第84話 乱入するKCC
目的地あったゲームセンターに、なぜか連行される形で辿り着いた。小日向が俺の要望を叶えたかったのか、それとも彼女自身もプリクラを撮りたかったのかはわからないが、なんにせよラッキー。
プリクラはスマホにデータを送信できるものが一般的のようだし、たぶんこのゲームセンターに置いてあるものも対応しているだろう。待ち受けにしたいが……周りに見られると変な誤解を生みそうだしなぁ。そもそも小日向が拒否する可能性も――いや、それはないか。
「種類が多いな……どれがいいのか俺にはさっぱりだ。小日向はわかる?」
「…………(ぶんぶん)」
小日向も詳しくはないらしい。
休日ともあって、ゲームセンターはとても賑わっている。大半は家族連れだが、プリクラ周辺には高校生や中学生だけしかいない。そして、女子しかいない。
一瞬女子だけがわらわらといる光景に背筋が凍りつきそうだったけど、べったりと俺の左腕にしがみついている小日向のおかげでそれも融解。逆にとろけてしまいそうだ。
しかしどうしたものか。
プリクラは見たところ十台以上設置されており、そのどれもが違う種類だ。正直どこに違いがあって何が優れているのかさっぱりである。『柔肌』とか『白銀美人』だなんて言葉が書かれていたりするが、小日向は何もせずとも百点満点なので意味がない。
二人で並んで歩きながら、プリクラの周囲に張り巡らされているイメージ図を観察していると、一台のプリクラ機から二人の女子が出てきて、俺と小日向にチラッと目を向ける。そして、
「――うぼぉあっ」
「――ぶふぅおっ」
彼女たちは鼻から血を吹き出して倒れた。
突然のことに驚き、俺は身体を硬直させ、小日向は俺の腕にギュッと抱き着いてくる。
周囲にいた三人組の女子が、慌てた様子で店員を呼びに行くのをしり目に、我に返った俺もすぐさま地面に片膝をついて、倒れた女子の容体を確認。「大丈夫ですか!?」と声掛けをしようとしたのだけど、倒れた二人の顔を見て、止めた。
「何をやってんですか二人して……。小日向、ティッシュ持ってる?」
「…………(コクコク)」
俺は小日向がポシェットから取りだしたポケットティッシュを受け取ると、よろよろとした動きで手を伸ばしてくる斑鳩会長にそれを握らせた。彼女はティッシュを自分の鼻に詰めると、隣でぴくぴくと動いている白木副会長の鼻にも同じように詰める。
「あのっ! 大丈夫ですか!?」
そんなことをしていると、女子高生たちに呼ばれてやってきた女性店員が、おろおろとした表情でこちらにやってきた。地面に広がる赤い血を見て顔を青ざめさせているようだが、俺としては申し訳ない気持ちでいっぱいである。だってこの人たち、小日向見て興奮しただけだぞ?
「知り合いが床を汚してしまってすみません……」
「気にしないでください! それよりも倒れているお二人は!?」
「これはいつものことですからお気になさらず」
「いつものこと!? ……もしかして、何かのご病気ですか?」
まぁ病気というか病的というか……普通でないことはたしかだな。「小日向が可愛すぎて倒れました」と説明しても理解してもらえないかもしれないし、適当に流すべきか。
「ほら会長も副会長も。いまのところ服に血は付いていませんからさっさと立ってください。そして床を拭きましょう」
「う、うむ。助かったぞ杉野二年、そ、それと小日向たんもありがとう」
彼女の呼び方はやっぱりそれなのか。まぁ『小日向たんちゅきちゅきクラブ』だし、会長の彼女はそう呼ぶだろうな。しかし本人に向かって言うのはどうなんだ?
当事者二人、そして俺や小日向も掃除を申し出たのだがそれは丁重に断られてしまった。
まぁあちらとしても客に掃除されたら外聞的にもよろしくないだろう。俺も喫茶店で客が清掃をしようとしたら止めるしな。
そして店内が落ち着きを取り戻したころ、俺は会長と副会長と向かい合って話をしていた。なお、彼女たちは持参したハンカチで目隠しをしている。どうやら現在の小日向を直視できないらしい。ペアルック状態で俺の腕に抱き着く小日向の姿は、さすがに破壊力がすさまじかったようだ。
「ふむ……つまりプリクラを二人で撮りたいが、どれが良いのかわからない――ということだな?」
「はい。なにしろこういうのは初めてで、俺も小日向もよくわかってないんですよ」
俺が会長にそう答えると、小日向も隣で同意するようにコクコクと頷いている。目隠しをしている二人にはその姿は映っていないのだけど。
なるほど――と頷く会長の横で、白木副会長が口を開く。
「お二人のお悩みはわかりました。では全機種で撮りましょう。もちろんお金はKCC――こほん。私たちが全額負担いたします」
「いやおかしいだろ!? なんで俺たちのプリクラの代金を払おうとしてんの!?」
俺は思わずタメ口でツッコむ。小日向は「この人たちなに言ってるの?」という不思議そうな表情を浮かべていた。知らない方が幸せだよ。
「何か問題でも?」
「問題大ありだわ! ――と、とにかく、多くても二台ぐらいでしか撮るつもりはないですから、どれが良いのか教えてくださいよ!」
教えてもらう立場にも関わらずかなり強気な発言だが、このアホな先輩方にはこれでちょうどいいぐらいだ。小日向が目の前にいる状態で、彼女たちが「やっぱり教えない」などと言うこともないだろう。
発言を終えて、ため息とともに肩を落としていると、くいくいと小日向が服を引っ張ってくる。どうやらスマホで何かを打ち込んでいたらしく、こちらに画面を向けていた。
『二回しか撮らないの?』
……二回しか、ねぇ。
小日向に遠慮して「二回」と言ってみたけど、彼女はもっと多くても構わないのだろうか? しかし一度にそんなに撮るよりも、別の機会、別の服を着た時に撮った方が想い出になると思うんだが。
そんなことを俺が小日向に説明すると、彼女は「たしかに!」といった様子で首を縦に振る。どうやらご納得いただけたようで。
俺と小日向の会話が一段落したところで、会長が「良いことを思いついたぞ」と発言する。嫌な予感しかしないが……念のため聞いてみるか。
「なんですか?」
「いやなに、プリクラビギナーの君たちのために、まず私たちと一緒に撮って操作を覚えてみてはどうかと思ってな。いきなりだと失敗してしまう可能性もあるから、お金が無駄にならずに済むだろう?」
ぐ……たしかにそれは一理ある……一回四百円って、結構大きいしな。
それにどうやら文字を書いたりする時には時間制限もあるみたいだし、いきなりだと戸惑う可能性大だ。練習する機会があるならばそれに越したことはない。しかも会長たちがお金を出すと言っているので、これといったデメリットは無い状態だ。
だけど会長の目的って俺たちの手助けじゃなくて、
「会長が小日向と一緒に撮りたいだけでしょうに……」
「はて? なんのことやら」
とぼけても詰めたティッシュの色で丸わかりなんだよ。
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