第42話 鋼の誓い
薫と優、そして冴島と小日向という初対面同士が軽い自己紹介をしてから、いよいよ待ちに待った昼食タイムだ。全員用に用意してくれた弁当でも十分楽しみにしていたというのに、今俺の目の前にある弁当は小日向が俺個人に準備してくれたんだぞ? この状況で興奮せずにいられようか? いや無理。
そろそろ俺もKCCの連中をバカにできない立場になってきたかもしれない……ツッコみは多少控えるべきか。
「あいつらは何かこそこそしているし、俺たちは食べちゃうか」
「…………(コクコク)」
俺と小日向を除く四人はレジャーシートの端によって、なにやら内緒話をしているようだった。
どうせ俺と小日向関連の話だろうけど、聞かれたくないような話をしているのなら無理に聞こうとも思わない。目の前でするぐらいだから絶対に聞かれたくないようなマズい話でもないだろうし、俺は気にしないことにした。
というか、あっちよりも小日向の弁当のほうが断然気になる。
「――おぉ! 美味そうっ!」
視界の隅に映る景一たちを無視して、俺は小日向が用意した弁当をパカリと開ける。すると見ているだけで食欲をそそるような、色とりどりの料理が目に映りこんできた。
ピーマンの肉詰めの緑に、卵焼きの黄色。プチトマトの赤に、ミートボールの茶。その他にも美味しそうなおかずがちょこちょこと敷き詰められていて、ご飯の所には小さなおにぎりが六個入っていた。
しかし小日向さんや……俺の反応が気になるのかもしれないけど、ちょっと距離が近くないですかね? なんで広々としたレジャーシートがあるのに、太もも同士がくっついちゃってるんですかね!? そして至近距離の斜め下から見上げるのは、思春期男子に対しては酷だと思うのですけど!
しかしここで弁当を用意してくれた小日向に向かって『距離が近い、離れて』なんて薄情なことを言うつもりもないので、俺は彼女の密着を弁当に目を向けることで意識の外に追いやることに。
「こ、このおにぎりとか『小日向が作った』って感じがするよなぁ」
やや言葉に詰まりつつ、俺は弁当を眺めてそんな感想を呟く。
小さくて、小日向の小さな手で握ったことが窺えるサイズ感である。もうこのおにぎりだけで可愛い。てっぺんにはご丁寧にふりかけもパラパラとかけられている。
普段はあまり使わないスマホの写真機能を使って、パシャリとこの素晴らしい弁当をデータとして保存。そんなことをしていると、小日向が俺の膝をペチペチと叩いてきた。
「撮るのダメだった? 違う? ……あぁ、早く食べてみてってことか。じゃあ小日向も自分の弁当だせよ、一緒に食べようぜ」
小日向の表情と身体の動きを元に返答を推測して会話をする。たぶん一ヶ月前の俺だったら難しかっただろう。それだけ俺も小日向に慣れてきたってことだな。
小日向がいそいそと弁当箱を開けたので中を覗いてみると、中身の量は多少違うものの、料理の内容は俺が貰った弁当と一緒だった。カップルかよ。
しかし正しく表現するならば親子なのだろうし、もっと正しく言えばただのクラスメイトなんだけども。
俺はとりあえず、一番手作りっぽい卵焼きを一口でパクり。
「――ん。これ、だし巻き卵かぁ! あんまり食べたことなかったけど、これ好きだわ俺」
二つ入っていたから、もう一つはお楽しみにとっておこう。そうしよう。
しっかし――小日向は料理もできるんだなぁ……ボーリングも上手かったし、桜清学園に来ているぐらいだから勉強もできるはずだ。しかもファンクラブがあるぐらいの人気者だし……もしかして小日向、実は完璧超人か?
俺はふすふすと嬉しそうに鼻から息を吐いている小日向を見ながら、そんなことを思ったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
~四人の内緒話~
『な? 言った通り、智樹のやつ女子に対して普通だったろ? 学校でもあんな感じだぜ』
『そうだね。というか本当に付き合ってないのかい? 僕にはカップルにしか見えないんだけど……』
『だな。自分の目で見るまでは半信半疑だったが、冴島さんとも普通に話しているようだし、景一の証言が正しかったようだ』
『じゃあ僕らの【
『相変わらず微妙なネーミングだ……誰だっけこの名前言い出したの』
『薫だよ』
『俺だな! というかカッコイイだろ!?』
『ねぇねぇ、その「なんとかの誓い」って何?』
『【鋼の誓い】な。……冴島、智樹には言わないでくれよ? 絶対あいつ怒るから』
『うん。黙っていてほしいなら言わないけど』
『ならよし――ほら、小学校のころさ、智樹が女子たちとよく言い争っていたって言っただろ?』
『うんうん』
『情けないことに、そのころの俺たち三人ってめちゃくちゃ気が弱くてな、智樹にずっと守ってもらっていたんだよ』
『……そうだったんだ、あんまり想像つかないね。特に御門くんとか、すごく強そうなのに』
『薫も昔は身長も声も気も小さかったからな――それで、俺たちの代わりに女子に立ち向かっていた智樹が、結果として悪口を言われたり、女子とまともに喋れなくなってしまったわけだ』
『うん……』
『だから、智樹が普通に女子と喋れるようになるまでは――智樹が恋愛をできるようになるまでは、俺達は恋愛を禁止しようって話になったんだよ。それがなんでか【鋼の誓い】って呼ばれるようになったって話』
『僕らを庇ってくれていたトモを差し置いて恋愛するなんて、薄情な感じだしね~。というか今でもあまり僕は興味ないかも』
『それを聞いたら優に気がある子たちが悲しむだろうな。中学校からそうだけど、春奏でもかなりモテてるし』
『僕はそこの現役モデルさんと比べたらたいしたことないよ』
『恥ずかしいからやめろって――ま、【鋼の誓い】に関してはそんな感じだ。別に守らなかったって罰もないけど、智樹に感謝してる俺たちのケジメみたいなもんだな』
『そうそう。だから冴島さんも、今の景一にアタックしたら案外コロッとなびいちゃうかもよ~』
『――えっ、いやっ、あたしは別に、その……』
『……はぁ、冴島が困るからやめろってそういうの。とりあえず智樹がジト目でこっちを見てきてるし、そろそろあっちに混ざるぞ』
『了解~』
『そうだな』
『うんわかった! ――そっか、唐草くんは興味がないわけじゃなくて、今までは恋愛禁止にしてたから彼女がいなかったんだ……』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます