第146話 ワタシ、トモキ、チュースル



 その後も俺たち二人は、バスケットボールやテニス、サッカーや野球などなど――目につくスポーツは時間の限りやってのけた。俺と同じくあまり運動していない小日向がなぜあそこまで動けるのか……身体が小さいから燃費も違うとかだろうか?


 まぁそれはいいとして。


 結局制限時間内に全てを回ることはできなかった。スケートやセグウェイ、ゴーカートなどまだ遊べていないものもあるので、また次に来た時も十分に楽しめそうである。今度来たときは、事前にどういったもので遊ぶのか決めておいたほうがいいかもしれないな。


 で、サンドイッチなどの軽い食事を挟んで、俺と小日向はゲームセンターへ移動。


 アラウンドの地下のワンフロアはまるまるゲームセンターになっており、複合施設であるのにも関わらず、規模はかなり大きい。メダルゲームやクレーンゲーム、レーシングゲームや音楽ゲームなど、一般的なゲームセンターにあるものは大体揃っていた。


 もちろん小日向ご所望のプリクラも、パッと見ただけで十台以上ある。


「正直俺にはどれがいいかわからん。小日向に任せた――と、言いたいところだけど、お前も同じようなもんだったよな?」


「…………(コクリ)」


 小日向はゆっくりと頷いたのち、俺の小指を握ってテコテコとプリクラ機の傍へ。

彼女は外側から一つ一つ観察していき、やがて一台の機器の前で立ち止まる。

 彼女が注意深くジッと眺めているプリクラ機には、『カップルにおすすめ!』などという文句が書かれていた。男女が手でハートを作っている、なんとも羞恥心を刺激するポーズの写真がプリントされてある。


 うん……小日向が俺に対して好意を持っていることは知っている――というか、お互いがお互いを好いていることはもはや暗黙の了解と言った感じなんだけど、こうやってぐいぐいと攻められるとやはり照れてしまう。


 小日向みたいな可愛すぎる天使が、なぜなんの変哲もない俺のことを好きに思ってくれているのだろう――桜清学園の七不思議に認定されたりしないだろうか。


「……これにする?」


 照れ隠しで頬を掻きながら小日向の顔を覗き込むと、彼女もこちらを見上げてくる。「これでもいい?」と問いかけるような表情を浮かべながら、小日向は俺の小指をぎゅっぎゅっと握ってきた。可愛い。


「いいんじゃないか。……ほら、その、予行演習みたいな感じで」


「…………(コクコク!)」


 苦笑しながらの俺の発言に、小日向は勢いよく首を縦に振る。嬉しそうでなによりだ。恥ずかしいのを我慢して言ったかいがあったというもの。


 ちょうど小日向が興味を示したプリクラ機は誰も使用していない状態だったので、俺たちはさっそく堅いカーテンをめくって中に入った。密室というわけではないが、少し緊張する。


 そんな俺の心境を知ってか知らないでか、人目が付かなくなった瞬間に、小日向は何かを補給するかのごとくグリグリと俺の胸に頭突きをしてきた。


 はいはい天使天使。俺の顔がだらしなくにやけてしまいそうだからその辺にしておいてくださいな。


 小日向の頭を撫でて俺も小日向成分を補給し終えてから、二人で二百円ずつ出し合って、合計四百円を投入。機械から女性の音声で軽い説明が流れたあと、さっそく撮影が始まった。


 第一のお題――『彼女を後ろから抱きしめて!』。


「おおう……最初から飛ばしてない? 大丈夫かこれ?」


 ま、まぁ機械から言われたんじゃ仕方ないよな。うん。郷に入っては郷に従えと言いますからね。言われた通りにしても、別に誰からも怒られないよね?


 小日向の後ろに移動して、恐る恐る身体に手を回そうとすると、天使様にガシっと手を掴まれてシートベルトよろしく身体に固定される。俺の躊躇いなど気にした様子もなく、小日向は満足そうにふすーと鼻息を鳴らした――というところでパシャリ。


 第二のお題――『彼氏のほっぺにちゅーしちゃおう!』――ってマジかよ。


「…………嫌なら別に他のポーズでもいいと思うけど……」


『ワタシ、トモキ、チュースル』


「それ絶対さっきのごつい人の真似だよなぁ!?」


 文字で表現するとなると、たしかにそんなカタカナ表記のような感じだったな。

 俺のツッコみが嬉しかったのか、小日向は口に手を当てて身体を揺らしながらクスクスと笑う。天使。


 楽しそうに笑った小日向は、俺の左肩に両手を乗せ、ぐいっと下に引き寄せながら背伸びをする。そして触れるか触れないぐらいの軽いキスを俺の頬にやってのけた。

 そのタイミングで、プリクラ機が空気を読んだかのようにパシャリ。


「……俺の顔、赤い?」


「…………(コクコク)」


「これが写真に反映されたらやだなぁ……美白効果とかでなんとか――って、小日向他人事みたいにニヤニヤしてるけど、お前も赤くなってるからな?」


「…………(ぶんぶん)」


 そんなことないですし、とでも言いたげに小日向は首を横に振る。


「いやなってるから。ほら、顔熱いし」


 そう言って、俺は小日向の頬を両手でムニムニと触った。


 小日向のほっぺはまるでモチのように柔らかく、そしてされるがままになっている彼女は蕩けたような表情を浮かべており、とてつもなく可愛い。いいところしかない。


 楽しそうにふぇふぇふぇと笑う小日向に夢中になっていると、いつの間にかシャッターをきられていた。どんなお題を言われていたのかも聞きそびれてしまった。


「……おおう、これは良い表情が撮れたかもしれないぞ。待ち受け候補だ」


 期せずして、小日向の素晴らしく可愛い表情が撮れたかもしれない。


 満足そうに俺がそう言うと、小日向から抗議の腰ぺチをいただいた。たぶんこういう光景を見られたら、バカップルって言われちゃうんだろうなぁ。


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