第102話 バーベキュー後編



 綺麗に焼き上がった焼肉やら野菜を紙皿にとって、タレをつけて口に入れる。美味い。


 なぜ店で食べる食材とここまで味の差が出るのだろうか……炭火だからか? それとも外で食べているからか? それとも友人とわいわいしながら食べているからなのか……わからん。


 なんにせよ、俺がこれまで食べてきた焼肉の中でもトップスリーに入るであろうことは間違いない。


「花火もやっちゃいたいぐらいだな」


 俺が肉と野菜の美味さに感動を覚えていると、景一が横からそんな風に話しかけてくる。ちらっとコンロの向こう側を見てみると、女性陣三人で固まって話しているようだった。ちなみに赤桐さんは親父と話している模様。


 それにしても花火かぁ……結構な量買ってるから、二日に分けてもいいと思うが。


「いや……それは明日にとっておこう。さすがに一日目でイベントを完全消化してしまうのは勿体ない」


「だよなぁ……それにしてもさ、やっぱりこの別荘凄すぎじゃね? なんだか今になって申し訳なさが増加してきたんだけど」


「物は絶対壊さないようにして、最終日は掃除に専念しような」


 調度品なんかは置いていないようだけど、これだけ豪華な別荘なのだ――ちょっとした棚とか、実はめちゃくちゃ高かったりするかもしれない。赤桐さんの雰囲気的に「気にしなくていい」とか言いそうだけど。


 俺の発言に、景一も神妙な面持ちで頷く。


 それから景一は紙皿に乗せてあったピーマンを口に放り込んで咀嚼したのち、「ところでさ」と声を掛けてきた。


「明日、結局どうする? 予定では二日とも海で遊ぶつもりだったけど、なんだか遊び尽くした感じじゃない?」


「あー……それ俺も思ってた。持ってきた遊び道具もほぼ全部使ったし……家の中でのんびりしてもいいんじゃないか?」


 正直なところ、俺はちょっとバテ気味である。明後日に別荘を掃除する体力ぐらいは残しておきたい。


「それもありだな。今日めちゃくちゃ動いたから、明日筋肉痛になっているかもだし」


「あと日焼けな。明日も海だと俺の肌が死ぬ」


「俺もだ。しかし日焼け止めって凄いんだなぁ……赤桐さんも肌真っ赤だぞ。智樹の親父さんはパラソルの下にいたからほとんど焼けてないみたいだけど」


 と、そんな風に俺と景一が話していると、自分の名前が聞こえたのか、親父と赤桐さんが紙皿を片手にこちらにやってきた。


 簡単に会話の内容を説明すると、二人とも納得したように「なるほど」と呟く。


「女の子たちを見習って僕らも日焼け止めを塗っておくべきだったねぇ。僕は今になって以前同じミスをしたことを思い出したよ」


 赤桐さんはそう言って、頬を掻きながら苦笑する。まぁ海で遊ぶなんて年に一回あるかないかのイベントだろうし、忘れてしまうのも無理はない。俺も来年になったら覚えていないだろうしな。


 それから、男四人で明日は何をしようかという話になったのだけど、別荘の物置に釣り具があったり、自立型のハンモックがあったり、ゴルフセットが置いてあったり……結構色々なものが眠っているらしく、それらはもう使ってないものだから自由にしていいとのことだった。


 ただ、長い間使用していないから、壊れていないかは確認したほうが良いとのこと。

 遊び尽くしたと思っていたけど、案外時間を持て余すということはなさそうだ。そして赤桐さんが教えてくれたモノは、どれもあまり身体に負荷をかけることなくのんびりできそうなものである。


 詳しくはまた明日の朝決めようか――ということになって、俺たちは再びバラバラに。各自が好きなように動いているともいう。


 冴島と静香さんが新たに肉を並べ始めたので、俺は肉が焦げないよう見守ることにしよう――そう思ってコンロに近づいていくと、小日向が俺に近づいてきてペチペチと腰を叩いてきた。

 左手には割り箸に突き刺した輪切りのトウモロコシを器用に二本持っている。綺麗に焼き目がついており、タレも塗ってあった。


 そして彼女は二本のうち一本をズイッと俺の目の前に持ってくる。


「それ、くれるの? 小日向が焼いたのか?」


「…………(コクコク!)」


「へぇ、ありがと。トウモロコシはまだ食べてなかったから助かる」


 俺は持っていた紙皿を適当な椅子に置いてから、小日向の頭を撫でる。すると彼女は嬉しそうにニヘラと相好を崩していた。――くっ、なんて可愛いんだこの生き物は! 本当に俺と同じホモサピエンスか!?


 高速でスマホのカメラを起動して写メを撮っていると、小日向は特にその行動を問題視した様子もなく、再度俺の腰をペチリと叩いてくる。


 次はなんだろうか――そう思っていると、彼女はトウモロコシを突き刺した割り箸の両端を手に持ち、口元まで持ちあげた。そして――。


 カカカカカカカカカカカカカカカカカカ。


「――っ!?」


 驚きのあまり声も出なかった。

 彼女は手に持った割り箸を高速で回転させながら、トウモロコシに口を当てている。顎を素早く動かしているようなのだが、幅五センチを超えるトウモロコシが、わずか数秒で裸の状態になっていた。なんだそれ。


「小日向、お前凄いよ」


 特技、トウモロコシの早食いと言ってしまってもいいぐらいだ。


「…………(もぐもぐ)」


 頬をリスのように膨らませた状態で、小日向は自慢げに胸を張っている。

 そんな小日向を見て癒されたあと、俺も彼女に負けじとトウモロコシの早食いに挑戦してみたのだが、二倍以上の時間をかけても半分を削るに至らなかった。


 ちなみに、トウモロコシはめちゃくちゃ美味かった。

 



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