第135話 カップルコンテスト 結果発表
東城先輩を近くにいた三年の先輩に引き渡してから、俺たちは三年生の出し物を見て回ったのち、グラウンドへとやってきた。
学年問わず、大きな展示物はだいたいこのグラウンドに設置されていたのだけど、これらの展示物の量に負けないぐらい、身体を動かす系の屋台も多く存在していた。
これまでの小日向の活躍から察せられるとおり、彼女はどの屋台でも無双しておりましたよ。ぬいぐるみやらお菓子やら、景品がっぽがっぽである。
俺も一緒に遊んだけど、ほとんど小日向が獲得した景品だった。彼女の運動センスには驚かされるばかりだな。
現在の小日向は、『私が神だ』という白いタスキを肩から斜めに掛け、頭にはまるで誕生日会の主役のようなキラキラしたパーティハット。首にはカラフルなポンポンで作られた首飾りを付けており、星マークのサングラスを装着している。
文化祭、楽しんでんなぁ。
お祭りにはあまりふさわしくない救急車のサイレンをBGMに、俺はいつもよりふすふすしている小日向とともに出し物を見て回ったのだけど、予想よりも時間が余ってしまった。
まだ行っていない場所といえば、三階から一階までの間で『つまらなそう』と判断した場所か、体育館で行われているイベントなのだけど……案内用紙を見る限り、今ちょうどカップルコンテストをやっているんだよなぁ……。
「教室に戻ってだらだらしていてもいいと思うけど、小日向はどうしたい? このカップルコンテスト、雰囲気だけでも見に行く?」
そう問いかけてみると、小日向は勢いよくコクコクと頷く。ハットとサングラスが凄い勢いで上下しているけど、なぜか小日向の頭から飛んでいくことはなかった。これも自前の運動センスが成せる技なのだろうか。不思議だ。
「了解。カップルじゃない俺たちに投票した変わり者もいることだし、一応結果だけでも見ておこうか」
そもそもエントリーしていない俺たちに投票したところで、その票が有効なのかはわからないが。万が一、俺たちに入れられた票が有効であり、最下位まで発表されるような方式だったなら不名誉な結果になりかねない。
もしそうなったら、大会の実行委員や優たちに一言文句を言ってやらないと気が済まないな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
体育館に入ってみると、ステージ上には五組のカップルが横に並んでいて、それぞれ白のスポットライトが当てられていた。ステージまで距離があるので顔までは確認できず、制服で男女が並んでいるということぐらいしか判別はできない。
体育館の三分の一ほどが埋まるほど観客が集まっており、ざっと見渡した感じ、桜清学園の生徒よりも外部の人たちの方が多い雰囲気である。観客の中に、うちのクラス担任である松井先生や、鳴海と黒崎の姿も確認することができた。
「それでは第二位の発表です――獲得票数四十二票……福島、岡田ペア!」
司会をしている女子がマイクで叫ぶと、それと同時に歓声と拍手が起こる。これまでの経緯がわからないからはっきりしたことは言えないが、上位五組だけが発表されている感じなのだろうか?
「わりと盛り上がってるんだな」
「…………(コクコク)」
体育館に集まっている人たちは、ほとんどステージ側に集まっているので、中心から後方にかけては人の数はまばらだ。人混みが苦手なので、できれば前の方には近づきたくない。
ちらちらとこちらに目を向ける生徒がいるのは、おそらく俺たちの様相が普通ではないからだろう。俺は大量の景品が入ったビニールを両手に持っているし、小日向の現状は一人誕生日会状態だからな。
「そして僅差で栄えある第一回カップルコンテストを制したのは、獲得票数四十五票……」
司会の女子生徒がそうやって言葉を溜めると、スピーカーからドラムロールが鳴り始め、色とりどりのスポットライトが体育館を巡る。参加しているカップルがどんな人たちなのかも知らないけど、なんだか俺までドキドキしてきた。
もしかすると、もしかするとだ。
俺たちはまだカップルではないが、俺と小日向に投票したという友人もいることだし、実は小日向の人気と例の団体の力によって、俺と小日向が一位になったりするかも――、
「――第一位、唐草、冴島ペアです! 飛び入りのエントリーでしたが、さすが頭一つ抜けた美男美女カップル! というかモデルの彼氏なんて羨ましいぞ冴島ぁっ!」
まさかの景一たちだった。というかこいつら、いつの間にエントリーしてたんだよ。
ステージ上では景一と冴島と思しき男女が、歓声と拍手に応えるように手を振っていた。冴島は少し恥ずかしそうにしているようだが、景一は堂々としている。さすがモデルだ。
「凄いな景一たち。一位だって」
「…………(コクコク!)」
小日向は自分のことのように喜んでいて、両手でぱちぱちと可愛い拍手をしていた。
カップルコンテストはともかく、もしミスコンに小日向が出ていたら一位間違いないだろうなぁ。身内びいきかもしれないけど。
そんなことを考えながら、俺も景一たちに拍手を送っていると、息を整えた司会の女子生徒が再度叫ぶ。
「さぁみなさんお待ちかね――『あのペアが入っていないぞ!』という声が至るところから聞こえてきそうですが、ご安心ください! 彼女たちはエントリーしておりませんが、一位の唐草冴島ペアよりさらに多くの票数を得ているため、実行委員たちの協議により殿堂入り枠としてご準備しております!」
…………おや、なんだか流れが変わったぞ。
景一たちよりも多い票数――しかも『殿堂入り』なんて言葉を使っているから、もしかしたら僅差ではない票数を獲得しているのかもしれない。司会の口ぶりからして、そのペアの獲得票数は五十を超えているのは間違いないだろう。
ちらりと隣の小日向を見てみると、ぽけ~っとした表情で司会の女子に目を向けていた。「へ~、そんな人たちがいるんだぁ」みたいな表情である。君は呑気でいいですね。俺は今凄く汗をかいているよ。
「獲得票数五千百七十三票――杉野小日向ペア!! 正に王者! 他を圧倒する票数を獲得し、桜清学園の歴史にその名を刻みました!」
…………うん。
文字通り、桁が違った。
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