第119話 やられたらやりかえす



 人生迷路の決着がついたのは、だいたい一時間後。


 チーム戦で景一カップルに負けた俺と小日向は、『スキンシップ禁止』という罰ゲームを受けるはめになった。


 もちろんこれは一生とか一ヶ月だとか、そんな長期間の話ではなく、花火大会が始まるまでのわずか二時間だけである。


 正直に言ってしまって、俺はそこまできつくない。


 そもそも俺たちの間で起こる身体の接触は、九割がた小日向からのものだ。頭を撫でたり、頬をムニムニとしたりすることはあるけど、小日向からのスキンシップに比べれば大したことのないものである。


 これが人目のない場所ならまだわからなかったけども、景一たちがいるのだし、罰ゲームというのならば受け入れようじゃないか。


 ――と、俺はそんな感じで「しょうがないか」ぐらいに思っていたのだけど。


「こ、小日向さん? ちょっと怖いんですが」


 罰ゲームが始まって約一時間が経過。折り返し地点である。

 現在俺の隣では、腹をすかせた猛獣が鼻息荒くふすふすしていた。


 もはやうさぎやリスなどと可愛らしいイメージでは表せない。

 今の小日向は、言うなれば目の前に生肉をぶら下げられたライオンである。目をギラギラとさせて、隙あらば食らいつこうとしているハンターの顔をしている。


「あーすーかー! ちょっとずつ杉野くんに近寄ってるでしょ! 罰ゲームなんだからダメだよ~」


 ニヤニヤとした冴島からそんな指摘が入る。


 ふむ……たしかに罰ゲームが始まったころは五十センチほど距離をとっていたのに、現在は二十センチほど。いつの間にかじりじりとこちらに寄ってきていたらしい。全然気づかなかったな。


 小日向は冴島をギロリと睨んだあと、唇を尖らせながら少しだけ俺から距離をとる。まぁ十センチ程度だけども。ちなみに冴島は「ひっ」と怯えたような声を漏らしていた。


「いやぁ……これは例の人たちから怒られそう――いや、逆に褒められるのか?」


 景一はこちらを見て苦笑しながら、そんなことを呟く。


 たぶんKCCのことを言っているんだろうな。あの恐ろしい集団のことを。

そして当の本人はというと、景一の言葉に耳を傾けることなく俺の顔をジッと見上げてウズウズしている。たしかに、今の小日向はいつもと違う可愛さがあるな。


 思わず小日向の頭を撫でそうになってしまったが、景一の「智樹、ダメだぞ~」という言葉で思いとどまる。そうだ、この罰ゲームは小日向だけじゃなく俺も受けているんだった。


「まぁあと一時間ぐらいだから、それまで頑張ろうな」


「…………(コクリ)」


 小日向は俺の言葉を聞くと、唇を尖らせた状態で首を縦にゆっくりと振る。

 さてさて、残りの時間、どうなることかね。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 結論から言おう。ダメだった。

 おそらく小日向本人に聞けば「ちゃんと我慢した」と言いそうなのだけど、冴島や景一、そして俺の目から見ても、罰ゲーム開始から一時間とちょっと過ぎたあたりからの小日向は、ルール違反の連続だった。


 俺がテーブルの上でトランプを混ぜていたら、小日向も同じようにトランプを混ぜ初める。そして俺の手にちょこんと手が当たると、「あら失礼」とでも言いたげな何食わぬ表情をするのだ。口元はニヤリとしている。


 まぁ、それだけならばまだ偶然と言えたかもしれない。


 ただ、実際のところは、背伸びしようと腕を上に伸ばしたかと思えば、下ろす際に俺の肩を触れる。飲み物を取りに行こうと冷蔵庫に向かえば、立ち上がる時、そしてこちらに帰って来た時も僅かに接触する。


 しまいには、うつらうつらする振りをして、俺の肩にしなだれかかったりしてきた。本人は眠たげに片目を擦って誤魔化していたようだけれど、もう片方の目はめちゃくちゃギラついていた。ゾクリとした。



「じゃあ着替えてまた戻ってくるねー!」


 夕方の四時過ぎになって、冴島と小日向は浴衣に着替えるべく自宅へと戻ることに。


 ちなみに我が家を出る際、小日向は俺をぐいぐいと家の外に連れ出して、一分ほど俺の胸にふすふすしていた。罰ゲームの内容が『家を出るまでスキンシップ禁止』って内容だったからな。


 小日向たちを見送ったあとは、久しぶりに景一と二人である。最近は小日向ばかりが家に来ていたから、こいつだけがいる状況は珍しい。


「じゃあ俺たちも着替えるか」


「おう――それにしても、智樹たちは本当に仲良くなったよな。最初の頃なんて小日向に向かって『俺に関わるな』とか言ってたのにさ」


「そりゃセットでお前の彼女が付いてきそうだったからな」


「はははっ、まぁそう言ってやるなよ。野乃もわざとじゃないんだしさ」


「知ってるよ――景一は冴島のその誠実さにやられてしまったわけだし。景一の好みってあんな感じかぁ」


「……たしかにそう言うところも、うん、好きだけど」


「んー? 景一くんどうしたのかなー? 最後の方がよく聞き取れなかったなー? もう一回聞きたいなー?」


「うわうざ……絶対罰ゲームの腹いせだろ」


 景一は俺のニヤついた視線に対し、頬をピクピクと動かして反応する。

 そりゃそうさ。やられたらやりかえす――小日向の分までな!




~~作者あとがき~~


いつもお読み頂き感謝です!

大変申し訳ないのですが、更新頻度を毎日更新から二日に一回更新とさせていただきます。

なにとぞご了承くださいませ(o*。_。)oペコッ


今後とも小日向さんをどうぞよろしくお願いしますm(_ _"m)

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