第15話 聖女祭の『着ぐるみ』パーティー

 それから、数日後。

 遂に、聖リエック女学院の文化祭----通称『聖女祭』の当日。


 オレこと有賀刀祢と山田花子の2人は、聖リエック女学院の校門前に来ていた。

 既に多くの人間が、それも見るからに上流階級の人達が、校内へと入って行く。


「うぅ……お腹が……」


 そんな中、花子は校門に入って行く人達を見て、お腹を押さえて座り込んでいた。

 恐らく、あまりにも高貴な人達を見て、自分達があまりにもみすぼらしく見えてしまったために、身体が拒否反応を起こしているのだろう。


「(まぁ、オレも似たような感じだから、分からなくもないけど)」


 流石に自分達とは場違いな、高貴な人達が入って行くと、自分達も入って良いのかって心配になるよね。うん。

 けれどもオレらはこの聖リエック女学院に通う生徒----パーティーメンバーの三日月三言に正式に招待されたのだから、普通に入っても構わないのだが。


 なんとなく入り辛い雰囲気と言うか。

 校門前からでも分かるくらい、高貴な雰囲気が漂っていると言うか。


「とっ、刀祢さん……もう、帰りませんか? こっ、ここって、私達には不釣り合いと言うか……」

「いや、折角、ここまで来たんだし。それに帰ると、招待状をくれた三言に悪いし」


 でも、お互いに入り辛くなって、どうしようかと悩んでいると----


「……いや、2人して何してるん?」


 ----オレらを呆れた様子で見つめる三日月三言の姿があった。

 彼女は腕に【聖女祭実行委員】という腕章をつけ、ジトーッとした目を向けていた。


「校門前でなに時間無駄にしてんの? ほら、さっさと入るよ」


 ガシッと、三言は花子の首根っこを掴むと、校内へと入って行く。


「みっ、三言さぁ~ん!! まだ入る、心の、準備がぁぁ~?!」

「ほら、あんたも。さっさと」

「はっ、はいっ!!」


 オレは三言にギロッと睨まれ、静々と校内へと入って行くのであった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ほらっ、次はこのなんちゃってクレープでも食べましょうか」


 ビシッと、三言は【スイートクラス ゴージャスクレープ】と書かれた屋台を指差す。


「なんちゃって……? えっと、三言さん、どういう意味?」

「花子、それに刀祢……聞いて。笑顔で、『この金粉、うちの実家の研究によって果物並みに美味しくなってるんですよ!』と金粉クレープを差し出された時の、うちの気持ち……」


 遠い目をして、空を見上げる三言。

 オレはどう答えて良いか、分からなかった。


「金粉って……文化祭に出すモノ……? 普通に果物使った方が、良くない……?」

「え、えっとえっと……おっ、美味しいですよ?」


 パクリと、金粉クレープ(税込み560円という、絶対元が取れない奴)を美味しそうに食べる、花子。


「ごめんね、うちの高校って本当に頭おかしい、通称『アタオカ』だから。最新プロジェクターを使った"なんちゃってお化け屋敷"とか、教室から外で飛ぶドローンの的を狙い撃つ"なんちゃって射的"だとか----。

 いや、本当マジでアタオカだから。文化祭の領域、越えてんのよ」


 はぁーと溜め息を吐きながら、『聖女祭』のガイドマップを開く三言。


「で、どこ見て回る? 誘った手前、案内とか普通にするし」

「えっと……私は、食べ物関連を……」

「オレは出来れば、劇関連を見たいんだが……」


 流石にお食事系の店系のブースと、劇関連のブースは、どうやら完全に別ブースみたいだ。

 回るにしても、あまりに離れすぎている。


 どうしようかと三言が頭を悩ませていると----



「----ふーはははっ!! 悩んでいるようだな、我が同胞はらから! ディーバ・ミコトよっ!!」



 とーぅ、と、腕に包帯を巻いた、痛々しい女が現れる。

 ビシッと、決めポーズを華麗に取った彼女は、そのまま三言へ指を突き刺していた。


「えっ、なにあんた? 紅葉、どうしたん?」

「大方、違う所を見に行きたいのだろう、そこの異郷から来たりしオーバーカントリー・黒髪の男デスブラックよ!? ならば、この文化祭実行委員カンリシャたる我、獄滅炎魔導士インフェルノウィザードのメイプル様が案内しようではないか!」


 どんっと、大きく胸を張って手で叩いて、あまりに強く叩きすぎたのか「ゲホゲホっ……」とむせている彼女。

 腕に包帯、そして眼帯……さらにはこの痛々しい台詞の数々……。


「三言、こんなお嬢様学校にも中二病っているんだな……」

「残念ながら、刀祢。その紅葉は、職業ジョブでも【厨二病】だから」

「【厨二病】が、職業ジョブ……?」


 「いかにもっ!!」と、声高らかに宣言する紅葉。


「我、神々より選ばれし【厨二病】の申し子、その名も極滅炎魔導士インフェルノウィザードのメイプル! またの名を、蒼穹ヶ原紅葉なるぞ! 黒髪の男よ!」

「オレ、一応、有賀刀祢って名前なんだが……」

「そうか、とーや……『刀のかたしろ』か。ならば、ブレイドと呼んで置こうじゃないか!」

「ブレイドって……」


 ガシッと、紅葉はオレの手を取ると、そのまま三言と花子から離れていく。


「行くぞ、ブレイドよ! 光栄に思うが良いぞ、この極滅炎魔導士インフェルノウィザードのメイプル様に案内してもらえるのだから! 文化祭は、まだ始まったばかりなるぞぉぉぉぉ!!」

「えっ、ちょっ----!!」


 そして、オレは紅葉に無理やり連れていかれるのであった----。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「やれやれ……ようやく紅葉が出て行きましたね。同時に刀祢も連れてかれましたが」


 嵐のように来て過ぎ去ってしまった紅葉を、三言はやれやれと頭を押さえていた。

 まぁ、分かれる事は確定したようなモノなのだから、これで良いと、三言はそう思っていた。


「さて、と。うちらも行きましょうか……え? 花子? どしたん、急に?」


 三言は急にその場でしゃがみ込んで、めいいっぱい警戒モードで震えている花子を立ち上がらせる。


「あっ、あああ、あの人、三言さんの知り合いなんです……か?」

「まっ、ねっ。前に2人でパーティーを組んでて。それがどうかしたん?」



「あの人……前に、私の所に来て、三言さんの事を聞いてきた人、です」

「なに、それ。聞いてないんだけど」


 刀祢の事が心配になる、2人なのであった。

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