第37話 杉野、パパみたい
とりあえず全員空いているなら遊ぶか――ということで、俺たち四人は四月三十日の土曜、そして五月五日の木曜日に遊ぶことになった。俺はそれ以外の休日に全てバイトを入れていたので、結局予定の無い日はゼロということに。
暇な日があれば、景一や別の高校に行った小学校からの友人たちと遊ぶことも視野にいれていたが、無いというのなら仕方がない。事前にあいつらから誘いがあったわけじゃないし、今回は小日向たちと遊ばせてもらうことにしよう。親父とは夏休みにどうせ会うだろうし、こちらは気にしなくともいいだろう。
――で、だ。
せっかく朝から晩まで遊べる休日が二日あるのだけど、何をするかが決まる前に外が暗くなりはじめてしまったので、それぞれの家に帰宅することにしたのだ。
じゃあどうやって予定を立てるんだって話だが、現代には相手がどこにいようと気軽に連絡を取ることができる文明の利器が存在する。まぁスマホだ。
景一に招待され、俺は【苦手克服会議室】というグループチャットに参加した。
景一が前に言っていた「苦手克服会議」とやらは、どうやらこのグループチャットで行われていたらしい。参加者は当然、景一、冴島、小日向の三人である。
俺が入ってから一分もしないうちに、グループ名が【仲良し四人】という適当につけたであろうことが見え透いたモノに変更された。
もっと他に案はなかったのかよ。『小日向たんちゅきちゅきクラブ』は見習ってほしくないけども。
残念ながらチャットの仕様上、俺が参加する以前のチャットは見られないようで、以前にどのような会話がなされていたのかは俺が知るすべはない。どうしても知りたくなった時は景一のスマホを奪えば可能だ。
『さつきエメラルドパークはどうだ? あそこは全くとは言わないが、お金はかからないぞ』
さつきエメラルドパーク――通称エメパは、俺たちが通っていた小学校に近い場所に位置する緑地公園だ。サイクリングロードもあるし、アスレチックもあるし、動物とのふれあい広場なんかもあったりする。
広大な広場や色々な施設を含め、敷地面積は東京ドーム10個分ぐらいあったはずだ。好き嫌いはあるかもしれないけど、子供から大人まで楽しめる場所である。
スマホをタップして、俺がグループチャットに文章を送信すると、三人が即座に反応を示してきた。
『おぉエメパか、いいじゃん! あそこ入場料ぐらいしかお金いらなかったよな? しかも百円ぐらいだろ?』
『ゴールデンウィーク中だから何かイベントやってそうじゃない? あたし賛成! 安いし! 子どものころ行ったきりだから楽しみだなぁ』
『(ウサギが首を縦に振るスタンプ)』
景一も冴島も俺の提案に肯定的な返事をしてくる。
小日向も賛成のようだけど――スマホの中まで首を振っているのかこいつは。小日向っぽくて可愛いけどさ。ウサギというのもなんとなく雰囲気が似ている。
『じゃあさ、五日の木曜にエメパに行くとして、土曜日に色々買いに行くってのはどう? フリスビーとかバドミントンとかさ! 向こうで買ったら高そうだし』
『それがいいだろうな。買い物終わって時間が余ったら智樹の家でゲームしようぜ』
『(うさぎがOKの看板を掲げているスタンプ)』
『まぁ俺の家は誰もいないからな、場所を貸すぐらい全然構わないぞ』
と、そんな軽い感じで休日の予定が決まっていく。否定的な意見も出なかったし、これで確定だろうな。
しばらくだらだらと話をして、チャットも落ち着いてきたので、俺はスマホを枕元に置いてからベッドの上で仰向けになった。
すでに朱音さんから貰ったバイト代も胃袋に収めたし、風呂にも入っている。本日の予定は就寝を残すだけだ。
明日は店長が暴走しないように、そこそこお客さんが入ればいいなぁとぼんやり思っていると、スマホの震える音が聞こえてくる。
「景一か?」
グループチャットは通知をオフにしているから、個人の誰かだとは思うが……。
そんなことを考えながらスマホを手に取ると、再び振動。どうやらスマホが震えたのはチャットの知らせではなく、二件ともフレンド申請の通知のようだ。相手は冴島と小日向である。
そういえば俺はグループチャットに参加しただけで、彼女たち個人とは別に登録したわけではなかったな。
俺が申請を許可すると、即座に冴島から『許可ありがと! よろしくね!』と送られてきたので、俺は『よろしくな』という短文と適当な猫のスタンプを送り返した。
そして、小日向はというと、
『つつこうとしてたの、気のせい』
そんな文面が送られてきた。まさか小日向とスマホ越しとはいえ会話することになるとは……なんだかすごく新鮮な気分だ。文字を書いたスマホの画面を見せられることはあったけど、チャットとなるとまた受ける印象が違ってくるな。
『まさか誤魔化せると思ってるのか?』
そう俺が返事をすると、一分も経たないうちに小日向から返信が来る。
『杉野、いじわる』
『別にいじめているつもりはないんだがな』
『見て見ぬふりすべき』
『あの至近距離じゃ無理があるだろ……というか、グループチャットもいまみたいに話せばいいのに』
現在小日向は俺宛にぽんぽんとチャットを送ってきているが、グループチャットではスタンプしか送っていなかった。あれか? 他の人が大勢いると発言しづらいってやつか? 大勢といっても数人なんだけども。
『恥ずかしい』
――ということらしい。そして、
『杉野、パパみたいだから』
そんな文が続けて送られてきた。
やはりというかなんというか……納得したような、ちょっとがっかりしたような複雑な気持ちだ。まぁ俺も彼女に保護欲を感じているのだから、保護者と言われて当然なのかもしれないけど。
『なるほどな。ま、小日向の好きなようにやればいいさ。俺は別にどうしろとは言わないから』
そもそもただの同級生の俺にはそんなこと言う権利もないのだし。
『ありがと』
『まぁ見て見ぬふりはしないんだけどな!』
続けて俺が猫が「あっかんべー」のポーズを取っているスタンプを送ると、小日向は即座にウサギが猫をポカポカと叩いているスタンプを送ってきた。
なぜそんな都合のいいスタンプを持っているんだよ……猫さん涙目だからやめたげて。
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