第10話 【吟遊詩人】三日月三言

『……やっつけましたか』


 と、大画面スマホの中で、ダブルエムは冒険者達がやられたと理解していた。

 なにせ、この《かぐや姫》歯車兵長の、先程の重力魔法攻撃は、確実に決まったからだ。


『フロア全体を襲う重力魔法による、重力攻撃!! 自分の体重の何十倍もの圧が、一瞬で身体をぺっしゃんこにする!! この攻撃に耐えられるなど、あの3人組パーティーには無理! 無理! 無理!』


 ----あー、実に楽しかった!!


 ダブルエムはこの戦いをそう締めくくる。


『あの【着ぐるみ】の子には驚いたよ、まさか【蟹】の硬い防御を破るだなんてね。

 まさに #英雄 #今日のスレはここですか ってね!!』


 ダブルエムにとって、戦いとは娯楽である。

 なにせ、自分は不老不死----死ぬことがないからだ。

 だからこそ、若い冒険者が自分という強敵に挑み、そしてやられていく----


『まさに、不老不死たる私にしか許されない#娯楽 #愉悦ともいう』


 "さて、そろそろ帰ろうか"と、ダブルエムは撤収を考え始める。

 まずは、この《かぐや姫》歯車兵長からどう分離して、離脱しようか。

 そう考えていると----


「~~~♪」


 とても綺麗な、声が聞こえてきた。


『なにこれかわいい?! えっ、#アニメ声優 #CVだれこれ #めちゃスコれるんだが』


 可愛らしい、透き通るような声だった。


『やばい、めちゃくちゃアニメ声だわ~~!!』


 アニメ声----アニメのキャラクターのような可愛らしくて幼い声、舌足らずで甲高く、鼻にかかったような甘い声。

 子供よりも愛らしく、インパクト抜群の声。


 今、フロアに突如として流れたのは、そういうアニメ声の熱唱だった。


『だれこれ?! 速くネットで調べ----って、ありゃりゃ?!』


 と、そこで初めてダブルエムは異変に気付いた。

 自分の身体が、つまりは《かぐや姫》歯車兵長の身体が重く、思うように動かなくなっているのだ。


『まさか、これって----』



 ----どっかぁ~~ん!!



 ダブルエムの嫌な予感は的中した。

 

 大きな爆発音、いやそれに近いくらい吹っ飛ばされた瓦礫の音。

 その吹っ飛んだ瓦礫の下から、倒したはずの冒険者2人----着ぐるみ野郎と、派手派手弓使いの姿があったのだ。


『今の、彼らがやったの? これってやっぱ----』



 ===== ===== =====

 【吟遊詩人】による 詠唱効果


 《かぐや姫》歯車兵長withダブルエムに 攻撃力低下 発生

 《かぐや姫》歯車兵長withダブルエムに 防御力低下 発生

 《かぐや姫》歯車兵長withダブルエムに 行動力低下 発生


 有賀刀祢に 攻撃力上昇 発生

 有賀刀祢に 防御力上昇 発生

 有賀刀祢に クリティカル率上昇 発生


 山田花子に 攻撃力上昇 発生

 山田花子に 防御力上昇 発生

 山田花子に クリティカル率上昇 発生

 ===== ===== =====


 

 それは、歌。

 歌という名の、攻撃である。


『なるほど、暗殺者っぽい戦い方をしていた彼女は、【吟遊詩人】だったのか!!

 あれらはヘッドホンで、自分の歌を聞いて、強力な能力上昇バフをかけていたのか!!』


 それを今、自らの声にすることにより、味方には能力上昇バフを、そして敵である自分達には能力減少デバフをかけている……!!


『今まで使わなかったのは、恐らく----』


 と、ダブルエムは歌に、自分を追い込む彼女の歌に耳をすませる。



「恋して♪ うちの恋模様♪ わっふ~ん♪

 認めて♪ 冒険者稼業♪ ちょろびっち♪

 うちの攻撃、サイコウチョー♪ 相手はみーんな、ノックアウトぉ~♪」



 舌ったらずなアニメ声で、彼女は歌い上げる。

 恐らく顔は見えないが、彼女の顔は真っ赤だろう。


『なるほど、確かに恥ずかしい歌詞! #ネット晒せば #生きてけませんわ』


 ----どっかぁ~~ん!!


