第18話 【厨二病】的脱獄囚チアガール姿の女

 ----『聖女祭』2日目。

 オレこと有賀刀祢はと言うと、校門前で待ち構えられていた蒼穹ヶ原紅葉に中へと連れこまれていた。


「いや、いきなり連れ込まれるとびっくりするんだが」

「事情は、携帯で送っていたはずだが? そう、定められし黙示録アポカリプスに書かれていた書物の通りに!」


 そう、オレはあの後、蒼穹ヶ原紅葉かのじょに無理やり連絡先を交換されたのである。

 そして蒼穹ヶ原紅葉に早めに来て欲しいと、三日月三言と話し合うのに一緒に同席して欲しいとメールにて頼まれた。

 オレはあの後、ちゃんとメールで断っておいたのだが、どうやら断ったことになってないみたいである。


「今から我は、ディーバ・ミコトに突撃し、急に解散してしまった事を謝る。しかしながら、1人では絶対に逃げてしまうので、我が逃げないように同席して欲しいのだ」

「そこまで分かってるなら、自制できんのか……出来んのかぁ……」


 自制できんのかと言った時点で、うつ向いてしまう紅葉を見て、無理な事を悟るオレ。

 まぁ、彼女なりに相当、勇気を振り絞った結果だと思うし、こうなった以上は同席するくらいなら付き合うべきなのだろう。


「おっ、来たようだな」

「----!!」


 そうこうしてるうちに目的の人物、三日月三言がこちらに向いて歩いているのが見えた。

 彼女は隠れているこちらにはまだ気づいていないようで、三言は花子と一緒にこちらへ向かってきていた。


「ほら、話すなら今だぞ?」

「うぅ、待つのだ。もう少し、そう、もう少し----具体的には、全ての人間が鴉を白と判断する時間ときまで」

「それ、普通に未来永劫、待ってくれと同義だからな!!」


 「ほら、さっさと行け」とオレが急かすと彼女は何度か「えっ、でもでも----」「烏はまだ黒かった……」など言い訳をしていた。

 しかし、無言で行けと睨むと、紅葉は瞳をうるうる輝かせて----端的に言えば、ほぼ涙目で三言の方に歩いていく。


「(よーし、後は紅葉が三言に話して、お互いに納得して終わりだな)」


 紅葉の言い分----自分と似た魔物を「気持ち悪い」と言われて、自分のことのように思ってしまったというのは、分からなくもない言い分である。

 けれども、紅葉の事をそう思っているかは別だし、三言に直接聞いてみた訳ではない。


「(三言の性格だと、色々言うだろうが、結局は紅葉と仲直りできるんじゃないだろうか)」


 それよりも、結局あの後は見たかった劇には案内してもらえなかったから、今日こそは見たいと言うのがオレの正直な意見である。

 まぁ最悪、昨日みたいなことがないようにガイドマップは手に入れてるから問題はないけど。


「ええっと、地図はっと……」


 オレはそう言って、場所の確認のために地図を大きく広げて---


 ----もふっ。


 しようとしたところで、オレの手が随分とモフモフしていることに気付いた。


「あれ……?」


 そのモフモフとした手を、いや身体全体がモフモフしている今の状況をオレは以前から良く知っていた。

 なにせ、ダンジョンで入っている時は、いつも・・・この姿なのだから。


「なんで、オレ----【着ぐるみ】の恰好に?!」


 そう、ダンジョンの外----聖リエック女学院という学院に居るはずのオレの恰好が、何故かダンジョンでいつも見る着ぐるみの恰好になっていたのである。


「なっ?! なんで、ダンジョンの中じゃないのに?!」

「----いたっ?!」


 と、オレが自分の恰好の変化に戸惑っていると、頭を抱えて痛がってる紅葉の姿があった。

 ----と言うか、あれ? 紅葉も恰好が変わってない?

 

「なんで、いきなり壁が? これは機関のエージェントの仕業なのか……?」


 むむむっと、紅葉はいきなり目の前に現れた緑色の壁をじっと睨んでいた。

 オレの恰好も大概だが、周囲の風景も変わっている。


 学校なのは確かだが、壁や床には遺跡のような模様が浮き出てるし、さっきまで三言との間には明らかになかった緑色の謎の壁も出ているし。


 というか、それよりも、紅葉の恰好の話だ!


「紅葉、その恰好はなんなんだ?」

「恰好……と言うか、ブレイド?! 何故に着ぐるみを着ている?!」


 いや、オレの恰好も大概だが、紅葉の恰好もヤバい。

 

 右目に眼帯、そして左腕に包帯をグルグルと巻き付いているのはそうなのだが----着ている服装が、チアガール姿なのである。

 薄い夏の水着のような扇情的な格好に、手にしているのは黄色のポンポン。

 ちょっと派手なチアガール姿と思えばそれまでだが、そう思えないように足には足枷から鎖がジャラジャラと巻き付いており、まるで囚人のようだ。


「なんだ、その脱獄囚チアガール姿は?」


 自分で言っておいてなんだが、なんだよ。

 脱獄囚チアガール姿って。


「むむむっ、これは我のダンジョンでの姿……利便性やらを追及した姿なのだが、なぜ今、この姿に----」

「利便性を追求したら、なんで脱獄囚チアガール姿になるんだよ」


 ていうか、という事は----2人とも、ダンジョンの姿にいきなり変身したって、こと?


【グォォォォッ!!】

「きゃあああ! 誰かあああああ!!」


 と、さらにおかしな事は続く。

 奥から、なにかの魔物の呻き声と、女の人の悲鳴が聞こえてきたのだ。


 見ると、頭にお皿を載せた変なゴブリン達が、文化祭に来た人達を襲っているのである。


 ----ダンジョンの中での姿。

 ----襲ってくる魔物。

 ----襲われている人達。


 そう、それはまるで……"ダンジョンの中"のような光景であった。



 どういう事なんだろうと思っていると、その答えは放送から流れ始めた。



『皆様、こんにちは。聖リエック女学院の生徒会長、高宮渚です。#嘘だけどね☆ #まぁ気にしないでよ

 ただいまより、『聖女祭』2日目のゲリライベント----"ダンジョン迷路"を開始いたします』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る