第107話 アピール小日向さん




 二泊三日の旅行は、目立った事件もなく平和に終えることができた。


 スマホで写真もたくさん撮ったし、花火、バーベキュー、海、お泊まりなどなど――夏の想い出としては上出来すぎるぐらいだ。


 俺個人としてはあまり顔を合わせていなかった親父と交流するいい機会になったし、景一カップルや静香さんカップルも楽しんでいたように思う。小日向も、朝から晩まで楽しそうだったし、表情の変化も普段より多かった気がする。


 そして旅行二日目の夜には、小日向に俺の決意表明的なものも伝えることができたし、本当に色々なことが凝縮された三日間だったように思う。


 残す夏休みは、ダラダラと家で遊んだり、バイトしたりして過ごすことになるだろう。

 まぁ家で遊ぶのは、夏休みの宿題と平行して――って感じだけど。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 旅行から帰ってきて数日後。


 俺は小日向とともに自宅で宿題を消化していた。

 景一と冴島は今日はカラオケデートをするらしいので、この勉強会には不参加である。


 テーブルの前で横に並び、プリントに向き合うこと数分後――小日向はぺいっとシャーペンを投げ出して、「ちょっと休憩」とでも言うように身体を伸ばし始めた。それから周囲を見渡したり、俺のプリントをのぞき込んだり、集中しているとはいいがたい状況である。


 現在の小日向は半そで短パン、靴下も履いていない装いで、非常にラフな格好をしている。気を許してくれているようで嬉しいのだけど、俺としては肌面積が広すぎて目のやり場に困るんだよな。水着と比べたらそりゃマシなんだけど。


「まだ十分も経ってないぞ?」


 そう言って隣の勉強嫌いの天使にジト目を向けると、彼女は壁掛け時計に目を向けてから、すうっと俺の視線から逃れるべく顔を背ける。


「わからないところがあるのか?」


 やれやれとため息を吐いてから、俺は小日向が詰まっているであろう問題を見てみることに。


 といっても、現在俺たちがやっているのは日本史の宿題なので、数学のように応用が必要な問題ではない。教科書の中を探せば答えは載っているはずなんだけどな。


「……んー、その問題なら教科書の年表が載っているページを見たらわかるよ」


「…………(コクリ)」


 なるほど、と言った様子で頷いた小日向は、俺の言った通りに教科書を開き、放り出されていたシャーペンを手に取ってさっそくプリントの穴埋めを開始する。


 ……うん、正解だな。次もその次も年表から探せそうだから、ひとまず大丈夫だろう。

 そう思って自分の宿題に戻ろうとしたところ、いつの間にか小日向の顔が真横に迫っていた。俺がそのことに気づいたと同時――頬に柔らかく少しひんやりとした感触が伝わる。


 ギギギ――という効果音が聞こえてきそうな動きで小日向に顔を向けると、彼女はニマニマと楽しそうに笑っていた。顔はほんのり赤い。


「……これは、お礼のちゅーですか」


「…………(コクコク!)」


 嬉しそうに頷いた彼女は、こちらに顔を向けたまま俺の肩をトントンと叩いてくる。なにやら張り切っている様子で、ふすーと強めの息を吐いていた。


 あぁ、これはが始まるな。


 こっちはまだキスの余韻が残っているというのに、彼女は俺に休息を与えるつもりはないらしい。というか気軽にキスしすぎだろこのタコ天使。


 そんなことを思いながらも、俺は小日向に身体を向けてから「どうぞ」と声を掛ける。

 すると彼女はまず、自分の頬に人差し指を当ててにっこりと笑った。天使だ――じゃなくて、


「うん、可愛く笑えてるぞ」


 ニヘラと笑顔を見せる彼女に対し、俺は感想を述べる。

 それから小日向は腰に両手を当て、眉を寄せてからふんす。そして下唇を突き出してしょんぼり。次に両手を高く上げてバンザーイ。


 小日向は旅行から帰って来てからというもの、時々こうやって俺に表情の変化を見せつけてくる。たぶん俺に無表情じゃなくなったアピールをしているのだと思うのだが、これがもうとにかく可愛い。小日向の可愛いがインフレを起こしている。地球上にこんな危険な生物が存在していいのかと、何度思ったことか。


「……良くできました。バンザイの時に顔が動いてなかったけど、気持ちはハッキリと伝わるよ」


 そう言ってから、俺は小日向の頭を優しく撫でる。彼女は嬉しそうにふすふすと息を吐いてから、俺の胸に頭突き。ぐりぐりと頭をこすりつけてきた。


「はいはい。頑張ったご褒美な」


 苦笑しながら、俺は彼女のグリグリを受け入れる。頭を撫でることも忘れない。


 やれやれ……俺の理性、そろそろ限界かもしれん。


 しかし夏休みが明けたら、斑鳩会長や白木副会長――KCCの連中がこのパワーアップした小日向を見ることになるんだよな。あの人たち、無事に二学期を生き残れるだろうか?


 そして俺は、いったいどんな目でクラスメイトから見られることになってしまうのだろうか。



~~作者あとがき~~


これにて第三章、完でございます!

続く四章は夏休みの宿題やっつけて、文化祭という流れです。その後は修学旅行、クリスマスなどなど、イベントはたくさん!つまりイチャイチャし放題!やったぜ!


この物語が面白いと思っていただけましたら、応援、フォロー、レビューなどなどよろしくお願いします(o*。_。)oペコッ


いつも応援してくれているKCCのみなさま、本当にありがとうございます!


★なにやらカクヨムさんでイチオシレビュー紹介企画があるようなのですが、テーマが『溺愛・甘々』らしいです!こりゃ小日向ちゃんしか勝たん!

というわけで、締め切りの6月20日までについたコメントレビューを応募させていただこうかと思います!

別に苦じゃないよ~って方は、コメントレビューを残していただければ幸いです!


長々と失礼しました。今後とも小日向さんをよろしくお願いします(o*。_。)oペコッ

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