#3 [小さな光]①


 小さなろうそくが光を放つ。

 カビ臭いコンクリートに囲まれた狭い部屋。

 入り口は固く閉ざされ、響くのは自分達の声ばかり。

「この状況、どうするのよ…」

「うーん…とりあえず助けられたから…いいんじゃね?」

 頭を抱えるようにして唸る有理子の呟きに、能天気な義希の声が答えた。


 ビルへの侵入は簡単だった。

 途中で止まってしまったエレベーターを諦めた3人が、長い階段を上り、テレビの丁度裏側にある大きなフロアの手前までたどり着くと、沢山の人に囲まれた。入り口が手薄だったのは、全ての警備がそこに集結していたかららしい。

 それでも義希は怯むことなく柄の長い斧を振り回した。その後方から有理子がナイフを投げ、沢也が銃でアシストする。最初はそれで上手くいっていたのだが、敵は徐々に気付き始める。

 義希の攻撃は、デタラメに斧を振り回しているだけでしかないということに。

 少女と町長の姿が見えた頃、最初に義希が床に倒された。後ろに腕を固められながら叫ぶ義希を見て、大いに笑った町長は、テレビに向かって「新たな獲物」が出た事を告げる。前衛が居なくなった事で、沢也も有理子も徐々に追い詰められていた。

「とんだ馬鹿が居たものだな」

 町長の笑い声が町中に響きわたる。

「うるさい。こんなの人間がすることじゃねぇ!」

「ふはははは。みっともない姿だ。街の皆が見ているんだぞ?それでもまだ続けるか?」

 精一杯の睨みをきかせる義希に対し、不気味な笑みを浮かべる町長は、カメラにこちらを映すよう指示を出した。

「みっともないだ?こんなバカげたことしてる奴の方がよっぽどみっともないだろ!」

 義希の剣幕に町長の片眉がつり上がる。

「街の皆も一緒だ!人が殺されようとしてるのに、なに黙って見てるんだよ!この子は何も悪いことなんかしてないだろ?」

 義希は彼女が車に乗せられるのを見ていた。その時耳にした噂話が、彼の眉根を更に歪ませる。

「町長の前で転んだだけで死刑?!そんなおかしな話があるか?!他にも見てたやついるだろ?なんで何とも思わないんだ?!」

 鈍い音を上げて義希の顔を蹴飛ばした町長は、震える声で叫んだ。

「私に歯向かうとどうなるか、今すぐ教えてやろう」

 言いながら側にあった剣を掴み、義希の首に当てる。

「止めて!」

 一連の流れの間も拘束され、もがく少女の瞳から涙が溢れた。

「お願いだから、もう止めてよ!」

 町長は顔だけをそちらに向け、悲痛な叫びを上げる少女を煩わしそうに眺めていた。

 その時部屋の反対側から、部下らしき人物が町長を呼ぶ声がする。部下が耳打ちをすると、町長の表情が一瞬だけ険しくなった。彼は義希を振り返り、意地の悪い笑みを浮かべる。

「ラッキーだったな。急用ができた。処刑は明日に延期する」

 町長はねちっこくそう言うと、部下に義希達を牢屋に入れておくよう指示をして、部屋から姿を消したのだった。

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