第133話 文化祭は続く
占いを終えたあと、俺はここであったことを記憶から抹消するべく、同学年の生徒たちが運営する出し物を見て回った。もちろん隣には小日向がいるわけだが、彼女は占いに影響されたのか、自分の胸を押し付けるようにして俺の腕を抱いている。
あのですねぇ小日向さん、ここは知り合いがわんさかといる学校なのですよ? 嫌というわけではないのだけど、羞恥心的な問題であまりよろしくはないのです。嫌ではないのだけど。
大事な事なので二度言いました。
「お、智樹発見!」
鼻の下が伸びないように表情を取り繕いつつ、廊下で小日向とともに案内用紙を眺めていると背後から俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
振り返って見ると、良く見たことのある男子が二人。彼らは近くにいた桜清学園の女子に「じゃあまた」と手を振ってから、こちらに駆けよってきた。
「スマホに連絡入れたんだから気付けよ~。というか相変わらず糖分振りまいてんなお二人さん」
「二人の時間を邪魔するつもりはなかったんだけどね。挨拶ぐらいはしておこうかと思って」
気さくな態度で接してくるこいつらは、御門薫と不知火優。小学校から続く友人で、現在は春奏学園に通っている。体格が良くスポーツ系の薫と、細身の体で穏やかな雰囲気を醸す優は、一見対照的に見えるが中身はなんとなく似ている。あと、タイプは違うけど両者とも女子にモテる顔立ちだ。
「そりゃ悪かったな。あんまりスマホ気にしてなかったから――というか、お前たち桜清学園に知り合いいたのか? 中学の奴らじゃなかったみたいだけど」
もしかしてナンパでもしていたのだろうか?
こいつらはこれまでずっと女子に関心がなかったようだから、それが急に爆発してしまったとか?
なんてことを考えたのだけど、帰ってきた答えは真逆のものだった。
「はははっ、違うよ。僕らからは声を掛けていない。向こうから話しかけてきたんだ」
「優は顔がいいからなぁ。性格はちょっと曲がってるけど」
「薫も顔はいいけどバカだからねぇ」
「なんだと!? 俺がバカだという証拠はどこにあるんだ!? 言ってみろ!」
「赤点ばっかりじゃん」
「先生が採点を赤ペンでするんだから、点数が赤色なのは当然だろ!」
不毛な言い争いをしている二人にため息をついてから、左腕に抱き着いている小日向に目を向けてみると、彼女は薫に目を向けてニヤリと笑みを浮かべていた。
「小日向も人の赤点のこと笑えないからな?」
「…………(ぷい)」
顔を逸らされてしまった。しかし俺の腕からは離れる気がないようで、側頭部を俺の腕にこすりつけている。可愛い。
次のテストの時は何を餌にして頑張ってもらおうかなぁと考えていると、いつの間にか春奏の二人は落ち着きを取り戻しており、腕組みをしてからこちらを眺めていた。
「……なんだよ」
「いや……、二人ってまだ付き合ってないんだよな? それでカップルじゃないって、ちょっと無理があるんじゃね? 俺、アイスでもチョコでもないけど溶けそう」
「俺たちには俺たちのペースってものがあるんだよ」
俺たちのペース、ね。
おはようのキスとかおやすみのキスとか一緒に風呂入ったりとか……うん、考えるのはよそう。まともではないのはたしかだし。
「ふーん……まぁそりゃそうか。――あっ! そういえばカップルコンテストやってるだろ? 智樹たちに投票しておいたからな! 他の参加者は見てないけど、たぶん智樹たちが一番だろ」
「僕は景一たちに入れておいた。二組とも選択肢に入ってなかったから、僕らは手書きで書いておいたよ」
なぜ二人は「やってやったぜ」みたいな顔で言っているのだろうか。
まぁミスコンしかり、投票する人も多いだろうから、こいつら二人が投票したぐらいじゃ順位に変動は起こらないだろう。会長たちがどう動くかが不安だけども。
念のため、結果だけは見ておくべきかもしれない。会場に行く気はさらさらないけど。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
薫と優の二人とは休日に遊ぶ約束をしてから別れ、俺と小日向は校舎一階へと降りてきた。ここは三年生のエリアである。
さすが文化祭三年目ということもあり、これまで見てきたものよりクオリティが高い。予算の配分が高いのか、裏技的な何かを使っているのかは知らないが、使用している機材とかも一、二年よりもしっかりしているような気がする。
俺たちが普段昼食をとっている中庭も、現在は祭りの屋台のようなものが立ち並んでいる。さすがに射的はなかったけど、輪投げやボールを投げて景品を落とすようなものもあった。
「小日向なら好きなように獲れそうだな――やるか?」
特にボールを投げて落とすタイプのものは、景品がなかなか豪華だった。
どうやら家にある不要なものを集めたらしく、注意書きに『全て中古品』と書かれているけれど、ラインナップはゲームカセットに始まり、漫画本や衣服、バッグや財布なんかもある。
コクコクと楽し気に頷く小日向の頭を撫でてから、俺たちはボール投げの屋台にいる二人の女子生徒に近づこうとして――足を止めた。俺は冷汗を流すとともに、背筋には悪寒を走らせる。
そうなってしまうのも仕方がないだろう。なにしろ――、
「よくきた杉野二年、そして神――小日向二年よ」
「首を長くしてお待ちしておりました」
できればあまり接触したくなかった生徒会の二人が、鼻に赤く染まるティッシュを詰め、目を充血させた状態でニコリと笑っていたのだから。
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