第20話 ボウリング
バスに揺られること二十分。俺たち四人は目的地であるボウリング場へ到着した。
俺と景一はこの場所に何度も来たことがあるし、おそらく冴島や小日向も来たことがあるんじゃないかと思う。施設が大きく充実したものであるという理由と、付近に他のボーリング場が無いという切実な理由があるからだ。
必要事項を記入した用紙を受付に提出して、それぞれサイズのあったシューズをレンタル。そして、色とりどりのボウリング玉の中からちょうどいい重さの物を選択し、俺たちはレーンへと向かった。
せっかくなら――ということで、俺たちは二つのレーンを使って対戦形式をとることになった。
始める前に確認したスコアを参考にしてチーム分けを行い、三ゲーム行って勝者チームにジュースを奢るという実にわかりやすい勝負である。
「景一のやつ……絶対自分のスコアを低めに見積もったよな。そうまでしてジュースを奢られたいかね」
俺はレンタルしたシューズに履き替えながら、隣のレーンで肩をぐるぐると回している景一を見る。
記憶が正しければ、俺よりも景一のほうが良い点数を出すことが多かったはずだ。ボウリング場で遊ぶ時はだいたい勝負になるから、どちらの勝ちが多かったのかもなんとなく覚えている。
しかしこいつは「俺より絶対智樹のほうが上手いって。小日向は軽いボールしか投げられなさそうだから、バランス取るために智樹がペアが良いだろ。女子たちもそれでいい?」などと発言し、結果として俺はこの中で一番点数が低いとされる小日向とペアを組むことになった。
ジュースを奢れば小日向とペアになれると考えれば、意外と安い買い物なのかもしれない。それにしても、景一が話しているときに、何故か冴島が苦い表情を浮かべていたが……あれはなんだったんだろうな?
「シューズの紐はしっかり結んでおけよ。転んだりしたら危ないからな」
俺はまるで保護者のように、隣で靴ひもを結んでいる小日向に声を掛ける。
すると彼女は、俺の顔を見上げてコクコクと頷いた。任せな! という意思を感じる。
本日の彼女の服装は、喫茶店に来たときのようなふわふわとしたものではなく、帽子と同じチェック柄のパンツに、やや大きめの白いニット地の服。
可愛い私服姿の女子と休日にボウリング場か――景一たちの存在を脳から抹消すればまるでデートみたいだ。……いや、どちらかというと親子のお出かけかもしれない。少なくとも、小日向は『デート』だなんて浮ついたことは考えていないだろう。
そしてついに始まった一ゲーム目。最初の一投目はどちらのチームも男子からだ。
二回投げて、景一は9本、そして俺が8本という結果に終わる。まぁ最初は肩慣らしみたいなもんだし、こんなところだろ。
「いやぁ、結構久々だから感覚がわからねぇな! はっはっは!」
「でもすごかったよ! ピンが壊れるかと思うぐらい速かった!」
隣のレーンからそんな二人の明るい声が聞こえてくる。景一は技巧派というよりパワースタイルだからな。女子からするとインパクトのある投球に見えただろう。
そして俺アンド小日向チーム。
「こんなもんかな。正直俺はそんなにうまいわけじゃないから、過度に期待はしないでくれよ」
俺がそう言うと、小日向は無表情でゆっくりと頷いたあとに親指を立てた。グッドのサインをしているのだろうけど、指がちっちゃいからか、『グッ』というよりは『ニョキッ』という効果音が適切に思えてしまう。可愛い。
それから小日向はテコテコとボールが置いてある場所に近づいていき、冴島と何かを話していた。少し小日向が挙動不審に見えるが、いったいどんな会話をしているのだろうか。
「お互い調子はまずまずってところだな。いい勝負になりそうだ」
小日向と冴島が話しているのをぼんやりと眺めていると、景一が向かいの席に座ったまま声を掛けてきた。――ったく、どの口が言ってやがる。
「……小日向が軽いボールしか投げられないからって、点数が低いとは限らないからな。痛い目見ても知らないぞ?」
「え? 小日向上手いの?」
「知らん……知らないが、未知ということはどちらの可能性もあるってことだ」
もしかしたらこの中の誰よりも上手かもしれないし。期待は薄いけど。
俺のややふてくされたような言い方に、景一は「ははっ」と笑う。
「まぁいい勝負になるよう、もしも差が開きすぎたら調整はするよ。ぶっちゃけ智樹は冴島とペアより小日向とペアのほうがやりやすいだろ?」
「そりゃな。というか、やっぱりそれが目的か」
そんなことだろうとは思っていたが。
景一は俺と小日向がペアになるように仕組んだだけで、ジュースの為に嘘の申告をしたわけじゃない――ということだろう。気が利くというか、お節介というか……。
まぁ、負けても勝っても、『楽しかった』で終われたならばそれでいいか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
~女性陣の会話~
『あぁーすぅーかぁー?』
『…………(ぷいっ)』
『いくら杉野くんとペアになりたいからって、下手なふりをするのはどうかと思うなぁ?』
『…………(そわそわ)』
『視線を逸らしても誤魔化せないんだからね!?』
『…………(ふきふき)』
『なんで急にボールを磨き始めるのよ! そんなこといつもやってないじゃない!』
『…………(ぽちぽち)』
『えっと、なになに……「ジュース、よろしく」!? ひどくない!? 手加減とかしてくれないの!?』
『…………』
『――はぁ、まったく。こっちのチームが負けたら、今度学校でジュース奢ってもらうからね?』
『…………(こくこく)』
『ならよし! あたしもできるだけ唐草くんに格好悪いところ見せないよう、頑張らないと!』
―――作者あとがき―――
いつのまにか20話書いてた(/・ω・)/
レビューやフォロー、コメント、応援もありがとうございます!
全てのアクションに対しコメントのようにお返事はできませんが、作者は通知を見て喜んでおりますので!
今後の小日向さんもどうぞよろしくお願いします(o*。_。)oペコッ
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