第141話 言質とった
土曜日、そして日曜日のバイトを経て次の日――と流れるように貴重な休日を浪費することはもちろん小日向様が許すはずもなく、日曜の夜に小日向は姉の静香さんに送られて我が家にやってきた。
いつも泊めてもらって悪いから――ということで、母親の唯香さんからはゼリーを頂いた。ありがたく明日の朝食べることにしよう。
毎週末こちらの家に小日向は泊まりに来ているし、土曜日に彼女がうちにこなかったのだから今日彼女が来ることは確定的――まぁ俺自身、明日休みをとっているので泊まってほしいとは思っていたけれど。
小日向がうちにやってきたのは夜の十時頃。
お互い風呂も食事も済ませているので、これといってやることはない。
やることがないといっても、それは別につまらないというわけではなく、縛られるものが何もないという意味合いに近い。つまり、何をするのも自由な時間ということだ。
「筋トレもいいけどさ、もうお風呂に入ってるんだから、汗かくと寝る時に気持ち悪いぞ」
「…………(コクコク)」
現在俺たちは、寝室にてベッドのフレームを背もたれに全力でだらけている。
俺は半ズボンのジャージに、薄い白のTシャツ。小日向もうちに来てから、外着からピンクの下地に白いウサギが飛び回っている半そで半ズボンのパジャマに着替えた。
上着のボタンを二つもあけているのは、はたして暑さを感じてなのか、それとも俺を誘惑しようとしているのか……最近の小日向から考えると、後者の可能性が高い気もする。俺の観察眼から予想するに、パジャマの下には何も着ていないと思われる。
閑話休題。
並んで足を延ばしていると、小日向と俺の身長差――というか、足の長さの違いがより一層際立っている。普通に並んで立っていても、彼女の小ささは傍から見れば明らかだろうけども。
それにしても、小日向の足はサイズも指も本当に小さいなぁ。子供みたいな足だ。
そんなことを思いながら自分と小日向の足を見比べていると、彼女はひょいっとその小さな足を俺の足に乗せてきた。温もりは感じるが、あまり重みは感じない。
「なんだよ」
苦笑しながらそう口にすると、小日向は上に乗せた足を動かして俺の脛を擦る。ちらっと表情を窺ってみると、いったい何が楽しいのか――小日向は笑みを浮かべてふすふすしていた。
ふと思い立って、俺は小日向の足を乗せたまま自分の足を上へと持ちあげてみる。
「お、おぉ……余裕そうだな」
もし小日向の身体が固ければ多少なり抵抗があるとは思うのだが、何のつっかかりもなくスイっと上に持ちあがった。俺は特別身体が柔いほうではないので、むしろこっちが限界だ。
ふふん――と、足を上にあげられたまま腰に手を当て、胸を逸らす小日向。得意げな表情がとても可愛い。逆に俺の足はぷるぷるである。
「小日向って身体柔いの?」
足を下ろしてから問いかけると、小日向はニヤリと笑みを浮かべて大きく頷く。それからぺたーんと身体を前に倒した。その体勢のまま顔だけこちらに向け、ふすふす。
「凄いな……」
さすが運動センス二重丸。運動できる人ってのは身体が柔らかいイメージがあるが、小日向もその例に漏れないらしい。
その後も小日向は俺に柔らかさをアピールするかのように、開脚したり、その状態で前屈したり、身体を逸らしたりした。その柔らかさにはもちろん驚愕したのだけど、目のやり場に困る場面はあるし、柔軟性を示す度にニヤリと笑うから可愛くてしかたがない。
俺の理性、頑張ってほしい。
まぁそれはおいといて。
「明日はスポーツの日だし、エメパにでも行って遊ぶか? それか、アラウンドとか」
エメパは入場料激安だけど、遊び道具は基本的に持参だし、どちらかというと高校生というよりは小さな子供を連れた家族で遊びにくるような場所だ。
それに比較して『アラウンド』は、バスケットボールやサッカー、アーチェリー、ゴルフ、ストラックアウトなどなど……時間制限はあるけれど、色々なスポーツを楽しめる施設だ。若者も多く、以前景一たちと行ったときはカップルで来ている人も多かったように思う。
俺の提案に対し、小日向は勢いよくコクコクと頷いた。どうやらアラウンドのほうに行きたいようだ。
『脂肪燃焼。フォアグラ回避。私は白鳥になる』
ニヤリと口の端を吊り上げ、そんな文面を入力する自称白鳥予備軍。
白鳥ってよりはアヒルが似合いそうな感じだけど、それは口にしないほうが無難だろうか。
「いや、もともと小日向に脂肪はそんなについてないだろ」
スマホを意気揚々と見せつけてきた小日向に、苦笑しながらそう答えると、彼女は自分の胸を両手でクイッと持ちあげる仕草をする。いや、そこはたしかに脂肪かもしれないけどさ。
「……ノーコメントでお願いします」
顔を俯かせてそう言うと、小日向は俺の視線の先に顔を移動させて、下から覗き込むように見上げてくる。めちゃくちゃニヤニヤしてんなコイツ……。
「そういうのはクリスマスあとで――じゃなくて! 女の子がそんな軽々しくそんなことしちゃいけません!」
顔が赤くなっていることは自覚しているが、もはや隠しようがないのであきらめている。
早口になりながら小日向の説得を試みてみたけれど、当の本人はニヤニヤしながらスマホを操作。
『クリスマスあとなら可。言質とった』
「あのですね……この世の中には言い間違いというモノがあってですね……」
『智樹、なんでもするって言った』
いやそれいつのやつだよ。
この天使、マジで一生使うつもりじゃなかろうか。
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