 と、状況を整理していたダブルエムに、被弾が!!

 重力魔法で、飛び道具を無効化していた彼女の《かぐや姫》歯車兵長の身体に、花子なる者が放った爆弾付きの弓矢が被弾していた!!


『ば、バカな?! 常時、重力魔法をかけてるのに、それを突破された?!

 やばい、この歌!! マジぴえんな状況だ!!』


 と、そんなダブルエムの目が、何故か彼を----着ぐるみを全て壊したはずの彼の姿が目に留まる。

 もう既に、全ての着ぐるみを破壊したはずなのに、何故だか嫌な予感がしてならない。


『----?!』


 その予感は、的中していた。

 

 彼は、着ぐるみを着ていた・・・・

 身体中に子蟹メカが張り付き、両腕が大きなハサミとなった、特殊な着ぐるみを。


 そう、ダブルエムは知らなかった。

 彼の着ぐるみとして手に入る魔物の条件が、ボス魔物の討伐ということを。

 そして、一番最初に行った攻撃が、"一般的なボス魔物と同等の力を持つ"、子蟹メカによる攻撃だったのも、彼女の失敗であった。


 有賀刀祢は、蟹メカを破壊する際、手持ち全てを消費した。

 しかし、彼は使っていなかった----この戦いで何十体も手に入った、子蟹メカの着ぐるみを。


 それを今、【継ぎ接ぎ】のスキルにより、遠距離相手に戦えるオリジナル着ぐるみとして作り上げたのだ。



「喰らえ、キャンサーロケット!!」



 彼のハサミが、大きなハサミがミサイルのように白煙と共にこちらに、《かぐや姫》歯車兵長の身体へ向かって来る。


『あわわわわ!! どうしよ、どうしよ!!?』



 そして、大きなハサミは《かぐや姫》歯車兵長の身体を貫き、歯車兵長は爆発する。



『ンゴーッッ!?』


 爆発に巻き込まれ、ダブルエムは飛んで行ったのであった。



 ===== ===== =====

 Dランクダンジョン《虚無の封印遺跡》のボス魔物を倒しました

 有賀刀祢は 《歯車兵長の着ぐるみ》を 使えるようになりました

 マナ系統職業【かぐや姫】が 解放されます

 確定ドロップとして、清魔石(小)が 3つ ドロップします

 確定ドロップとして、機械兵士のスペシャルアームズが 9つ ドロップします


 また、初回討伐特典として以下の物の中から、1つを選んで取得できます

 なお、2回目以降は討伐特典は発生いたしません


 1)【全自動修復道具箱】……周辺の機械の部品を集めて、自動的に修理・修復を行う、古代の道具箱。10回まで使用することが出来る

 効果;使用することで、素材を消費することで、機械系アイテムを修理することが出来る


 2)【古代龍装の矢筒】……古代の龍の強さに憧れた人々が生み出されたとされる、強力な弓矢のための矢筒。周囲の魔力を自動で吸収し、常に3本の古代龍装の弓矢を用意する

 効果;装備アイテム。装備することで、古代龍のブレス攻撃に匹敵する大ダメージ、そして火傷を与える事が出来る、古代兵装の弓矢を3本装填します。なお、全ての弓矢を使い切った後、【リロード】と叫ぶと、新しく矢が3本装填されます


 3)【忍者刀・黒薔薇】……古代文明が作り上げた、妖刀に匹敵する狂暴性と狂気さを兼ね備えた、凶悪な忍者刀。日本刀の特性である《折れず、曲がらず、よく切れる》を受け継いでおり、攻撃を受けても折れない特殊素材を用いている

 効果;装備アイテム。装備している時、自分と刀に狂暴性を付与するスキル《殺人鬼の鎧》を付与します

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