苦笑しながらそう言うと、彼女はベッドの上で大の字になったままコクコクと頷いた。それから『抱っこ』とでも言うようにこちらに両手を伸ばしてきたけれど、タッチするにとどめておいた。頑張れ俺の理性。


「あの先生が夕食は七時半に持ってくるって言ってたから、その前に風呂を済ませちゃうか。どっちが先に入る?」


 女の子と同じ部屋に泊まり、かつお風呂も同じ場所で済ませる――この状況を前にして冷静でいられる男子ははたしてどれぐらい桜清にいるのだろうか。


 俺だって完全にいつも通りとは行かないけれど、少なくとも一般的な男子高校生よりは落ち着いているだろう。なにしろ、初めてのことじゃないからな。経験ってやつはやはり強い。


『一緒に入る』


「それはダメって先生に言われたばっかりでしょうが。俺の家ならまだしも、今は学校の行事の最中なんだからな? 先生に迷惑かけたらいけません」


『何もしない』


「俺は小日向が何もしないというのが信用できん――というか、何かする云々の前に、男女が素っ裸で同じ空間にいること自体がおかしいんだからな?」


 小日向は俺に譲る気配がないことをさとったらしく、下唇を突き出して不満を表明。手と足をじたばたと動かして駄々っ子モードに突入した。


 やーだやーだ、智樹と一緒にはーいる、一緒じゃなきゃやーだやーだ。


 心の中で勝手にアテレコしてみたけれど、本当にそんなことを言い出しそうな雰囲気だな小日向。お前はそれで本当に高校二年なのか。


 思わず心が折れそうになるが、ここで甘やかしてしまえば小日向の思うつぼだ――俺は心を鬼にして、彼女の頭を撫でるだけで我慢した。


「じゃあ風呂を溜めるから、準備しておけよ。さっと入らないとおやすみのキスはお預けだからな」


 さも俺のキスにすごく価値があるような言い方をしてしまったけれど、これで小日向は釣れてしまうんだから仕方がないじゃないですか。小日向以外には絶対に聞かれたくない発言だな。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 風呂に入った。

 何も事件が無かったかと聞かれたら、冬の夜空を見上げたらオリオン座が見えるぐらい当然に事件は起こったのだけど、それが何か重大な事柄に発展したわけでもないので、これは実質何もなかったと言っていいのではないかと思う所存でございます。


 まぁ、端的に説明すると、バスタオルだけを巻き付けた小日向が部屋にやってきたり、俺の風呂を小日向が覗きにきたぐらいだ。


 ちなみになぜバスタオルだけしか見えないはずなのに下着の着用の有無がわかったかというと、小日向が俺に怒られて脱衣室に戻っていく時に、ひらりと布が落っこちたからだ。その時の俺の視線については割愛させていただく。


「小日向はきのこ雑炊か」


『…………(コクコク)』


 予定通りの七時半に、養護教諭とホテルの従業員の二人がやってきて、俺たちの部屋に食事を運んでくれた。スタッフがテーブルの上に食事を並べている間、先生が小日向の容体を診てくれており、「明日にはよくなっているだろう」という診断を下していた。


 ホテルの人も先生も特に長居することなく去っていき、部屋の中はまた二人きりになる。


 新しい浴衣に身を包み、ゆったりとしたソファに腰かけた俺たちは、テーブルを挟んで対面に座る。俺が手を合わせて「いただきます」と口にすると、小日向はペチンと手を合わせてコクリと頷いた。


「こっちも少しぐらい食べるか? 無理はしなくていいけど」


『ちょっとちょうだい。カニさん』


「了解」


 消化優先の小日向の食事と違い、俺は皆と同じメニューが用意されているようだ。カニとてんぷらがメインって感じで、あとは少量のおかずが数種類、綺麗な模様が描かれたお皿に並べられている。料理の体積に比べて皿の面積が大きいと高級に見えるよな。


「カニモード小日向か」


 両手をピースの形にして、ちょきちょきとカニアピールをしている小日向。俺の感想に、彼女はふすふすしながら頷いた。


 小日向は場所がどこであれ状況がどうであれ、相変わらずの平常運行だな。可愛い。


 

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