第9話 来たぜ!
「来たぜ!」
「またかよ!」
翌日の日曜日。またしても昨日と変わらないメンバーがバイト先にやってきた。
ちなみに昨日の夜、バイト先に学校の女子二人を連れてきたことに対して文句を言うついでに、なぜあんな一人と二人の構図になっていたのかを景一に問いただした。
すると驚くことに、俺が複数の女性を苦手とすることを知った小日向からの提案だったようだ。
これにはさすがに俺も驚いた。
小日向は三人の中でもっとも意見を言いそうにない人物だと思っていたんだが……わからないもんだな。
しかし今日も来てしまったか……連日となるとさすがになぁ。こっちは仕事中なんだぞ。
俺がガックリと肩を落としていると、スマホを弄っていた小日向が、ビシッと手を突き出した。またメモに何かを書いたらしい。
『来たぜ!』
そんな三文字と感嘆符が記されていた。
「景一の口調まで真似しないでくれ……」
やばい……純粋無垢っぽい小日向が、俺の友人によって悪影響を受けてしまいそうだ。
なんとか冴島に守っていただきたい。
「ごめんね杉野くん、また来ちゃって」
頼りにさせて貰おうとしていた冴島が、申し訳なさそうに頭を下げる。頼りになりそうにない。
本当に彼女はあの日叫んでいた女子生徒と同一人物なのだろうか? 双子とかじゃないよな? 物静かすぎやしないか? ドッペルゲンガーか?
「……はぁ、もう別に謝らなくていいって。それに昨日景一から聞いたけど、俺の苦手克服のためにわざわざ金払って店に来てくれてるんだろ? 別にそこまでお前が協力する必要はないんだけどな。金がもたんぞ」
「だけど、実際あたしのせいだし」
彼女がやたらと口数が少ないのは、俺がよく喋る女子が苦手ということを気にかけてくれているのだろう。そこまで気を遣われると申し訳ないんだが。
「とにかくだ。あの件に関してはもう終わりにしてくれ。俺も冴島にキツイこと言って悪いと思ってるんだからさ、気を遣ってしまうだろ」
「そ、そうだったんだ、ごめん」
「だから謝るなって。……まぁ、お前がこの店の存続のために売り上げに貢献したいというのなら、好きに来たらいいさ。店長も喜ぶからな」
「わ、わかった! 貢献する!」
そう言って、冴島はぐっと拳を握る。
責任感とか、正義感とか――本当に当時の女子たちを思い出すような性格だ。
小学校のころにこうやってすぐに和解できたのなら、きっと今こんなことになってなかったんだろうな。
「で、またこの配置と」
当たり前のように別れて席に着いた二人と一人。
今日は景一たちのあとに常連の老夫婦が訪れたため、あまりふざけたりはしていない。
お冷を小日向の元へと運び、声を掛ける。
「お前もあっちの席に行ったらどうだ? 俺が話しやすいように配慮してくれたみたいだが、そもそも俺、仕事中だからな? 私語をあまりするつもりはないぞ?」
小日向は首をブンブンと横に振る。これは席を移動しないという意思表示だろうか。
「お前がそれで良いなら、俺はこれ以上何も言わないけど」
コクコクと頷く小日向。本当にいいのかよ。
「まぁおかげで俺が小日向と話しやすいのは事実だけどな。気楽というか落ち着くというか……冴島とも普通に会話はできるけど、やっぱりちょっとは緊張する」
たぶん脳が「こいつはもう大丈夫」だとわかっていても、まだ身体が理解してくれていないのだろう。時間が薬ってやつだろうか。
「小日向の場合、最初の印象からして無害だった。だから平気なんだろうな」
俺が自分の中で納得していると、小日向はスマホを差し出してくる。昨日同様、画面を見ろということだろう。
『中庭 ごめん』
いつも通りの短文。しかし、彼女が言いたいことは伝わった。
「冴島を止められなかったことか?」
コクコクと小日向は頷く。
きっと彼女は学校で俺が言ったことを気にしてしまっているのだろう。
小日向に向かって、「もっと自分の意見を言ったほうがいい」とか……あの時の俺は随分と偉そうなことを言ってしまった。
「それはもういいよ。俺もあの時はきつく言い過ぎた、すまん。だけど、小日向が周りに振り回されないためにも、俺はもう少し周りに関心を持ったほうがいいと思うな」
俺の言葉に、小日向は再度頷く。
なんだかいつもより、頷く速度が速く回数も多い気がする。気のせいかもしれないが。
「注文決まったら視線で合図してくれ、気にしておくから。じゃ、俺は二人のところに水持って行くよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
午後八時。バイトを終え、俺は自宅のマンションへと帰宅した。
フルタイム勤務の時は店長がまかないを作ってくれるので、一人暮らしの俺としてはとてもありがたい。弁当よりも美味いし、何よりも無料だから。
オートロックのキーを解除し、エントランスホールへ。築10年そこらのはずだが、こまめに手入れがされているようで、壁も床も新品の様に綺麗だ。
「ただいまっと」
エレベーターと自前の足を駆使して、ようやく俺は506号室へと帰還を果たした。
帰宅の挨拶をするものの、一人暮らしのため返事はない。もしも『おかえり』なんて返ってこようものなら、すぐさま回れ右だ。
仕事はいつもどおりな感じだったし、立ち仕事なので多少足に疲労は感じるが、日常生活にはなにも支障はない。景一たちのせいで気疲れはしたけれど。
部屋の間取りは、1LDK。学生の一人暮らしにしては大層立派な部屋である。
俺としてはもっと安いアパートでも全然かまわなかった。オートロックも別にいらないし、古びて崩れそうな1Kの部屋でも文句を言うつもりは無かったのだ。
だが、親父が「俺が遊びに来たとき狭かったら嫌だ」などとのたまった為に、こんな状況になってしまっている。その親父は、現在仕事で他県に移動し、俺と同じ一人暮らし。
「ゴールデンウィークはどうすっかな。親父の仕事次第だけど」
俺が親父の元へいくか、親父が俺の元に来るか。
家族は俺たち二人しかいないので、選択肢も当然二択。まぁ、日程が合わずにそれぞれの休日を過ごすってパターンもあるけど。
風呂の電源を入れてお湯を溜めている間に、干していた洗濯物を取り込んでいく。
「親父が無理だった時はバイトいれてもいいか。だけどせっかくの連休だしなぁ。景一が捕まればあいつと遊ぶのも有り……だけど何しよう?」
高校生の遊びと言えば、パッと思い浮かぶのがカラオケ、ボーリング、ゲームセンターとか。ふと、それらの遊び場で友人と遊ぶことを想像していると、何故か小日向の姿が頭に思い浮かんだ。
「――くくっ。もし小日向がゲームセンターとか行ったら、クレーンゲームの景品とかジッと見てそうだな。そして指差して頷いてそう。スマホに書くなら『欲しい』とかだな」
俺はそんな風に一人で小さく笑いながら、取り入れた洗濯物を畳むのだった。
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