第118話 花火大会当日
今回の週末は、月曜日が敬老の日で祝日になっていることから、三連休となっている。
本来ならば一人暮らしの学生をしている俺はバイトにいそしむべきところなのだろうけど、花火大会というイベントがあることから、出勤するのは土曜日だけということにした。
休み希望を店長に伝えると、彼女はこちらから何かを言うまでもなく「楽しんできなよ~」と言ってくれた。ありがたいことだ。
俺と小日向は普通の週末であれば土曜日にお泊まり会をしていたのだけど、俺は今週――日曜日と月曜日に休みを取っている。だから泊まる日も休みに合わせる形になった。
当然二連泊してもらうことも考えたけど、お互い好きあっていることを確認できたばかりだし、自制が効かなくなってしまいそうだったのでその案は無しに。小日向は不満そうにしていたが、膝枕をして頭を撫でると許してくれた。
そんなわけで、久しぶりに俺は小日向と二十四時間顔を合わせなかったわけだ。
するとどうなるか――。
日曜日の朝八時、マンションの前で小日向がやってくるのを待っていると、私服でテコテコと歩いて来る小日向を発見。
彼女もこちらに気が付くと、テテテと小走りになって一直線にこちら向かってくる。
「ちゃんと周り見ろよー!」
俺が声を張って注意を促すと、小日向はコクコクと頷きながらテテテテテ。可愛い。
やがてこちらに辿りついた小日向は、その勢いのまま俺の胸にポスリと頭突きする。
そして勢いよくスリスリスリふすふすふすスリスリスリふすふすふす。
彼女はまるで昨日できなかった分を取り戻すかのように、激しいスキンシップをし始めた。気持ちは分かるけど、ここは人通りのあるところだから自重しような? いまマンションから出てきたお姉さん、口に手を当ててニヤニヤしてたからな?
「続きは部屋に入ってからな?」
小日向の肩をそっと押して距離をとると、彼女は「しょうがないなぁ」といった雰囲気でふすー。なんだか俺が我儘を言っているようだけど、違うからな?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
本日は花火大会で、景一たちとも一緒にいくわけだが、実際に現地に行くのは夕方ごろから。それまでは俺の家で遊ぶことになっている。
昼前に仲良く二人でやってきた冴島と景一はまだ私服姿で、俺や小日向と同様――お祭りに行く前に着替える予定である。
「相変わらず仲いいよな智樹たち……」
「だねぇ。昨日お泊まりしなかった影響もあるのかな?」
現在俺たちは四人で人生迷路をしているわけだが、小日向は例の如く胡坐をかいている俺の足の間にすっぽり収まっている。このスタイル自体は景一たちも目にしたことがあるのだけど、今日の小日向は自分のターンが終わるたびに俺の顔を見てスリスリ。とにかく甘えていた。
友人たちに呆れ半分といった様子でそんなことを言われている俺はというと……恥ずかしがることを止め、開き直っていた。
こういうとのはきっと、恥ずかしいと思えば思うほど余計に恥ずかしくなるのだ。
「よし。お前らのチームが負けたら俺たちと同じことをしてもらおうか。言っておくが、本気で拒否したりしたら相手に失礼だからな? そこんところよく考えて発言しろよ」
いまやっている人生迷路は、個人戦ではなくチーム戦である。チームの割り振りは言わずもがな。
「べ、別にそれぐらい平気ですけど? へ、へ平気だけど、杉野くんたちが負けたらどうするのよ」
「見事に智樹の誘いに乗ってるなぁ野乃……まぁ負けるつもりはないが、たしかに罰ゲームがないと不公平だ」
俺の提案に対し、冴島は慌てた様子で、そして景一は冷静にそんなことを口にする。
ふむ……たしかにこれでは盛り上がらないな。しかし俺たちはこれ以上ないぐらい密着しているわけで、恥ずかしいことをしろと言われてもポンと思いつかない。
どうしたものかと悩んでいると、景一がニヤリと笑って「じゃあこうするか」と言ってきた。
「智樹たちが負けたら、この家出るまではスキンシップ禁止な」
「……なるほど、逆パターンか」
しかしそれは本当に罰ゲームになるのだろうか。
こうやってゲームをするのはせいぜいあと三時間ぐらいだし――いや、今の小日向はことあるごとに俺の身体にすり寄ってきたり、腕をペタペタ触ってりしているから、意外とキツイのかもしれない。
「小日向、それでいいか?」
目の前にちょこんと座ってコントローラーを握る小日向に聞いてみると、小日向は「やってやろうじゃないか」と言った様子でふすーと強く息を吐く。
気合は十分だ。
今の小日向ならば、もはや運さえも操作できてしまいそうだ――俺はそんなことを思ったのだった。
まぁ、ぼろ負けしたのだけども。
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