第21話 ゲームセンター



 カタ、カタ、カタ、カタ――。


 そんなのんびりとした音をたてながら倒れていくボーリングのピンを、俺たち四人は静かに見守っていた。


 投球者は小日向。彼女はボールを投げると、結果を見ず席へと戻ってくる。


 そして小日向が投げる球はとてもゆっくりなので、ボールがピンに到達するよりも先に、小日向は待機する場所にテコテコと戻って来てしまうのだ。俺や景一ではおそらく走っても無理な技である。


「………………改めて思ったけど、小日向強すぎじゃない?」


 最後のピンが倒れたところで、景一がうわ言のようにそんな言葉を口にする。俺もそう思う。そして男としての自信が少し削られた気がするよ。


 一ゲーム、二ゲームを終え、現在三ゲーム目だ。


 勝負の行方はというと、三ゲーム目の勝敗を気にするまでもなく、俺と小日向チームの勝利が確定してしまっている。原因は小日向。めちゃくちゃ強い。


「平均220ぐらいか」


 映し出されている液晶を見ながら俺が何気なくそう呟くと、隣に行儀よく座っている小日向がコクコクと頷いた。


 どう考えても一般の高校生レベルのスコアじゃないんだよなぁ。俺は調子が良い時ですら200を超えたことなんて一度もないぞ。


「これでも明日香は調子悪いほうだよ? あたしや静香さんと行く時はもっと凄いから」


 ニヤリと笑いながらそんなことを言っている冴島はというと、一ゲーム目と二ゲーム目を足しても小日向の一ゲームのスコアに届かない程度。

 小日向が異常なだけで、冴島の点数は別にそこまで悪いってわけじゃないんだろうけど。隣のレーンで投げてる女子高生は、もっとひどい点数だし。


「小日向、凄いな」


 ボーリングが始まってから、もう何度言ったかわからないセリフを再度口にすると、隣に座る小日向は嬉しそうに左右に揺れる。そして無表情のまま、鼻からふすーと息を吐いた。褒められて嬉しいのだろうか?


「次にやる時は、男同士、女同士で組んだほうがいいかもな」


 今日の点数を見る限り、それでちょうどいい勝負になると思う。揺れる小日向を見ながら俺がそう言うと、彼女はピタリと動きを止めた。そして斜め下からジッと俺の顔を見上げてくる。


「ん? どうした?」


 何か言いたいことがあるのだろうか――そう思って問いかけてみると、なぜか彼女は目を閉じて、ぷいっと俺から顔を逸らしてしまった。


 小日向が嬉しいときの判別は難しいけれど、ご機嫌斜めなのはわりとわかりやすい。俺、今度は何をやってしまったんだろうか。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ボーリングを終えた俺たちは、同じ施設内にあるゲームセンターへと向かった。このボーリング場は一階と二階がボーリングをするためのスペースになっていて、地下には大きなゲームセンターが広がっている。


「こういう無料券で遊べるやつって、だいたいめちゃくちゃ難しいか景品がしょぼいよな」


 エスカレーターを下りながら、景一が『クレーンゲーム一回無料』と書かれた半券をちらつかせながら言った。


「そりゃ無料だからな」


「取れなくてもタダで遊べるなら良し、だよ! というかボーリング場的には、取られても取られなくても、ゲームセンターに足を向かわせること自体が目的なんじゃないかな?」


 景一の言葉に俺と冴島が返答する。BGMが少し大きくなってきたので、俺たちの声もいつもより大きめだ。ちなみに小日向はいつも通りコクコクと頷いていた。


 エスカレーターを下りながら薄々感づいてはいたけれど、やはり日曜とだけあって人がかなり多い。ボーリング目的ではなくゲームセンター目的でこの施設に来ている人もきっとかなりの数いるだろう。


 パッと見渡した感じ、家族連れはもちろん多いが、年配の人も学生たちもかなりの人数がいるようだ。人混みが苦手な俺としては、あまり長居したくない場所である。


 桜清学園のやつがいたら面倒だろうな……もし景一がいなかったら魔女狩りのごとく焼かれていたかもしれん。こうして遊びに来た以上、あまり気にしすぎるのもよくないと思うけど。



「小日向はやらないのか?」


 無料券が使用できるクレーンゲームの前にやってきたところで、小日向が俺に半券を手渡してきた。俺の質問に、彼女はコクコクと頷く。


「あまり欲しい景品が無かったのか?」


 ブンブン。


「じゃあクレーンゲームが苦手とか?」


 コクコク。


「無料だからあまり気にすることもないんだぞ?」


 別に取れなかったとしても、クレーンを動かして一喜一憂できればそれでいいと思うんだがなぁ。小日向は首を横に振っていて、ゲームをする気は感じられない。


 もしかするとボーリングでは小日向が活躍したから、この場は俺に譲る――ということなのだろうか? 俺、別にクレーンゲーム得意でもないんだが。


「じゃああたしも唐草くんに託しちゃおっと! 期待してるね!」


「うぉおいっ! 智樹のせいで余波がこっちに来たんだけど!?」


「別に俺は悪くないだろ!? 文句を言うならこの無料券に言ってくれ!」


「無料券、お前のせいでぇっ!」


「マジでやるなよ……めちゃくちゃバカっぽいぞ景一」




 結果――女子から想いを託された俺と景一は、無料券で一つも景品をゲットすることができなかった。

 それからムキになった男二人はまんまと企業の戦略に乗ってしまい、財布片手に両替機へと向かって行くのだった。

 


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