010:沈む人、引き上げる触手


「はぁ、はぁ、はぁ、り、リム~?」

「よし、次行くぞ」

「ええええええ!?」


 モンスターとの連戦である。

 歩けばモンスターに当たるダンジョンではあるが、その間隔はまちまちだ。いつ根から沸くか予測できる者はいないし、運が悪ければ(?)全く当たらないこともある。

 単体か群れかもぶつかるまでわからない。

 だけど、エッセなら。モンスターの位置、数、種類に至るまで正確に当てられるらしい。

 そのおかげで一時間という短時間で、十を超える数のモンスターと戦うことができた。


「り、リムっ! もう帰ろう? いっぱい戦ったし、荷物も増えてきたし」

「問題ない。まだ行ける。リュックは特別性だから短時間で取り込まれることもないし、戦闘になったら下ろせばいい」


 身体の熱が収まらない。上気した感情の行き場を吐き出すように、俺はひたすらに動く。

 戦う。

 戦って。戦って。戦って。何度も何度も何度も。剣を振るい、大地を蹴ってモンスターを倒して倒して倒しまくる。


「ッ!」


 そうしてモンスターの群れに囲まれた。

 最初は三匹しかいなかった。けれど、根から不意に一匹二匹とどんどん湧いて出て、俺たちを取り囲んだのだ。

 ゴブリン五匹、ストーンバット三匹、クォーツボア二匹。多い。しかも四方八方に囲まれているこの状況はすこぶるまずい。探索者ならば絶対に避けないといけない状態だ。


「リム、私がこの囲いに穴を開けるからその隙に」


 だけど、だからこそ。


「ハッ!」


 戦い甲斐がある。窮地だからこそ、意味がある。

 硬いダンジョンの地面を蹴り、俺はゴブリンの群れに疾駆する。迎撃に振るわれるこん棒が、屈む俺の頭部を掠め出血、肩に先端が当たり軸足がぶれるけど厭わない。そのまま、こん棒を振るって無防備なゴブリンの胸に剣を突き刺す。


「はあああああああっ!」


 血反吐を吐いたゴブリンごと剣を振るい、迫って来た二匹のゴブリンを薙ぎ払い撲殺する。


『ブゴォオオオオオオオオオオッ!!』


 獣声轟かせて突進してきたクォーツボアをゴブリンに突き立てた剣を棒に跳躍し、その自慢の角に手を引っ掛けて囲いから離脱。

 暴れまわるクォーツボアの背から【無明の刀身インタンジブル】で生み出した翡翠の剣で頸椎を貫き、半ば転がるようにして着地した。


『キキキッキキッ!』

「ぐっ!」


 着地の隙を狙われ急降下してきたストーンバットの牙が右腕に食い込む。さらにもう一匹のクォーツボアが迫って来た。判断を間違えば轢き殺される。逃げられない。逃げればあの角で貫かれるのは不可避だ。

 一瞬の思考。取るべき選択。決まっている。

 俺は翡翠の剣を投擲する。クォーツボアは角を振るいそれを弾こうとするが、角に触れる刹那、剣は消失した。魔力の供給が止まり、消滅したのだ。

 回収できなかった魔力の反動で胸に激痛が走るが歯を食いしばって耐える。奴の視界は散った魔力の粒子に一瞬だけ塞がれた。その一瞬を抜き、駆ける。

 腕を振るう。


「ああああああああっ!」


 俺の腕に噛みつくストーンバットとクォーツボアの目が合う。直後、石の如きストーンバットでクォーツボアの顔面を打ち貫いた。

 砕け散るストーンバット。鼻柱をへし折られそのまま壁に激突するクォーツボア。

 あと、ゴブリン二匹にストーンバット一匹。


「リムッ!」

「!?」


 エッセの呼びかけに咄嗟に前に転がって、背後を掠める何かを躱す。

 そこには浮遊する石像がいた。


「ガーゴイル」


 石のブロックに立つ小柄な成人男性くらい身体に角と翼、そして両腕に鋭利な爪を生やした暗灰色の石像。

 ガーゴイル。台座に立つ悪魔像のモンスター。硬い、重い、そのくせ速いという欲張り三点セット。初心者殺し。下層が主な出現場所で、上層の地上付近で見かけることは稀。俺も初遭遇だった。

