聖職者だからといって、暗殺者になれないわけじゃない

宮瀬優希

【俺は聖職者兼暗殺者、ユーリだ!】

「た、助けて下さい、ユーリ様!!どうか、私たちに救いの御手を!!」

あー……、だるっ。今日で何件目だ?こういう狂信者。通算何度目かも忘れるほどの仕事量に、つい本音が溢れてしまう。

 俺はユーリ・ミュザード。一応聖職者をやっている。俺はこの国で最も大きい教会である「聖アルフ教会」で、こういう狂信者や国民の相手をしている……俗に言う、あれだ。あー……、そう、救済者!!俺としては、救済なんてしている覚えは無いが、そう呼ばれている。

 俺が何も言わないことに不安を覚えたのか、目の前の信者たちが恐る恐るこちらを見た。おっと、こういうやつらはすぐに対処しないと、ギャンギャン騒ぎ立てて面倒くさいタイプだった。……俺としたことが、面倒ごとを増やしてしまった……。信者たちが今にも泣き出しそうな顔で、俺にしがみつく。

「ユーリ様でも救えぬというのですか!!?最高の聖職者である貴方様でも!?」

「あ……いや……」

ほら来たぞ。ギャンギャン犬の登場だ。

「ああ、とうとう神は私たちを見捨てると言うのですね、我々の行いの何が悪かったと言うのでしょう……神よ……」

(だーー!めんどくせぇぇぇぇぇぇぇ!!!これだから狂信者……じゃなくて、犬は嫌いなんだよおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!もう、お家帰りたい……)

あまりの面倒臭さに、お家帰りたいセンサーが起動する。何で俺は聖職者なったんだ……。過去の自分をハッ倒したい。切実に。ニコニコと信者たちを宥めつつ、そんなことを考えているとは誰も思うまい。泣きたいのはこっちだよぉぉぉぉぉ!

 だが俺は、に気づき、狂った笑い声を漏らした。

「ははっ」

俺の狂気じみた笑い声に、そいつらが怯んだ。そして、恐る恐る俺の名を呼ぶ。

「……ユーリ、様……?」

「……いや、何でもない。……あ、何でもあるか、ははっ、ははははは!!」

満面の笑みのまま、俺は言う。いやぁ、今日は実にいい日だ。そいつらを床に叩きつけ、「ユーリ様」ではなく「俺」の声で静かに訊いた。

「……お前ら、奴隷をこき使って、違法魔導具作らせてたやつらだよな?」

「なっ!!?」

そいつらの顔が驚愕に染まっていく。当たりか。やっぱりこいつらは、暗殺リストに載ってたやつらだ。……よーーーーーく覚えてる。最重要│標的ターゲットって書いてあったからな。こいつらはもう、信徒じゃない。標的ターゲットだ。暗殺者としての冷酷さを滲ませながら、ナイフをゆっくりと取り出す。標的達そいつらは青ざめつつも、必死に│言い無駄話を始めようとした。

「わ、私たちがそのようなこと、するはずっ……なぁ……!!?」

そいつらの│言い無駄話が始まる前に、腹部を貫いた。と同時に毒を注入。これは即効性の毒物。……もう助からない。息絶え絶えに、片方の男が言葉を発した。

「なぜ、聖職者のあなたが……このような……こ、と……」

そこまで言って、そいつは脱力した。死体の処理はしない。こいつらは、教会で生贄にするからだ。もう言葉を紡げないそいつらに、供養の言葉として伝えてやる。優しいわぁぁぁぁぁぁ!!!!

「俺は聖職者兼暗殺者のユーリ・ミュザードだ。……お前らは知らないかもしれないがなぁ…………」

教会の扉を開け、外に出る。もう、後ろは振り向かない。

「今は何でもアリの時代だぜ!!?」

これは、聖職者と暗殺者を兼業する俺の、ブラックでホワイトな1ページ。

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聖職者だからといって、暗殺者になれないわけじゃない 宮瀬優希 @Promise13

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