第14話 文化祭準備の、表と裏

 ----セントリエック女学院。

 その学校は規律と伝統、そして他の学校と比べ物にならない優秀さを見せつける伝統校である。


 『生徒は気品あれ、生徒は規律あれ、そして生徒は優秀であれ』。

 今時、こんな阿呆が考えそうな校則を遵守せよと教師一同が言うような学校がまともであるはずがない。


「----ふっ! 久しいな、月の名を与えられし女神、ディーバ・ミコトよ! 我とたもとを分かったのは、中学以来ではなかろうか!」

「えぇ、そうね……」


 だから、まともな人間も居ないのだろうなと、三日月三言はそんな風に考えながら、彼女----蒼穹ヶ原紅葉を見ていた。

 右目に眼帯を、そして左腕にびっしりと包帯を巻きつけた彼女の事は、学校でも常に話題に上がる有名人だった。


 眼帯に包帯という、目立ちまくるビジュアルだけではなく、学年成績首位を取り続け、さらにはバイオリンの大会では常に優秀賞以上は確実という----。

 まぁ、要するに天才と呼ばれる人種なのだ。彼女は。


「(【厨二病】でさえなければ、もっと人が集まったでしょうに……)」


 残念な人ですねぇ、と決して口に出さないようにして、三言は文化祭実行委員としての仕事に邁進まいしんする事にした。


 今、三日月三言と蒼穹ヶ原紅葉の2人は、学校の一室で文化祭実行委員としての仕事をしていた。

 ただの書類作業という下っ端作業なのだが、それでも三言はただ黙々と仕事をする。

 クラスメイト達に無理やり任命された文化祭実行委員なのだが、それでも任命された以上はそこそこ頑張る----それが三言なのだから。


「申請書類に不備がないかの確認だっけ? ……こっちとこっち、あとこれも不備はないね。うん、承認っと」

「承認っ! 承認っ! あっ、しょーにんっ!!」

「……あれ、ここ部員増えたとこじゃなかったっけ? うわ、名前書かれてないじゃん。これは後で渡すとして」

「ぺったんっ! ぺったんっ! あっ、ぺったーんっ!!」

「……これと、これ。こっちはダメで、これは後で確認っと」

正義ジャスティスっ! 正義ジャスティスっ! あっ、じゃすてーぃすっ!!!」


 ばんっと、三言は机を叩いて立ち上がる。


「どうした、我が同胞はらからよ? まだ仕事タスクは終焉になっておらぬぞ?」

「いや、普通に黙ってくれない? なによ、さっきから。ただ印鑑を押すだけっしょ?」

「ふっ、既に廃れ行く文化にも、極滅炎魔術師インフェルノウィザードのメイプルは、全力を尽くすのだ! 端的に言えば、ただ印鑑押すだけマジ辛い」


 それには激しく同意する三言であったが、同時に邪魔して欲しくないと強く思った。

 何故ならば、この文化祭に自分のパーティーメンバーを呼んでいるのだから。


 【着ぐるみ】、有賀刀祢。

 【弓使い】、山田花子。

 三言と最近、パーティーを組んでいる冒険者達。

 

 彼らと仲が良いか悪いかって言われれば----まぁ、良い方なんじゃないの、うん。

 そんな彼らには、この文化祭に来てくれるように招待状を送っている。



 ----折角、招待状を送ってるんだから、少しでも良い文化祭を見せたいし、ね。



 そう思いながら、三言は印鑑を押していく。


 そうやって作業している中、1つ、奇妙な申請書を見つけた。



『=模擬ダンジョン体験コーナー=

 現代社会に現れた未知の構造物、その名もダンジョン。ダンジョンでは多くの魔物や罠などの危険なところも多いですが、派手な魔法や豪快な剣筋など、惹かれるところも多くあります!!

 我々、株式会社トリプルスターは、魔物や罠などを出さず、職業ジョブの力を体験できる模擬施設の設置を格安でご提供いたします!!

 ただいま、我々は新入社員の実地研修、それに高校や大学での文化祭などでの出店など、数々の実績を持っております!!