 ナイフを思わせる体躯と同じ鋭利な石の爪が、俺の肉を抉り裂こうと振り回される。


「くっ!」


 射程は俺の剣よりも短い。なのに隙がない。

 単純に速いのもあるが、浮遊していることで余計な予備動作がなく、単純に腕を振り回すだけで隙のない攻撃を確立しているのだ。

 何より、戦いにくい。そして。


「フッ! ……チッ!」


 ほんの僅か。爪の射程を見極めて振るった翡翠の剣の切っ先がガーゴイルの腕に当たるも、傷をつけられない。それどころか翡翠の剣に亀裂が走った。

 俺は砕かれる前に翡翠の剣を魔力に還元して回収する。

 致命的な硬度不足だった。


「リムッ!」

「こっちはいい! そっちの残りを頼む!」


 ガーゴイルの弱点はわかっている。蝙蝠のようなその翼。

 重さ的に魔力を用いた浮遊ではあるが、その姿勢補助を担っているのが翼だった。

 そして、薄い岩の翼は普通の武器でも砕くことが可能だ。

 故に倒せないことはない。

 一目で内臓ごと抉り出されそうなあの爪を掻い潜って背中まで肉薄できれば、の話だけど。


「…………ああ、やるよ」


 俺に後退はない。倒せない相手ではないなら、噛みついてでも倒すだけだ。

 俺はガーゴイルと距離を保ちつつ、ゴブリンの死骸からショートソードを回収する。取るのに手間取ったのはほんの一瞬だ。それでも戦場ではその一瞬が命を左右する。

 引き抜くと同時に構えた剣に、ガーゴイルの爪が火花を散らす。剣を砕きかねない快音。音の良さと裏腹に焦燥が背中を這いまわり、一瞬の迷いが快音ではなく肉を裂く音に変わるのだと告げてくる。

 左手の爪を弾きそのまま左手側へ潜り込もうとするが、ガーゴイルはあえて台座を地に落とし、その勢いで反転。背中を取らせようとはしない。


「くそっ!」


 狙いがバレている。いや自分の弱点を自覚しているのだ。

 その上、動きが変わった。単に爪を振り回すだけでなく、巨大な台座を鎚のように振り回してくる。

 岩の塊だ。そんなもので殴打されれば、どうなるか。こん棒の比じゃない。頭部を掠め、肩に引っかかる度、身体が弾け飛んでしまわないか恐怖する。


「……恐怖、してる場合か!」


 いままさに逃げないと決めたばかりだろうが。

 怯えるな。恐怖は判断を迷わせる。考えろ。手はある。そうじゃなきゃ、皆ガーゴイルにやられてるはずだ。


「……浮遊。重いけど、浮いている」


 俺はあえてガーゴイルの間合いに踏み込む。二本の鋭爪が迫りくる。一本は屈むことで躱し、もう一本は剣で爪の間に入れるように受けた。

 このまま腕を捻られれば、剣は折られる。だが、俺の左手はフリーだ。


「【無明の刀身】!!」


 生み出したのは最速で発現できる翡翠の剣。だが、それは相手を斬るためでも砕くためでもない。ただ、肩を押すための棒だ。


「フンッ!」


 渾身の突き。けれど貫くための物でなく押し出す突きだ。


『!?!』


 肩を押されたガーゴイルは翻り反転する。

 ガーゴイルは重い。だが、それは地にあるときで浮遊しているときは話が別。姿勢制御を翼でしなければならないほど、繊細なバランスで浮遊している。

 ならばそれを押してやれば、簡単に弱点を差し出してくれる――!!


