第2話 クラス替え
喫茶店のバイトで稼ぐに稼いだ春休みが明けて、始業式。
結局何が言いたいのかよくわからない校長と、真面目なことを言っている美人な生徒会長の話を聞き流したあと、俺を含む生徒たちはクラス替えの告知を受け、新たな教室へと移動を開始した。
がやがやと騒がしい廊下を歩き、たどり着いたのは2年C組。
教室の窓にはクラスの名簿が張り出されていて、そこには俺の『
自分の名前を確認したあと、上から順に名簿を眺めてみると、
「景一もC組なのか。それに――」
まず目に入ったのが『
なんにせよ、同じクラスに話しやすい友人がいるのは助かる。放課後遊ぶことも多いから、いちいち他のクラスの終礼を待つ必要もなくなるし。
そして次に目についたのが
間近で見たのもまだ自販機の前で話しかけた時の一回きりだし、彼女がどういう雰囲気の人物なのかは定かではないが、印象に残っているのはたしかだ。
新たな級友たちに混じって教室へと足を踏み入れると、男数人と話をしていた景一がこちらに気付いて声を掛けてきた。
「やったな智樹! 同じクラスだぜ!」
喜びを前面に押し出してくる景一に気恥ずかしくなり、俺はそっけなく手を振りながら「はいはい」と返事をする。
「よろしくな景一。あとそっちの二人もよろしく――元A組の杉野だ」
俺はそんな風にクラスメイトと簡単に挨拶を交わして、指定の席に着く。
ありがたいことに、右から二列目の最後方の席である。座席表を見る限り基本はあいうえお順だが、視力が悪く前列を希望している人はすでに前に割り振られているようだ。早々に席替えをするようなこともないだろう。
肘をついてクラスに入ってくる生徒をぼうっと眺めていると、テコテコと小さな小日向が入ってきた。それだけで、クラスの生徒たちがわっと盛り上がる。
早くもクラスのマスコットポジションが決定しそうな勢いだ。いや、最初から決まっていたと言っていいかもしれない。
「小日向ちゃん同じクラスなんだ! よろしくね!」
「可愛いーっ! お人形さんみたいっ!」
「小日向は相変わらずちっこいなー、困ったことあったら言えよ。黒板消しは任せとけ!」
小さな体躯を取り囲むように、クラスの男女が一斉に声を掛ける。
しかし当の本人と言えば、表情を変えないまま何度かコクコクと頷くと真っ直ぐ自分の席に向かい、ちょこんと椅子に座った。俺の三つ前の席である。
小日向に群がる生徒を見ながら、「あいつも大変だなぁ」と他人事のように眺めていると、景一が興味なさげに小日向周辺をチラっと見たあと、俺の隣の席にやってきた。
「あれ、景一の席そこ?」
「座席表見て気付いてなかったのかよ! 俺は隣が智樹で喜んでたのに!」
「自分が最後尾ってだけで満足してた」
俺の気の抜けた発言に、景一は額に手を当てて「かーっ」と呆れたようなジェスチャーをする。そしてその流れで椅子に腰を下ろし、机に突っ伏した。
モデルとして活動しているとは思えないほどだらけきった景一の表情に苦笑してから、俺は視線を前に戻す――すると、周囲の人間を無視してポチポチとスマホを弄る小日向が目に入った。
あぁ、そういえば。こいつに報告してなかったな。
「そういや去年の終業式の前の日に、女子に声かけたぞ」
ぼそりとそう呟くと、景一が勢いよく身体を起こす。
「――え、え、ま、マジで? 話しかけられたわけじゃなく、自分から?」
「おう。自販機の前でちょっと話したな」
はたしてあれは「話した」と言っていいのかわからないけど。コミュニケーションはたぶん取れていたはず。
「話の内容はともかく、大丈夫だったか?」
「うーん……いつの間にか平気になっていたかもしれん。相手が小日向だったから――ってのもあるだろうけど」
「こ、小日向か――ってことは、会話はしてないんじゃないか?」
「音声だけ聞けば俺が一方的に声を掛けただけみたいな感じだろうな」
返ってくる反応は全てボディランゲージだったし。
「だよなぁ。でも、一歩前進には違いないだろ! お祝いに今度学食おごってやるぜ!」
「特定食でよろしく」
「一瞬の迷いもなく一番高いの要求する!? 遠慮はないの!?」
「ない」
「断言! だけどそこがカッコイイ!」
モデルというよりもはや芸人だな、こいつは。
まぁそれもこいつの魅力の一つなのかもしれないが。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
~放課後、とある女子の会話?~
『え? 例の自販機の人、同じクラスだったの!?』
『……(コクリ)』
『なんて名前の人? 名簿みて分かる? あたしの知ってる人かな?』
『…………』
『えっと……杉野智樹――っ! こ、これってあの人じゃん! あたし噂で聞いたことあるよ! 小学校の頃、女子の顔殴ったとか、凄く陰湿な嫌がらせしたとか、恐喝したとか色々言われてる人だよ!? クラスの友達が言ってた!』
『…………?』
『やっぱり最初に話を聞いた時におかしいと思ったもん! 先生も学食の場所は生徒が掃除する範囲じゃなくて、食堂のおばちゃんたちがするって言ってたし! きっと明日香は騙されてるんだよ!』
『…………』
『きっと恩を着せて、ひどいことを要求するつもりなんだ。そうじゃなかったとしても、明日香の気を引くために、そうやって嘘をついてかっこよく見せようとしたんだよ! だめだよ明日香! 良い人に見えたとしても、この人は絶対やめておいたほうがいいよ!』
『…………?』
『――って、言うまでもなく明日香は全然興味なさそうだけど……でもでも、杉野とは極力関わらないようにしたほうがいいんじゃない? 同じクラスになったみたいだから気を付けないと……どうしよう……あたし違うクラスだし』
『…………』
『……よし、わかった。全部あたしに任せなさい! 明日香はあたしが守るんだから!』
『…………?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます