第16話 蒼穹ヶ原紅葉は調べたい
「----という事情があって、我が『聖女祭』は3日間という、
「なぁ、紅葉とやら」
三言と花子の2人から十分離れたところで、オレはここまで連れてきた紅葉に質問する。
そう、彼女と会った時に一番最初に感じた疑問を。
「----オレの名前は、どこで調べたんだ?」
彼女は、オレの『
オレの『とうや』という名前自体はそれほど珍しい訳ではないし、"
----そう、事前にオレの名前を知ってでもいない限り。
「……ふっ、なにを言ってるのだ、ブレイドよ。我は難読漢字やら、カッコイイ感じを調べるのが好きな
そんな我からして見れば、刀祢の漢字2文字を当てるなぞ、難しくはない話なるぞ? ブレイドよ」
「----これでも、か?」
と、オレは彼女の閉じていた手をガシッと掴むと、彼女が隠していたメモを奪い取る。
そこには、赤い目立つ文字で【~有賀 刀祢~~山田 花子~】と、オレ達の名前がしっかりと書かれていた。
先程、コイツは後ろから出てきたが、紅葉の恰好は……なんていうか、めちゃくちゃ目立つ。
良い所のお嬢様学校で、右目に眼帯、左腕にびっしり包帯を巻いているという、めちゃくちゃ中二病チックな格好をしている彼女は、遠くからでも普通に目立っていた。
遠くからこちらに近付いて来る彼女は、なにかメモを持ってこちらに近付いてきて、オレ達の前でメモを慌ててしまっていたから、何かあると思ったけど。
やはり、オレ達を調べてあったか……。
「ふっ、バレてしまったか。やはり我の類稀なる
ふーっ、と、蒼穹ヶ原紅葉は一息入れると、ガラッと雰囲気を変えていた。
「改めて紹介させてもらおう、我は蒼穹ヶ原紅葉。元、三日月三言のパーティーメンバーだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「我は色々な縁で三日月三言と袂を分かつ事となったが、彼女自身の事は嫌いになった訳ではなくてな」
中二病の喋り方を止めた彼女と、オレは校舎裏で隠れて話し合っていた。
どうも、中二病を止めた話ってのは、彼女は人に見られたくないみたいである。
「じゃあ、なんでパーティー解散になったんだ?」
「それは----これが原因だ」
と、紅葉はするするーっと、左腕に巻かれていた包帯をほどく。
包帯をほどかれたことで、彼女の綺麗な左腕が見えてきたのだが----そこには、何本もの緑色の線が、くっきりと刻み込まれていた。
「これは、魔力痕----これを知ってる者達の間では、【ライナー】と呼んでいるものだ」
===== ===== =====
【ライナー】
一部の者の身体に浮かび上がる魔力の線のこと。この線が深く、多いほど、扱える魔力の質や量が多くなると言われている
===== ===== =====
「我の【厨二病】としての能力は、周囲の環境に《スピリット》の靄----ホログラフを発生させ、巨大ドラゴンで攻撃する能力。ただ、呪文の詠唱に時間がかかり、なおかつダメージもゼロ!!」
「いや、普通にダメじゃないか。使うのに時間がかかる上に、ダメージもゼロだなんて」
「しかし、バグ効果----こちらが10回の攻撃を与えるまでは、どんなに時間がかかろうが動きを停止させるという効果ならば?」
それは……オレだったら、欲しいな。
基本的に大技、つまりは大きなダメージを与える技というのは、十分な溜めが必要だったりする。
それを上手く溜めるのが、戦闘における大事なところだったりするのだが、それを考えずに集中できると言うのならば、強いだろう。
「我が【厨二病】として活躍するたびに、徐々にうっすらと腕に浮かび上がって来て。まぁ、我の身体で、この能力を使うにはライナーがこれくらい必要なんだろう。
ライナーがこんなにはっきり出ているから、包帯で隠していたのだ。このライナーを隠すために」
「それが、その腕にくっきりライナーが出てる事が、パーティー解散の理由?」
「然り! 然り!」と、頭を大きく縦に振って頷く紅葉。
「以前、我と三言でパーティーを組んでいた頃、我に似たようなライナーがくっきり浮き出た魔物と戦った時があったんだ。
別にその魔物が強かったという事はなく、ただそいつと戦っていた時、三言はその時にその魔物にこう言ったのだよ」
----これは気持ち悪いんじゃね、って。
蒼穹ヶ原紅葉と良く似たその魔物を、三言はそうバッサリと言い放ったのである。
「別に彼女は、三言はそういう事なんて一切思わず、ただ自分が感じたままを言っただけ。それは分かっているが、自分の心の中にどうしても、その言葉が引っかかって……」
三言は、自分によく似たあの魔物を、気持ち悪いと言い切った。
もし仮に、彼女が自分のこの腕を、ライナーがたくさん入ったこの腕を見たら、同じように感じてしまうんじゃないか。
なにより、そんな事を考えてしまっている自分自身が、恥ずかしいと思ってしまった。
----だからこそ、蒼穹ヶ原紅葉は、三日月三言と分かれるという決断をしたわけなのである。
「でも、我は三言とパーティー解散したが、彼女のことが嫌いになった訳ではない。だから----」
「彼女と今、パーティーを組んでいるオレと花子の2人を見定めようとでも?」
コクリっと、首を振って頷く紅葉。
それに対して、オレは「はぁ~」と溜め息を吐く。
「あの、さぁ……」
オレはビシッと、紅葉に指を突き刺していた。
「そう言うのは、やはり自分でしっかり言うべきだぞ。三言に、直接」
別に、三言は彼女自身に「気持ち悪い」と言った訳ではない。
それなのに、自分に似ている相手に言ったからと言って、勝手に離れ、彼女と一緒にいる今のパーティーメンバーの見定めに入ろうだなんて。
「それなら、普通に彼女に話した方が良いと思うぞ? 中二病チックなさっきの喋り方ではなく、今のような喋り方で」
「でっ、でも、三言とは以前はさっきのような、中二病チック全開でしか喋ってないし……。
今のような喋り方は、ちょっと、いきなりは、ほんと……」
もじもじと、自信なさげに紅葉はそう言うのを、オレは
「勇気を出して、ちゃんと言え」
と、アドバイスするのであった。
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