 翡翠の剣。ショートソード。全身全霊の一振りをガーゴイルの両翼へ振り下ろす。


『ガァアアアアアアアアアアアアッ!!』


 奇声とともに翼がしなる。


「く、そッ!」


 ショートソードのほうは半分まで翼を裂いたが、翡翠剣のほうは完全に弾かれた。

 そして、頭上高く浮遊し、ショートソードを奪われる。

 まずい、この位置、この体勢、あの重さで落ちられたら。


「リムぅうううううっ!!」


 掛け声とともにクォーツボアが空を舞った。見事に回転して空を切るそれは、完全に意識外だったガーゴイルの横に直撃する。

 ぐらつくガーゴイル。その上、翼が半分切れているせいか姿勢制御も遅い。


「ッ!」

『!?』


 跳躍しながらイメージ。本物はリュックに引っ掛けてある、登攀用のロープと鉤爪。魔力の節約と耐久度の関係から長さはほんの数M。でも跳躍分も含めれば十分に届く!


 ガーゴイルの肩に鉤爪を引っ掛け、突っ張ったロープを起点に腕の力だけでもう一度跳躍する。眼前にガーゴイル。その翼とショートソードを掴んだ。


『!!!?』

「このままっ! 落ちろぉおおおおおおおおおおおおお!」


 全体重をガーゴイルに傾け、翼を剣で抉る。


『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 急転直下。浮遊感が襲い来て、地面に激突する刹那、手を離してガーゴイルを踏み台に跳躍する。

