第82話 水着を買いに行こう


 今日一日なにをしようか――という話になった。


 本日は日曜日で、バイトもなければ景一や薫、優などの友人とも遊ぶ約束はしていない。小日向も家の用事などはないみたいだから、帰宅する夜七時すぎぐらいまでは、二人で自由に過ごせるということになる。


 外に出かけたらそれはもうデートだし、このままマンションに滞在してもお家デートと言ってしまって差し支えないのではなかろうか――なんて思ったり。


「家にいたらお金使わなくていいけど、せっかく一日空いているわけだしなぁ。小日向はなにかしたいことある?」


 ただいまの時刻は朝の九時過ぎ。


 小日向が着替えをしている間に、俺がパパッとコンビニで買ってきた朝食のサンドイッチを二人で食べてから、俺たちはニュース番組をぼけ~っと眺めながらリビングでまったりと過ごしていた。


『お買い物行きたい』


「ほう。どこに行く?」


『フリスビー買ったとこ』


「あのショッピングモールね。何か欲しい物でもあるのか?」


 あそこの商業施設ならば店舗数も多いし、バスで行けるから時間もあまりかからない。知り合いに出くわす可能性はあるけど、それはもう今更って感じだし。


 ゲームセンターもわりと広いから、また小日向に何か景品をプレゼントするのもありだなぁ。


 そんなことを考えながら、足の間に挟まっている小日向がポチポチとスマホを入力するのを待つ。なんだかこの場所、いつの間にか小日向の定位置になっちゃったなぁ。


 やがて小日向は、ふすーという気合の入った息を吐きながら画面を俺の前にズイっと持ってくる。そこには『水着!』と短くも衝撃的な言葉が記されていた。


「…………そういうのって女子同士で行くもんじゃないの?」


『野乃は唐草と行くって』


 いやあいつらはカップルじゃん。俺たちとは関係が違うじゃん。


 しかし水着――水着ねぇ……。


 昨夜身に着けていた彼女のスク水は、特にボロボロだったわけでもサイズが合っていないわけでもなさそうだったし……となると、プライベート用の水着ということだろう。


 つまりその水着姿の小日向を、学校以外の輩まで目にすることになるんだよな。


「――よし、わかった。一緒に買いに行こうか」


 俺は少し頭を働かせて、同行することを決意。

 あまり露出が多いような水着は、遠慮してもらいたいからな。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 いざショッピングモールへ――と言いたいところだが、小日向は外着ではあるものの、昨日の夜うちに来た時の服のままだし、『お出かけするなら着替えたい』ということで、俺たちは一旦小日向家へと向かった。ついでにパジャマの入ったリュックも持ち帰ってもらったので、滞在時間が長くなったとしてもそのまま家に直帰可能である。


「パーカーが好きなのかね」


 出かけるにあたり、小日向は俺の外着を指定してきた。


 というわけで、俺が身に着けているのは以前小日向たちと遊んだ時に着てきた白のパーカー。なぜか小日向も同じものを持っていた例の服である。


 指定とは言っても、それは『お願い』であって『命令』ではなかった。だが、天使小日向に頼まれたら断れるわけがない。まぁ断ったら断ったで「なんでもするって言った」とか言われそうだけど。


 現在俺はリビングで小日向が準備を終えるのを待っているわけだが、静香さんもいないし唯香さんもいないため、とても静かだ。時々二階から微かに聞こえる足音ぐらいしか物音がしていない。


 スマホで『女子高生、水着、可愛い』などと検索して、小日向に似会うであろう水着を模索していると、階段を下りる音が聞こえてくる。スマホをポケットにしまってからそちらに目を向けてみると――、


「……まじ?」


 そこには白のパーカー、そしてベージュのショートパンツを身に着けた小日向が、腰に手を当てて「驚いた?」とでも言うようにどや顔を決めていた。ついでにふすーも付いてきた。


 俺も下は彼女が履いているズボンと同じ色合いの物だし――これで外を並んで歩けばまさにペアルック。どこからどう見てもカップルである。


 しかし小日向のこの服装、太ももが眩しすぎやしないか……? おかしいな、昨日はスク水状態の小日向でさらに肌が見えていたはずなのに、直視できん。これがショーパンマジックか。


「……ちなみにさ、ずっと聞きたかったんだけど……それ、前から持ってたの?」


 俺の問いかけに対し、小日向はぶんぶんと首を横に振る。そしてスマホで『おそろい!』と感嘆符付きの言葉で俺に説明してきた。説明になっているかは微妙なところだが、言いたいことは理解できる。


 つまり小日向は、俺がこの服を着ているのを見たあとに購入したということだろう。

 俺とおそろいになるからという理由で。

 パパとおそろい! って感じだろうか?


「カップルと思われるかもしれないぞ?」


「…………(コクコク)」


 承知の上らしい。


 それなら別に……いいのだろうか?

 恋人でもないクラスメイトとペアルック状態で買い物に出かけても、問題ないのだろうか?


 ゲームセンターに行ったついでに、プリクラを撮っちゃったりしても、いいのだろうか?

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る