第77話 昼休みとKCC
今日は朝から鳴海と黒崎の二人に話しかけられるという、すこし変わったイベントが起きた。
ここ桜清学園は共学であり、俺は休み時間もずっと突っ伏して会話を拒否しているような感じでもないので、これまでも女子から話しかけられることは少なからずあった。
しかしどれも内容は業務連絡的な内容や、景一に関してのこと。
ごくごく稀に何気ない会話を振ってくる人もいたが、俺は女性への苦手意識があったために、そっけなく対応し早々に話を切り上げていた。
だからきっと小日向は、俺がクラスの女子と普通に話している姿を、ほとんど――いや、まったく見たことがないのだと思う。
パパが他の女のところに行っちゃうとか思ってんのかね……心配せずとも俺はお前にしか興味ないんだがな。
「どうしてそんなことになってるの?」
昼休み。
いつも通り、俺たちはレジャーシートを広げて、その上で各々昼食を食べ進めていた。
胡坐をかいている俺の隣には小日向が座っている。まぁこれはいつも通りなのだが、今日の小日向は俺の肩にもたれかかるよう身体を傾けており、その食べにくいであろう姿勢のまま食事をとっていた。可愛い。
そして時折、小日向は何かを警戒するように辺りを見渡したりしている。
疑問符を浮かべる冴島に対して俺が肩を竦めていると、景一がこそこそと耳打ちする。冴島は若干頬を赤らめて、緊張したように身体を強張らせていた。いちゃいちゃしやがって。
たぶん景一が話しているのは、「小日向がヤキモチをやいている」という内容だろう。それが正しいのかは本人のみぞ知るところだが、その確率は高めだと俺も思っている。
「別に俺はどこにも行ったりしないんだがな」
相手に気を遣ってもらわないとまともに喋れないならば、無理に関わるのも申し訳ない気持ちになるし。その点で小日向はやはり俺にとって最高の存在だ。俺も気楽だし、彼女も意識せず俺と普通に会話でき――いや、一緒にいれるのだから。
あと単純に、俺が小日向と一緒にいたいからどこにも行かないという理由もあるが。
「小日向自身も智樹がどこか行っちゃうとか考えてなかったんじゃね? それが今朝、可能性として考えてしまったみたいな」
景一が苦笑しながらそう言うと、小日向は唇をやや尖らせてから俺の肩に頭突き。少し強めのグリグリだった。
なんとなく、図星を突かれたような反応に思える。
最高に可愛いのでこのままにしておきたい気持ちもあるけれど、小日向の心情も穏やかじゃないだろうし、安心できるような言葉を掛けてみることにした。
あくまで、小日向がヤキモチを焼いていれば――の話だけども。違ったらめちゃくちゃ恥ずかしくね?
「あのなぁ小日向、俺が他の女子を家に泊めたり、一緒に寝たり、こうして肩をくっつけて食事しているのを見たことあるか?」
俺の言葉を受けて、小日向は俯いた状態で首を微かに横に振る。なんだか小さな子供に言い聞かせている気分だ。
というか……改めて口にしてみるとすごいことしているよな俺たち。歴戦のバカップルかよ。
「これからも小日向以外にそういうことする予定はないから、独占したいなら好きなだけ独占したらいいさ」
もし見当違いのことを言ってしまっていたら羞恥心で死ねる――そんなことを思いながら話してみると、小日向は俺の顔をジッと斜め下から見つめた。
それから納得したように頷くと、座ったまま身体を移動させて、俺の目の前にやってきた。そして足をのばし、俺の胸を背もたれのようにして身体を預けてくる。
うん……もはや何も言うまい。なんだか学校だろうと何処であろうとおかまいなしになってきている気がするけど、別に他の人から苦情が来ているわけでもないし――どちらかというとKCCという謎の連中からは推奨されているぐらいだ。
そして理由は不明だが、嫉妬の視線も最近感じなくなってきている。もしかしたら「あー、またあの二人ね。はいはい」とでも思われているのかもしれないな。
小日向が満足するならば、俺はどう思われても別に構わないけど。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
~とあるKCC会員の昼休み~
『こちらルミナ。二階の窓より中庭を見下ろし、嫉妬の感情を抱く男子二名を確認』
『ご報告感謝する。鳴海二年。黒崎二年と現場に急行し、即刻排除――そしてKCCへの勧誘を開始せよ』
『こちらクロ。承知しました~』
『よろしく頼む。現場の状況により臨機応変に対応するのだ』
『かしこまりました~――というか斑鳩会長~、名前で呼んだらコードネームの意味が無くないですか~』
『すまない。小日向たんのヤキモチ顔を妄想して色々なことが頭から抜けていた。――くっ、なぜその場にいなかったのだ私よ……』
『血は足りていますか? 動けないようならウチら保健室まで連れていきますけど』
『問題ない。今救急車で病院に向かっているところだからな』
『そうでしたか~。では問題ありませんね。任務が完了したら副会長にご報告しておきます~』
『ふっ、白木副会長なら私の隣で寝てるよ』
『あぁ、一緒に運ばれているんですね……』
『当然だな』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます