第12話 平常心平常心……
俺の住むマンションは、学校から見て駅がある方角に10分歩くことで辿り着く。そして俺の家から駅に行くまでは、だいたい15分ぐらいだ。
都会とも田舎とも言い難い街並みだが、利便性がいいために利用者も多いし家賃も高い。
ちなみに景一の場合は電車通いなので、徒歩の場合は駅から30分弱かかるのだが、朝はバスの本数も多いので、そちらを利用しているようだ。
「へぇ、じゃあ冴島も小日向もこの辺に住んでるんだ。穴場の店とかあったら智樹に教えてやりなよ」
後ろ向きに歩きながら、景一が女子二人に言う。電柱にぶつかれ。
現在、俺と景一の二人が前を歩き、女子二人が後ろにいるといった形になっている。自然とそうなった。
「うーん。でも正直あたしもあまりお店とか詳しくないんだよね。杉野くんが働いている喫茶店のことも知らなかったぐらいだし……明日香もだよね?」
と、冴島が小日向に話を振ると、彼女はコクリと頷く。
「あそこは穴場っぽいもんな」
「たまたま張り紙が目に入ったんだよ、運が良かった」
俺は良いバイト先を探すために、チラシやネットだけじゃなく自分の足も使って探した。できるなら一か所で長く働けたほうが良いだろうし、自分の目で雰囲気を見たかったってのも理由のひとつ。
そんなことを考えながら歩いていると、景一がニヤリと笑みを作った。
そして――、
「なんにせよ、二人は智樹のマンションまで距離が近いみたいだし、気軽に遊びにこられるな」
悪びれる様子もなく、そんなことを口にした。
「おいおい、家主の意見はどこにいった」
「だって智樹、学校が終わったあと毎日暇そうじゃん」
「暇なのは間違ってないが、こいつらは女子なんだぞ? 男子が遊びにくるのとはわけが違う。俺も気を遣うし、二人の都合もあるだろうが」
呆れ混じりにそう言うと、後ろから制服の裾をツンツンと引っ張られた。
こんなことをするのは一人しか思いあたらないので、俺は顔を確認するまでもなく、「どうした小日向?」と、問いかけながら振り向く。すると彼女は、ブンブンと頭を縦に振っていた。どういう意図なんだろうか。
「……ふむ……別に平気ってことか?」
そう確認すると、小日向は再度頷く。
あぁ……なるほど。小日向は恋愛とかに興味なさそうだし、俺をあまり男子として認識していないんだろうな。
彼女の周りには男女問わずに人が寄ってくるから、俺もその一人としてカウントしている可能性が高い。バイト先に来てくれるぐらいだから、ほんのちょっとぐらいは、特別視してくれているのかもしれないけど。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ただいまー」
「おじゃまします」
「…………(ペコリ)」
俺の家に、クラスメイトの三人が三者三様の挨拶をしながら入ってくる。
というか景一、『ただいま』はどう考えてもおかしいだろうが。だがツッコまんぞ。
俺はつい先ほど、三人を玄関扉の前で数分待たせて、部屋の換気と室内のチェックを高速で終わらせた。だから何も問題はないと思うが、さすがに女子を家に入れると緊張で心拍数が上がってしまう。女子と話すのが苦手とはいえ、健全な男性高校生でありますので。
「ゲーム機は俺がリビングに持っていくから、景一は冷蔵庫からお茶でも出しておいて、人数分」
「了解~、コップはどれでもいい?」
「好きなの使ってくれ。えーっと……小日向たちはそこに座っていてくれるか? 準備は俺たちでやるから」
俺はそう言って、女子二人にこたつへ入るよう促す。
もう季節的に暖かくなっているため電源コードは外してあるが、こたつ布団はそのままだ。女子二人は俺に言われるがまま――だけど少し緊張した様子で、こたつの前に腰を下ろしたのだった。
自室に通学バッグを置き、学生服の上着だけハンガーにかけた俺は、ゲーム機を持って三人が待つリビングに向かう。そして、固まった。
「そうか……そうなるのか……」
目の前に広がる光景を見て、俺は思わずそんな言葉をつぶやいてしまった。
俺の住むこのマンションには、リビングに横長のこたつ、それから薄型のテレビを乗せたテレビボードがある。
四人でゲームをするとき、こたつの一面は使えない。なぜならその場所はテレビの目の前で、視界的に邪魔な位置だし、向きが逆だ。
だから小学校の頃からの友人と四人で遊ぶときは、左右に一人ずつ、そして正面の横長の一面を二人で使っていた。
だが、今日は男子二人に女子二人という初めてのメンバーだ。色々と制限がある。
「俺は別にいいんだけどさ、小日向たちはその配置でいいのか?」
そう問いかけた理由は、空いているスペースが小日向の隣だけだったからだ。
左の面に景一、右の面に冴島――そして正面の横長の一面には、小日向が右に寄って座っている。小日向はこちらを斜め下から見上げて、コクコクと頷いた。
「こっちの方が明日香と話しやすいし、杉野くんも明日香と話しやすいんでしょ? だったらこれが一番いいかなって」
えへへ、とはにかみながら冴島が言う。三人は納得しているようだし、俺に配慮してくれた結果ならば、否定するのは申し訳ない。
しかし、しかしだ。
口では格好つけてクールに『別にいいんだけど』と言ってみたものの、女子のすぐ隣に――しかも電車の座席なんてものではなく、こたつだぞ! わかるか!? KOTATSUだぞ!? 平常心でいられると思うか!?
しかも相手は見た目も言動も可愛らしい小日向ときた。相手がこちらを全く男として意識していなさそうなのが少し空しくなるが、俺が意識するかしないかはまったく別の問題である。
「お、お茶ありがとうな、景一」
「――ぷっ、くくっ――気にするなよ」
こたつに足を入れながら必死に平静を装っていると、景一は顔を俯かせて笑いを堪えている様子。
はい! 特定食の奢り、追加で入りましたぁ!
「せ、狭くないか? もう少し詰めようか?」
平常心平常心平常心――そう心の中で呟きながら、隣の小日向に問いかける。身体と身体の距離は、僅か五センチほどしかない。
俺の問いに、小日向は視線をテーブルに落としたまま首を横に振る。そして一瞬チラッと俺の目を見たが、すぐに視線を逸らされてしまった。
「……そ、そうか」
まさかとは思うが、小日向も景一のように俺が動揺しているのに気づき、心の中で笑っているのだろうか……? なんだか耳がいつもより赤い気がするし、無表情ながらも必死に笑いを堪えていたりするのだろうか? だとしたら寂しい。俺の勘違いだと願いたい。
もしそうでなかったとしても、結局理由はわからないのだけども。
―――作者あとがき―――
小日向ちゃん、可愛いすぎんか……?
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