第18話 日曜日、どうする?




 月曜日に小日向たちと昼食をとってから数日。


 なんだかんだで俺たちは毎日のように中庭に集まって、四人で昼食を食べるのが当たり前の空気になっていた。


 急に断るのも変な気がするし、そもそも俺には特に断る理由がない。

 景一がいるのはいつもと変わらないし、小日向と過ごしていると癒されるし、冴島は俺の苦手克服に対し協力的だしな。


 強いていうのであれば周囲からの反応が少し気がかりだったが、これは月曜に四人で話してからあまり気にならなくなった。嫌な視線を感じていたのも、俺が気にしすぎていただけなのかもしれない。


 ちなみに、月曜日に見た小日向のよくわからない行動については、冴島が教えてくれなかったので謎に包まれたままである。




「ほれ小日向。アメのお返しだ」


 昼食を食べ終わった小日向が、弁当箱をいそいそとバッグの中にしまったのを見届けて、俺は制服のポケットに入れていた袋入りのクッキーを手渡した。


 いつもより少しだけ瞼を高く持ち上げた小日向は、俺の目と、自分の手の平の上にあるチョコチップクッキーを交互に見ている。


「あれ? 智樹、俺の分は?」


「残念ながらないよ。家に余っていたのを持ってきただけだし」


「へぇーっ! 良かったね明日香! ラッキーじゃんっ!」


 景一は少しからかうようなそぶりで、そして冴島はニコニコと我が子を見守るように。

 小日向は冴島のほうを向いてコクコクと頷いているから、たぶん嫌いなものではなかったということだろう。俺は人知れずほっと胸をなでおろした。


 コンビニに売ってある物だから本当に大したものではないのだが、わざわざ買ってきたかいがあったというものだ。気恥ずかしいから『余っていた』ということにしたけれど。


「小日向には何回かアメを貰ったしな。貰いっぱなしも気が引けるし……嫌じゃなかったら食べてくれ」


 俺がそう言うと、小日向はブンブンと首を縦に振る。いつもより勢い三割増しぐらいだ。


 くっ――なんだこの生き物は……いくらなんでも可愛すぎやしないか!?


 しかしこの愛らしい姿を他者に見られてしまうと、小日向にお菓子を与えようとする輩が間違いなく増加してしまう。その確率は120パーセントを軽く超えるだろう。


 そしてその中に、悪意のない人間がいないとも限らないのだ。


 急いで辺りを見渡してみるが、幸い、現在こちらに目を向けている生徒はいなさそうだった。


 もしもあの天使な小日向を見られていたならば……そいつを四六時中警戒して学校生活を送らなければならないところだった。俺も安易に小日向におやつを与えないよう、自重しなければ。


「智樹の警戒心が爆上がりしたのはおいといて、日曜日はどうする? 喫茶店のバイト休みだろ?」


 小日向の動きを見て和む、そして周囲を警戒する。

 その行動を交互にこなしていると、呆れた様子で景一が声を掛けてきた。


 まったく……お前には小日向の愛らしさがわからんのか。IQが足りん――滝にでも打たれてこい!


「そうだな。土曜はバイトだけど、日曜は休みだよ。特に予定はない」


 俺は基本、週末はバイトを入れているが、完全に全て出勤しているわけではない。

さすがに学校とバイトの繰り返しだと疲れるし、高校生活を失っているような気分にもなる。だから最低でも月に二回は一日休みを入れるように、シフトを調整してもらっているのだ。


「あたしも特に予定ないよーっ!」


「…………(コクコク)」


 予定がない旨を伝えると、それに同調するように冴島と小日向が反応を示す。


 この二人……とてもナチュラルに反応したけど、それってつまり休日に俺や景一と遊ぶってことだからな? まぁ、こいつらは休日に俺のバイト先に来ていたし、いまさらなのかもしれないが。


 俺の怪訝な表情に気付いたのか、冴島が少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。そして、「別に隠してたわけじゃないんだけど」と前置きをしてから話し始める。


「機会があったら休みの日に杉野くんも入れて、きちんとお出かけもしてみたいね――って、例の会議の時に話してたんだー。杉野くんのバイト先にお邪魔する時は、それが目的だからすぐ解散していたし」


「へぇ……でも、そのまま遊べば良かったんじゃ?」


「それはなんというか……杉野くんの苦手克服を口実にして、唐草くんと遊んでるみたいで嫌だったし」


 苦笑しながら言う冴島に、俺は呆れ混じりのため息を漏らしてしまった。


 本当に正義そのものというか……悪意の欠片もない人種だなこいつは。そう言う人間が小日向の側にいるというのは、小日向愛好家の俺としてはとても安心できるのだが。


 まぁ、一時は俺が牙を向かれてしまったわけだけれど。


「そうか。俺も仲間外れは少し寂しい気もするから、俺もお前らの遊びに混ぜてくれ。だけど、俺の苦手に関してはそんなに気にしなくていいからな?」


 あまりに気を遣われすぎると、お互いせっかくの休日を楽しめないだろう。


 冴島と小日向――そして景一のおかげで、俺の女性に対する苦手意識も徐々に薄まってきている気がするからな。少し荒療治な気もするが、ありがたいことはたしかだ。


 こうした遊びが積み重なって、いつか普通に恋愛ができるようになったら、楽しいだろうな。




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