 俺の蹴りの勢いも加わり完全に浮遊能力を消失したガーゴイルは、石像という重さをその頭部で真っ向から受け止める。


『ガッ!?』


 鈍い音がダンジョンに響き、静寂だけが残った。

 ガーゴイルは本当に物言わぬ石像となったのだった。


「はぁ、はぁはぁ……はあああああっ」


 膝をついて、たっぷり息を吐く。

 さすがにきつかった。エッセの援護がなければ、危なかった。

 そして疲れ切っているいまがちょうどいい頃合いだ。ここも今日まで来た場所とは違う。

 俺は全身を放るように後ろに倒れ込むと、硬い地面の感触が背中で受け止める。

 もちろん休むために寝転んだわけじゃない。手袋の装着していない左手を、地面に当てて神経を研ぎ澄ます。

 感覚としては【無明の刀身】を使っているときに近かった。

 掌に剥き出しにしたパスを直接ダンジョンに繋げるのをイメージする。


「っ」


 視界が急速に狭まる。気絶しつつあったのだけど、意識ははっきりしていた。

 まるで身体から意識だけが切り離されて、別の場所に飛ばされたような感覚だった。

 気づけば、暗澹たる世界にいた。


「…………」


 言葉を発することもできない場所。自分の姿すら視認できない宵闇。

 無限に泡沫が増殖、細分、破裂、膨張を繰り返して広がり続ける、際限のない世界。

 その泡沫に空気はない。呼吸する術を俺は持たず、もがけども得るものは何もない。

 ただ、果てしなさがあるというだけ。

 泡沫に触れたところで何も起きない。いや、触れられているかすらわからない。

 それらが何なのか、ここが何のために存在するのか。幾度か繰り返し見てきたけれど俺にはわからなかった。

 息の続く限り、俺は深奥へ潜り続ける。

 けど、いつもなら息が続かなくなって戻るはずなのに、それより早く覚醒の光へ引き戻された。


「リム! しっかりして! 起きてっ!」

「……エッセ」


 急速に開けた視界いっぱいにエッセの顔が広がった。いまにも泣きそうな慌てふためいた顔。厳めしいはずのギザギザの歯がどこか弱々しく見える。


「うぅ、いきなり倒れるからびっくりしたよぉ。早く! 右腕血でいっぱいだから止めないと!」

「あー。そっか。うん、まぁ見た目ほど酷くないと思うし」

「それ、私の真似? リムは人間なんだから無茶しちゃダメだよ!」


 エッセの甲高い声は戻って来たばかりの頭に酷く響く。

 思考が上手く働かない俺のベルトポケットをエッセはまさぐり、青い液体の入った小瓶を取り出した。鍛冶工房【隻影】のじいさんにもらったポーションだ。

 右腕の袖をめくって、ストーンバットの咬傷にかけてくれる。


「ッ!」


 気つけには充分すぎる刺激だった。

 ポーションをかけられた傷口から白煙が立ち昇って、出血が治まっていく。


「ちょちょ、ちょっと待て全部かけなくていい。もう止血出来てる」


 俺はエッセの手を掴んでポーションをひったくり、そのまま煽った。

 直接かければ傷を癒すが、飲めば疲労回復と自己治癒力を促進してくれる魔法薬だ。

 残念ながらまずい。鼻を突き抜けるような清涼感とは裏腹に喉にへばりつくような甘味とえぐみは何度飲んでも慣れない。


「あとは包帯巻いとけば大丈夫だから。そんな心配そうな顔すんな」

「だけど」

「ほら、ダンジョンに没収される前に回収して次行くぞ」


 身体を起こし、まずは残ったガーゴイルの片翼を回収する。


「次って待って、リム。もしかして、まだ探索続けるの?」

「そりゃな。まだまだ」


 愕然とするエッセが目を剥いて、頭を左右に振った。


「ダメだよ! もういっぱい怪我してるよ!? 早く帰って治療してもらわないと!」

「いやだからこれくらいポーション使えばいけるって。ほらエッセも戦利品回収してくれよ。ダンジョンに取り込まれたらもったいな」

「それだけじゃない!」


 エッセの叫びが静寂のダンジョンを裂いて響いた。


「リムも! 取り込まれるんだよ!?」


 まるで自分が苦しいのかのように、胸にあるルーティアの宝石を握りしめて、エッセはその瞳にいまにも零れそうなほどの涙を浮かべる。


「そっちか」


 ダンジョンの侵食効果現象。

 ダンジョン内にいるものは須らくその影響を受け、いずれは壁や地面などに同化する形で吸収される。傍目には喰われたようにも見えるのだ。

 その影響を免れるのはダンジョンで生まれた生物であるモンスターのみ。生きた、という条件付きはあるが。

 そのモンスターであるエッセは、触手の目で俺の身体をまさぐるように見てくる。少しの異変も見逃がさないとでも言いたげだ。


「心配しすぎだ。別に入ってすぐに取り込まれるわけじゃないってことは知ってるだろ?」

「もう入ってすぐじゃないよ。それに私たちモンスターみたいに完全じゃないでしょ?」

「死んだモンスターみたいに前兆がないわけでもない」

「屁理屈言わないで。それにさっきの、取り込まれかけてたんじゃないの?」


 俺は頭を掻いてため息を吐く。

 初めて会ったときも同じ様子を見ていただろうし、気づいて当然か。


「そうだ。ダンジョンに取り込まれに行ってた」


 エッセが愕然とした表情を浮かべる。腕に巻き付いてきた髪の触手をぎゅっと握りしめた。


「どうして、そんなこと」

「さっき話したフラクタルボーダーを探すため。ダンジョンに取り込まれたらものがそこを通るなら、取り込まれて探したほうが早いだろ。だから自分から繋がりに行ってた。疲れ切ってから直接触るとやりやすいんだよ」