 詳しい詳細は担当者までご連絡ください


 ;担当者  脇山萌々香わきやまももか



「……模擬ダンジョン体験コーナー?」


 奇妙な申請書類に首を傾げていると、バシッと三言の手から申請書が奪われた。


「ちょっ……?!」

「良いんじゃないか、模擬ダンジョン対策コーナー! 我は賛成するぞ、この企画!

 ふふんっ、ここはこの獄滅炎魔導士インフェルノウィザードのメイプル様が、ディーバ・ミコトに代わって審査してやろうじゃないか! 安心めされい、電話して大丈夫そうなら、実行委員会本部ウエノモノタチに、この我の方から打診しといてやろう!」


 そう言って、紅葉は申請書類を手にして、部屋の外へと出て行ってしまう。

 恐らくは、担当者の脇山萌々香とやらに電話をするつもりなのだろう。


「----大丈夫なのか、紅葉で?」


 ともかく他にも申請書類は、山のようにある。

 まずはそれから対処しようと、三言は作業にいそしむのでった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「----はい、我々はあの有名な四大名大と呼ばれる、帝京大学の文化祭! さらには最近、上場した企業のほとんどがその数年前から、新入社員研修と称しましてこちらのサービスを利用されております。

 えぇ、今まで聖リエック女学院のような、有名学校がこちらを利用してなかったことが、#本当に 我々の #知名度不足 でしてね……」


 模擬ダンジョン対策コーナー……担当の脇山萌々香わきやまももか

 またの名を【三大堕落】の【不老不死】担当、ダブルエムは電話越しで良い事を言い続けた。


 有名な学校なんかは、ほとんどがこのサービスを利用しているだとか。

 企業なんかもこれらを数年前から利用しているのだとか。

 相手が聞きたがっている、このサービスを利用できる信頼性に足る証拠を連ねていく。


「良く、あそこまで嘘を吐けますね。我が主は」


 本当は、全部、""なのに。


 そう口にするのは、このダブルエムによって生み出されしこの私、【《黒電話》赤鬼】である。

 身体が黒電話という、まぁ、自分でもなんだろうかって思うデザインをしているこの私の能力----それが、洗脳と呼ばれるヤツだそうだ。



 ===== ===== =====

 【《黒電話》赤鬼】 ランク;?

 1000年以上に渡って黒電話戦争を繰り広げる世界を閉じ込めた【世界球体=黒電話世界=】の力を得た、赤鬼の召喚獣。倒すと、スピリット系統職業の1つ、【黒電話】を使用することが出来るようになる

 周囲の電話回線に繋がることによって、相手に電話を通して洗脳効果をかけられる。この電話洗脳によって得られた情報は多くの人間に伝播でんぱし、得た情報と相違する物を見たとしても洗脳は溶ける事はない

 ===== ===== =====



 私はここで居るだけで、主の役に立つ道具と言う訳だ。

 主はこの私の能力を用いて、既に多くの学校やら会社などに、模擬ダンジョン対策コーナーとやらをどんどんと推進している。

 信頼できる情報を積み重ね、多くの所にこのコーナーを推進しているのである。


「(電話してる彼らは、いや彼女らは、気付いていないでしょうね。自分達が電話したために、洗脳にかかってしまい、この模擬ダンジョン対策コーナーを必ず、推進してしまうなんて。

 ほんと、主がこれから何をするかも知らずに……可哀そうに……)」


 模擬ダンジョン対策コーナー……そこに嘘偽りはない。

 皆が楽しく、そして仲良く、職業ジョブの良さというのを体感してもらう、素晴らしい出し物である。


 問題があるとすれば、その裏でやっている----副業。

 彼らは知らないでしょうね、自分達が導入した模擬ダンジョン対策コーナーによって、これから何が起こるかなんて。


「さぁ、行きましょう! 《黒電話》赤鬼! #忙しくなりますよ」

「……仰せのままに」


 ----せめて悪人がこの罠にかかりますように。

 叶わない願いを託し、私は主に付き従うのであった。

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