第29話 敵は生徒会にあり!




 急激に増加してしまった上級生からの視線に対し、俺はいくつかの対処法を考えた。


 一つ目、完全に無視する。


 この案のメリットは、今までの生活を変えることなくのびのびと自由に学校生活をおくれることだ。しかしデメリットとして、意味のわからない視線を浴び続ける必要があり、悪評のある俺と一緒に行動している三人に対し、よからぬ噂が付く可能性もある。


 二つ目、視線の主に突撃する。


 乱暴な案ではあるが、一番スッキリする方法であるのもたしかだ。もしも俺に向けられる視線が悪評に対するモノであった場合、誤解を解けばあっさりと解決する。しかしこれが小日向と一緒にいることに対しての嫉妬だった場合は、火に油を注ぐことになりかねない。小日向を好意的に見ているのは、異性だけではないからな。


 つまりどちらもリスクがあり、選びづらい――という状況なのである。

 そんなわけで、俺は三人に理由を説明し、三つ目の妥協案でことを進めることにした。



「気持ちはわからないでもないけど、あんまり俺たちのことは気にしなくていいんだぜ?」


 大量の視線にさらされた翌日、水曜日だ。

 俺は景一と二人で久しくご無沙汰だった学食に訪れていた。


「いいんだよ。特定食の奢りを消化するいい機会だ。それに……俺が原因で誰かが嫌な思いをするとか気に喰わん」


「むしろこの行動で誰かさんを傷つけているとは思わないのかねぇ」


 景一はやれやれと肩を竦め、呆れたような口調と表情で言う。んなこと言われなくてもわかってるよ。


 特に小日向。『しばらく遊んだり昼食を一緒に取るのを止めよう』と説明したとき、彼女はめちゃくちゃ悲しそうな顔をしているように見えた。小日向は俺に懐いてくれているようだし、「距離をとろう」となんて言われたらそりゃいい気はしないだろう。


 俺だってできることならいつも通り過ごしたいさ。

 だけど、そのせいで小日向たちが傷つくような結果になったら目も当てられない。


「いつまでも別行動するってわけじゃないんだ。これで相手がどう変化するのか見定めて、次の行動を考えよう。可能ならゴールデンウィーク前にはどうにかしたいし」


 本日は4月27日。


 29日の昭和の日から5月5日のこどもの日まで続く大型連休目前である。


 連休中、親父殿は仕事で忙しいようなので、俺としてはまた景一たちと遊べたらいいなと思っている。もちろん、冴島や小日向も含めてだ。

 俺は稼ぎ時ということもありバイトも少しは入れる予定だけど、休みも何日かはとりたいと思っている。


「そんなにすぐ結果がでるかねぇ? ゴールデンウィーク前ってことは、今日と明日でどうにかするってことだろ? 能動的な作戦でもないし、なかなか難しいんじゃないか?」


「それは今日の変化次第だろ。何もなければまた考えるさ」


 そう言って、俺は辺りを見渡してみる。

 まだ学食に来て間もないからか、俺に向けられる例の視線は感じられない。時々チラッとこちらを見ている女子生徒もいるが、視線の先にいるのは景一だ。


 モテる男は辛いねぇ――と、暢気なことを考えながらも俺は周囲を警戒し、食事を進めていると、


「……ん?」


 きょろきょろと辺りを見渡しながら、何かを探しているような雰囲気の女子生徒が学食を訪れた。あまり見たことないし、制服の雰囲気からしてたぶん三年生。そして彼女は俺の顔を見た途端にギョッとした表情になった。


 その三年女子は口に手を当てて、驚きの声を押さえているようにも見える。顔を青ざめさせてから、彼女は掛け足で学食から去っていった。


 ……いや、さすがに意味がわからんのだが。俺が幽霊にでも見えたのだろうか?


「どうした智樹?」


 もくもくと安上がりなちゃんぽんを食していた景一に問われるが、俺も理解していないのでなんと答えていいのかわからない。俺の顔を見た女子生徒が顔を青ざめさせて逃げ出したとでも言えばいいのか? 意味がわからないけど事実なのが悲しい。


「わからん……さっぱりわからんが、変化はあった、かな」


 歯切れの悪い言葉で、俺は首を傾げている景一に言う。

 さて、この変化を元にして次の作戦を――って、どうすればいいんだ?



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「なるほど……これは智樹の言う通り、変化ありだな」


 昼休みが終わり、五限と六限の間の休み時間。

 廊下にチラッと目を向けた景一が、何かを考えるように顎に手を当てた。


「さっきからこの教室の前を意味もなく通ってる三年、生徒会役員も全員いるな。智樹も興味がないとはいえ、生徒会長の顔ぐらいは知ってるだろ」


「それぐらいはさすがに。副会長とか書記までは知らないけど」


 なぜかこの2年C組の前を意味も無く行ったり来たりしている三年生。その中には俺の知っている顔――生徒会長の姿もあった。直接のかかわりはないけれど、生徒会選挙演説は見ていたし、就任の挨拶も記憶に新しい。


 現在の生徒会長は十人中九人は認めるであろう美人であり、選挙では他を圧倒する票数で勝利をもぎ取っている。名前は忘れた。

 憧れや羨望の眼差しで見られる類の人だと思っていたけれど、現在は2年C組のほぼ全員から奇異の視線を向けられていた。そしてチラ見が目も当てられないほど下手くそである。なぜ目と一緒に口までこちらに向けるんだ。


「智樹と小日向を気にしているみたいだけど、めちゃくちゃ動揺してる感じだな」


 景一の言う通り、生徒会長を含め意味不明な行動をしている三年生は、そろいもそろって焦ったような表情を浮かべているのだ。理由は不明。視線から察するに、俺や小日向に関わることであるということは間違いないのだろうけど。


 なんだかあの慌てふためいた様子を見るに、俺から接触するまでもなくお相手さんのほうから声を掛けて来そうな気さえしてきた。


 そして、その予感は的中する。



『2年C組、杉野智樹君。放課後、生徒会室へお越しください。繰り返します――2年C組、杉野智樹君。放課後、生徒会室へお越しください』



 六限の授業が終わって、掃除の時間。

 そんな俺を呼び出す放送が校内に鳴り響いたのであった。


 

 

 

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