「も、もしかして、ずっとそんな無茶をしていたの!?」

「叫ぶなって、モンスターが寄ってくる」

「近くにいないよ!」


 便利だな。


「この一ヶ月、それ目当てでずっと探索してるけど、いまのところ見つかっちゃいない。場所が関係あるかもしれないから、第一階層を虱潰しに探しちゃいるんだけどな」

「なんでそこまでして」

「どうせ信じやしない。言うだけ無駄だ」

「そんなこと」


 もう経験済みだからわかっている。


「それに何も完全な自殺行為ってわけじゃない。探索者はある程度、侵食を受けないと強くなれない。むしろ“侵食を受けるから強くなれる”」

「そう、なの……?」


 侵食を受けるということはダンジョンに喰われることだが、同時にあらゆるものを記録しているダンジョンと繋がるということでもある。

 肉体の変容。

 侵食を受けることでダンジョンとの間にパスが形成され、ダンジョンに記録されたものが肉体に発現する。

 例えば、単純な身体能力の向上であったり、苦痛や毒などへの耐性、アーティファクトと並ぶ神秘――魔法の発現など。

 俺は息を整え、体内をパスを巡る魔力を活性化させ、左掌へ集中させる。


「この魔法も侵食で得られた力の一つだ」


 俺の手に翡翠に輝く剣が握られる。形状は今日買ったショートソードと同じもの


「さっきも使ってたし、階層主の腕を斬った魔法だよね」

「うん。【無明の刀身インタンジブル】って呼んでる。体内の魔力を武器に変える魔法、らしい。まぁこれ脆いし、もし砕けたらダメージが俺に返ってくる欠陥仕様だから、メインで使うのは難しいんだけどな」


 剣の維持をやめると、霧散した粒子状の魔力が掌へ吸い込まれていく。こうして魔力を還元して体内に戻せば魔力消費はほとんどないというのが唯一の利点か。

 とはいえダンジョンとのパスで得られた魔力も多いってわけでもないので頼り切ることはできない。


「で、でも! あんな無茶してもしも起きられなかったらどうするの!」

「いつもは息が続かなくなって強制的に引き戻されるから大丈夫だ」

「今回は私が起こしたよ!」

「まだ息が続いていたのに起こされたんだ」

「でも今後も大丈夫とは限らないでしょ!」

「あー言えばこう言うな」

「リムだって!」

「あくまで俺に力を貸すのがお前の役割だろ。邪魔されると困る」


 言外にもしこれ以上邪魔をするなら家に置いていくと、そう伝えたつもりだった。

 だけどエッセの脇を通り抜けようとした俺を、通せんぼするように手と触手を広げて立ち塞がってきた。

 その鬼気迫る表情は、命に代えてもここは通さないとでも言いたげだった。

 まるで何かを知っているみたいな……。


「……お前、人間が侵食されるところ、見たのか?」

「ッ」


 ビクンっと肩が跳ねた。触手たちがまるで怯えるように、あるいは身を守るように腕や脚に絡まっていく。

 モンスターの癖に、とは思わない。はっきりとわかる。エッセの内面はかなり人間に近い。感情移入もしやすいのだろう。その理由はわからないけれど、こんな表情を見せられたらもうそれは疑いようがない。


「……お前の気持ちはわかる」

「え」

「俺も見たことがある。目の前で、侵食されて、ダンジョンに喰われていくのを」


 纏う服ごと、沈んでいく少女。ダンジョンの地面と接する肌がひび割れ、まるで風化するように、崩れていくように沈む少女を、その顔を覚えている。

 目に焼き付いている。


「だからそれを見たくないってお前の気持ちはわかる」

「……大切な、人だったの?」


 たっぷりと時間をかけて、窺うように、絞り出すようにエッセは尋ねてきた。


「うん。俺の恩人だった。守りたかった……でも俺には力がなかった」


 エッセは俯いてしまってその表情を読み取れない。だけど、すぐにしゃがみこんでゴブリンの骨を拾い、他の戦利品もリュックに入れていく。


「ごめんね。リムの力になるって決めたのに……でも、嫌だよ。リムがそうなっちゃうの、私見たくない……」

「……悪い。俺の考えが足りなかった。でも他の探し方は知らないんだ。誰もわからないんだ。だからこれからも同じことをやる。けど、いつ俺を起こすかはお前に任せるよ。止めてくれることに文句は言わない」

「……うん」


 置いてあったリュックにガーゴイルの片翼を詰めて担ぐ。肩に食い込む紐がいつもより痛いのは気のせいじゃないのだろう。

 きっと俺は疲れている。自覚できていないだけで。


「帰ろう。きっとお前が正しい」


 エッセは目尻に滲む涙を拭いながら頷いた。

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