第85話 いざプリクラ



「二人で楽しんでいたところにお邪魔して悪かったな。では、残りの休日を満喫してくれ」


「ごちそうさまでした」


 会長と副会長を含めた四人でプリクラを撮り終え、写真を切り分けると、それを受け取った二人はほくほくした表情を浮かべた状態でゲームセンターをあとにした。


 去り際に足元がかなりふらついていたが大丈夫だろうか……? まぁ倒れたら周囲の誰かが救急車なり呼んでくれることだろう。俺は知らん。


 まぁおかげでというかなんというか、利用された感はあるけれど操作自体は理解した。最後の文字を書くところで何を書けばいいのかは悩ましいところだが、適当にスタンプとかつけときゃそれっぽくなりそうな雰囲気である。種類もめちゃくちゃあったし。


「嵐みたいな人たちだったな」


 覚束ない足取りで去っていく二人を眺めながらぽつりとつぶやくと、小日向がそでをくいくいと引っ張ってくる。そんなことよりプリクラ撮ろうってか?


「じゃあ次は二人で撮るか」


「…………(コクコク)」


 小日向もどうやら張り切っている様子。


 先ほどは落書きも全て会長たちが担当したため、俺と小日向は説明を聞きながら見ているだけだった。思えば小日向は授業中に落書きをしているぐらいだし、自分も書きたかったのかもしれない。


 で、俺たちにオススメということで会長たちが教えてくれたのは、機械の方からポーズを指定してくるというモノだった。


 たしかに、先ほど会長たちと撮ったものは自由な感じだったけど、それゆえに困った。俺はほとんど棒立ちのピースだけである。

 ちなみに小日向は俺にピトリとくっ付いているだけ。

 しかもカメラ目線ではなく、彼女はじっと俺の顔を見上げているものだから、出来上がった写真を見た時は思わず可愛すぎて俺も鼻血を吹き出しそうだった。まじ天使。


 さて、オススメのプリクラ機とやらにどんなポーズ指定があるのかわからないけど、楽しみだ。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 甘く見ていた。楽観的に考えすぎていた。

 二回撮るつもりだったにも関わらず、一度だけでお腹いっぱいになってしまうぐらいにはハードな写真撮影だった。


 最初の設定画面で、カップル用とか友達用とかの選択画面があったのだが、小日向が有無を言わさず『カップル用』をポチったおかげで(めちゃくちゃ嬉しい)、ポーズの指定もそれに沿ったものになってしまったのである。


 二人の手でハート型を作るぐらいなら問題なかったのだけど、小日向を後ろから抱きしめるポーズだったり、普通に二人で抱き合うポーズなどはなかなか恥ずかしかった。


 小日向は「指定されたからしょうがないよね!」みたいな雰囲気で、俺は毎回「これ本当にやる?」と彼女に確認しつつ撮影を進めていった。


 ちなみに、撮影後の文字を書いたりスタンプを押したりはほとんど小日向がやってくれた。俺はせいぜい、日付のスタンプを押したぐらいである。あぁあと、小日向にウサギの耳をくっつけたりもした。非常に可愛かった。



 写真を二等分にカットし、スマホからデータもダウンロードもしてから、俺たちは壁際に置いてあるソファに座り出来上がった写真を再確認していた。


 改めてみると、本当にカップルそのものだよなぁ。まぁそういうポーズを指定されたからそう見えるのだろうけど……。ペアルックってのもあるか。


 小日向はでかでかと『初デート!』とか『おそろい! 嬉しい!』なんて書いているし。やっぱり小日向って俺のこと異性として好きなんじゃなかろうか。彼女がこのお出かけをデートと認識してくれたことで、俺はこのまま成仏しそうなぐらいまである。


 ただ、九割九分九厘の確率でそうだったとしても、小日向との関係が崩れる可能性が僅かにでもあるのであれば行動に移すのは難しい。俺の苦手克服はともかく、彼女の表情を取り戻すのが俺にとって最優先事項だからな。彼女を危険にさらすような橋は渡りたくない。


 後ろから小日向に抱き着いている写真を眺めながら、「小日向ウキウキしてるなぁ」とぼんやり考えていると、彼女はズイッと俺にスマホを見せつけてくる。


 そこには俺と小日向が抱き合っている写真が映されていた。時計とかアプリも上から表示されているということは――。


「待ち受けにしたのか?」


「…………(コクコク!)」


 小日向は俺の目を見て楽しそうに頷く。それから彼女は俺のスマホの画面を見て、俺の顔を見て、またスマホの画面を見て、と何度か繰り返した。目はきらきらと輝いているように見える。


 ……はいはい。言いたいことはわかりますとも。


「じゃあ俺はこれを待ち受けにしようか」


「…………(コクコク!)」


 嬉しそうな顔しやがって。

 そんなに俺のスマホ画面に居座りたかったのかお前は。


 まぁ彼女が笑ってくれるのなら、他の人に見られてからかわれる可能性ぐらい目を瞑ろう。スマホを開くたびにニヤニヤしてしまうのも気合で我慢しよう。


 ……小日向に催促されずとも、俺はこれを待ち受けに設定したかもしれないが。




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