第13話 三日月三言と蒼穹ヶ原紅葉

 以前、三日月三言はとある冒険者と手を組んだことがある。

 これはその冒険者、蒼穹ヶ原紅葉そうきゅうがはらもみじと出会った頃の話だ。



 まだ彼女が【吟遊詩人】ということを誤魔化すための方法を考えていた。

 ただでさえ歌声にはあまり良いイメージはなかった上に、命題のせいで歌詞が自作ポエムオンリーだなんて、あまりにも恥ずかしすぎるため、【吟遊詩人】らしからぬ戦い方を模索していたのだ。

 暗殺者紛いの今の戦い方を確立しきれていなかった頃----彼女は、蹴りを主体とした戦い方を模索していた。


 なにかに殴り掛かる、剣などで斬りかかるなど、基本的に手を使った攻撃と言うのは普通の暴力に慣れてない人間にとっては、躊躇ちゅうちょしてしまう時がある。

 それに比べたら蹴るという行為は、ボールを蹴ったりする行為の延長線上だと思えば、三言にとっては「殴る」よりも身近な行為であったため、「蹴る」という戦い方を選んだわけなのである。


 だから当時は、某海賊漫画のコックさんみたいに、魔物対手に手を使わずに蹴り技オンリーで戦い抜くという、やっぱり【吟遊詩人】らしからぬ方法で戦っていたのだが。

 そんな異端の彼女からしても、蒼穹ヶ原紅葉という冒険者の戦い方は異端であった。


深淵の闇ダークアビスワールドより生まれし我が半身よ! 我が真名トゥルーリアルネームを呼びし時、その真なる姿を解き放ち、その龍の力ストロングフォースを皆に見せつけよ!

 必殺奥義、【永劫龍のエンシェントドラグーン雄たけび・シャウトハウリング】!!」


 彼女が長ったらしく奇妙な呪文を唱え終わると、ダンジョンらしい洞窟のような世界が真っ青なデジタル空間へと置き換わる。

 そして、そこに突如として現れたデジタルデータで出来たドラゴンは、ボス魔物----赤く巨大なオークへと襲い掛かる。


《GUOOOOOO!!》


 そして、巨大なドラゴンはその大きなあぎと……というか口を開けて、巨大オークに噛みつくのであった。

 巨大ドラゴンはオークに噛みつくと共に、その姿が消えていき、代わりに巨大オークはその場で動けなくなっていた。



 ===== ===== =====

 【厨二病】による ドラゴン攻撃

 ボス魔物 【赤三倍魔豚レッドドライオーク】に 0ダメージ

 同時に バグ効果 発動

 バグ効果により こちらの攻撃が10回当たるまで 動けません

 ===== ===== =====


 

 巨大ドラゴンはボス魔物にダメージを、一切与えなかった。

 しかしそれ以上にヤバい効果を、相手に与えていた。


 ----バグ効果。

 彼女の職業ジョブのみが与える事が出来るという、厄介な状態異常。

 これを受けると、こちらが10回の攻撃を与えるまでは、どんなに時間がかかろうが動きを停止させるという効果である。


「今が絶好の好機なるぞ! 出でよ、月の名を与えられし女神、ディーバ・ミコト!!」

「はいはい、行きますよっと」


 やっと自分の番かと、三言はそう言って巨大ボス魔物に蹴りを叩きこむ。

 彼女は【吟遊詩人】の効果で自分を最大強化し、脚に色々な効果を付与していたのだ。


 斬撃特性、追加。

 麻痺状態、追加。

 火傷状態、追加。

 攻撃力大アップ、追加。


 彼女の脚は剣のように良く切れる【斬撃特性】を付与され、その上で相手に【麻痺】と【火傷】を与えるという、なんでも乗せとけ状態になっていた。

 その上で、攻撃力も大幅にパワーアップされてるんだから、敵からして見たら溜まった物じゃないだろう。


 そして、ボス魔物たる巨大オークを見事に倒した三言たちパーティーだったが、残念ながらこのパーティーは長くは続かなかった。


 それは、三日月三言が【吟遊詩人】らしからぬ戦い方と、協調性が見えない行動をしていたから、とか。

 それは、蒼穹ヶ原紅葉がいちいち「くっ! 右腕が疼く! 止まれ、止まるのだっ、エンシェントカタストロフィー!!」と左腕・・を押さえるという、ツッコミどころが満載な事をめちゃくちゃ良く話しているから、とか。

 それは、パーティー全員が来年高校入学のために受験勉強しなければならない、とか。


 色々と理由はあっただろうが、ともかくこれ以降、三日月三言は有賀刀祢たちと一緒に冒険するようになるまで、ソロの冒険者として活動していたのである。



 ----と言う訳で、三日月三言は蒼穹ヶ原紅葉と別に仲良しと言う訳でもなく。

 なんなら、少し会わなかった時間があったから気まずい訳でして。



「えー、と言う訳で!! 今度の文化祭、うちのクラスの実行委員は、冒険者として一緒に活動していた事もある三日月さんと蒼穹ヶ原さんの2人に決定しました! 皆さん、拍手~っ!!」



 こうして、めちゃくちゃ拍手されるの、めちゃくちゃ気まずいんだけど。


「ふっ……久しいな。月の名を与えられし女神、ディーバ・ミコトよ! さぁ、我と共に最強無敵にして不滅不変の文化祭を、完遂させようぞ!!」


 蒼穹ヶ原紅葉がそう言って、手を差し伸べて握手を求められ、三言はひきっつた笑顔で相手するしかないのであった……。

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