第147話 待ち受け画像
おそらく見た人の八割九割が「いちゃいちゃしやがって」と思ってしまいそうなプリクラ撮影を終えてから、俺たちは残りの時間を他のゲームに充てた。
レーシングゲームでは俺が勝ち、二人ともやったことのない音ゲーでは小日向が勝った。なぜかクレーンゲームに関しては小日向は何もしようとせず、ただひたすらに「あれほしい」とでも言いたげに指をさすだけ。
お金は渡そうとしていたから、お金が使いたくないってわけじゃないと思うが……そこまで小日向はクレーンゲームが苦手なのだろうか? それとも、俺がとった景品が良いということなのか……真相は闇の中である。
で、一通り遊べば帰宅の時間がやってくる。
元気一杯だった小日向もさすがに体力の限界のようで、帰りの電車ではうつらうつらと眠そうにしていた。このまま寝かせてやりたいところだが、電車の移動も長時間というわけではないので、すぐさま起こすことに。
「ほら小日向、次の駅で降りるぞ」
「…………」
俺がそう言うと、隣に座る小日向は一度ギュッと目をつぶってからうっすらと瞼を持ちあげ、両手でごしごしと目元を擦る。起きるかと思ったけど、彼女は俺の胸に顔を押し付けるように倒れ込んできた。
「……バスでも寝そうだな」
と、俺が独り言をつぶやけば、胸に顔をうずめている小日向は微かにふるふると首を左右に動かす。どうやらぎりぎり起きているようだ。
やれやれ……寝ぼけた彼女がうっかり足を踏み外したりしないよう、しっかりと手を繋いで歩く必要がありそうだな。まぁ、役得ってもんだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
電車を降りてからバスでの移動はだいたい三十分弱ほど。電車よりは長い時間ゆっくりできるので、小日向には「着いたら起こすから寝ていていいぞ」と声を掛けておいた。
「ほんと、子供みたいだなぁ」
おでかけをしてはしゃいだら、帰り道では体力がなくなって寝てしまう感じが。
成人していないという意味で言えば俺ももちろん子供なのだけども、小日向の場合は小学生とかその辺りの小さな子供の雰囲気がある。小日向を好きな俺はロリコンということになってしまうのだろうか? いや、別に他の子どもを見てどうも思わないからそうじゃないと思いたい。
現在俺たちはバスの二人席に座っており、小日向は俺の膝を枕にすやすやと寝息をたてている。可愛い。
こうしてすぐ傍で寝てくれるのは、俺への信頼の証の一つだろうし、嬉しいか嬉しくないかと問われれば問答無用で前者である。
時刻は夜の七時前で、もう外の景色は薄暗い。これから冬が近づくにつれて、どんどん暗くなるのが早くなってくることだろう。朝とか夜とかはたまに冷える日が出てきたし、季節の移り変わりによって身に着ける服も変わってくる。
「そっか、まだ一年も経ってないのか」
寝ている小日向の頭を擦りながら、彼女が厚着をしているところを見たことがないことに気付く。そりゃそうだ。俺が彼女と関わり始めたのは今年の四月。ようやく半年経ったぐらいだからな。
ふむ……小日向の冬服か。なんだかモコモコした羊みたいな感じになりそうだ。
寒くなれば、今以上にべったりしてくる可能性も無きにしも非ず。期待してしまうのは、男の性ということでなにとぞ。
眠そうにしている小日向を家に送り届けてから、俺も自宅へと帰還した。
「これが平常だったんだけどなぁ」
小日向がよく泊まりにくるようになってから、一人きりになるとこの家が余計に広く思えてしまう。特に彼女が泊まった翌日なんかはそれが顕著だ。あるべき物が無いような違和感というか――なんだか不思議な感覚である。
俺は小日向にチャットで「俺も無事に家に着いたよ。今日は楽しかった」とチャットしてからお風呂に向かった。その際には珍しくスマホを風呂場にもちこんで、今日撮影したプリクラの画像を眺めながらゆっくりと湯船に浸かることに。
「自分で書いてて恥ずかしくないのかね……」
俺は撮影したプリクラに書かれた文字に、ツッコみを入れる。
スマホに表示されているのは、俺が小日向のほっぺをムニムニして、小日向がふぇふぇふぇ状態になっている例のアレだ。虹色のペンで「智樹、私に夢中」と書かれており、書いている際にも突っ込んだが無視された。まぁ、無視というか、俺の目をジッと見て反対意見を黙らせたという感じだったけども。
「これを待ち受けにするのはちょっと恥ずかしいかもしれんな……」
書かれている文字もそうだが、俺の表情もちょっとまずいのだ。
小日向が良い表情をしていたので待ち受けに良いと思ったのだが、俺が彼女の向けている顔がもう、「だれだこいつは?」と思ってしまうぐらいにニンマリしてしまっている。恵比寿様もびっくりぐらいのニンマリだ。
この顔は他の奴に見せられん。景一とかに見られたら間違いなくからかわれてしまう。
……よし、画像編集でトリミングして、小日向の顔だけ抜きだそう。そうすれば問題ない。
そうと決まればさっそく――と思ったところで、小日向からチャットが届いた。
『待ち受け』という短い文章とともに、一枚の画像が送られてきている。確認してみると、それは例のプリクラの画像で、ご丁寧に俺のニンマリした顔だけ切り取られたものだった。
「すまん……俺が悪かった……これは止めよう」
話し合いの末、俺は小日向を後ろから抱きしめている画像、そして小日向は俺の頬にキスしている画像を待ち受けにすることにしたのだった。
~~作者あとがき~~
次回の更新日は二日空きまして22日の月曜日になります。
お待たせして申し訳ございませんが、ご了承お願いいたします。m(_ _"m)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます